日本の洋式製鉄は大砲の需要を契機に始まったが、原料の選択では最初から将来の規模を見据えていた。大島高任氏は砂鉄銑では量も質も洋式製鉄の発展に追いつかないと見通し、1857年3月に釜石大橋で洋式高炉の建設を始めた[2]。たたら吹きの改良ではなく原料そのものを鉄鉱石へ切り替えた判断が、釜石を国内製鉄の起点にした。明治27年、高炉銑はようやく砂鉄銑を追い越した[2]。大島高任氏の見通しが国全体の実態になるまで、37年を要したことになる。
国産化の象徴として建てられた八幡製鉄所は、原料の調達を当初から国境の外に置いていた。用地は中国大陸から鉱石を輸入しやすい八幡に決まり、当初予定した内地鉄鉱も湖北省の大冶鉱石へ切り替えた[3][4]。炭は国内、鉱石は大陸という分担が、立地と設計の前提になった。第一次大戦で英国・インド・米国が鉄鋼輸出を禁じると、鋼材の輸入は完全に途絶した[3]。製品の途絶は大戦で顕在化したが、鉱石を大陸に置く構図はその後も改まらなかった。
日本製鐵の規模は、市場で勝ち取ったものではなく、法律で統合したものだった。1934年1月に官営八幡製鉄所と民間5社の合同で日本製鐵が発足し、1936年5月には大阪製鉄を買収した[7][5]。官営工場を出資して民間を取り込む設計は、需要を軍需が決める局面でこそ成り立った。住友金属工業の前身の新扶桑金属工業は、1949年に日本製鐵の外の系譜から設立された[8]。法律による統合は1950年の集中排除で解かれ、その系譜が再び一社となるのは2012年である。
集中排除で分割された八幡製鐵の20年は、失った規模を自力で取り戻す過程だった。1950年4月に日本製鐵の現物出資で発足した後、光・堺・君津と製鉄所を相次いで稼働させた[9][10]。製鉄所を増やすほど同業との価格競争は激しくなり、供給の調整が経営の課題に浮上した。1958年6月には公開販売制度が発足した[11]。設備の増強と供給の調整を一社の内側で両立させる道として、富士製鐵との合併が選ばれた。
新日本製鐵の30年近くは、世界最大の規模を得た直後から、それを縮める作業に費やされた。1970年5月に月末の資金繰りが80億円不足し、同年11月には粗鋼1割の減産を打ち出した[13][14]。1978年の第1次合理化案から第4次合理化まで合理化は4次に及び、1987年3月には営業損失200億円を計上した[15][16]。新素材やエレクトロニクスの事業部は、余剰の人員と資金を鉄の外で活かす場として設けられた。合併で得た規模は、需要の停滞期には固定費の重さに転じた。
1999年以降の再編は、買収される懸念から始まり、買収する立場に転じることで一巡した。2006年にミタルがアルセロールを買収し、2011年2月に新日本製鐵は住友金属工業との経営統合を発表した[17]。世界首位を失った後の国内統合は、規模の回復であり、海外資本への防御でもあった。2023年12月にはUSスチールの買収を発表し、2025年6月に完全子会社とした[18][9]。防御の規模を海外で使う以上、次は3Dの経営批判が問うた資本効率で成果を示す番になる。
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