筆者の見解
規模の一体化は自動では訪れない
この経営判断の核心は、合併が生んだ世界一の規模と、その規模が同時にもたらした内部摩擦とを、どう両立させるかという点にあった。旧二社の文化の違いは『水と油』と評され、意思疎通は会議の肥大化のなかで滞った。新日鉄の首脳部が性急な組織改編を避け、摩擦を経てこそ新しい合意ができ上がるとして合議による融和を優先したのは、統合の痛みを時間をかけて吸収しようとする選択だっただろう。規模の拡大が組織の一体化を自動的に約束するわけではないという事実を、発足直後の新日鉄は自ら体現していた。
もっとも、こうした統合の苦闘は、その後の高度成長のなかで次第に表に出なくなっていく。合理化効果は現れ、粗鋼生産で世界首位の座を長く維持する体制も整った。しかし巨大化に伴う摩擦と意思疎通の課題は、規模を追う経営が繰り返し直面するものでもある。四半世紀ぶりの再統合から半世紀を経て、日本製鉄はUSスチール買収という過去最大級のクロスボーダーM&Aへと進んだ。異なる文化を持つ組織をどう統合するか——1970年の発足直後に問われたこの課題は、規模を追う経営のたびに姿を変えて立ち返ってくるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月