豊田自動織機 トヨタ主導で非公開化 グループ主導で進めた上場からの退出

更新:

時期 2025年6月
当時の社長 伊藤浩一
論点 上場子会社の非公開化と資本関係の再設計
何をなぜ決めたか
概要

トヨタグループの源流企業である豊田自動織機を、トヨタ不動産が設立したSPCトヨタアセット準備が公開買付けで非公開化した判断。2025年6月3日に1株16,300円で開始予定が公表され、豊田自動織機の取締役会は賛同したうえで、応募するか否かの判断は株主に委ねる中立の立場をとった。

買付価格は2026年1月15日の開始時に18,800円、3月6日に20,600円へ引き上げられ、買付予定数226,373,268株に対する買付代金は4兆6,632億円となった。応募は191,087,116株で下限126,215,300株を上回り、買付け後の株券等所有割合は88.26%。2026年6月1日に上場廃止となった。

背景

発端はトヨタ自動車で、産業車両と物流ソリューションというモノの移動の領域をグループ内で牽引させ、自動車事業の競争力も強化する狙いから、非公開化を含む抜本的な施策の初期的提案を出した。買手をトヨタ自動車やその子会社に置かなかったのは、自動車OEMの視点にとらわれると次世代のモビリティ領域での成長を追えないという判断による。

代わりに立てたのが、グループ各社を株主としながら親会社を持たず、資本上・事業上の独立性を保つトヨタ不動産だった。豊田自動織機の1株当たり親会社所有者帰属持分は2024年3月期に19,472円へ達しており、株価はこの水準を下回って推移していた。

内容

資金は三層で組んだ。トヨタ不動産がSPCの親会社へ2,000億円を普通株式で出資し、トヨタ自動車が議決権のない優先株式で8,000億円を引き受け、決済後に豊田章男氏が10億円を普通株式で出資する。残りは三井住友・三菱UFJ・みずほ3行からの借入で、豊田自動織機自身が借入債務を保証し、子会社株式等を担保に差し出した。

買付期間は届出当初から3度延長されて45営業日に及んだ。その間にトヨタ不動産は2026年3月1日、7.7%を保有するエリオットと20,036,150株の応募契約を締結し、価格を20,600円へ引き上げている。取締役会の意見も1月14日に応募推奨へ改まった。

含意

上場廃止後は株式併合で株主を公開買付者とトヨタ自動車のみとし、2026年6月15日にトヨタ自動車の持分1兆2,576億円を自己株式として取得して、株主は公開買付者だけになった。保有していたトヨタ自動車・デンソー・豊田通商・アイシンの株式は各社の自己株式公開買付けへ応募して手放しており、グループ内の持ち合いはこの一連の取引でほどけている。

2026年3月期は公開買付けが開始される予定を踏まえて中間・期末とも配当を行わず、前期に280円だった年間配当は無配となった。

いつ何が起きたか 6件
筆者の見解
筆者の見解

上場の規律か、創業家の抱え直しか

この非公開化は、買手を誰にするかで性格が決まった取引だった。非公開化を言い出したのはトヨタ自動車でありながら、買手には立たない。自動車OEMの視点にとらわれれば産業車両と物流ソリューションの成長を追えないという理屈で、グループ各社を株主としながら親会社を持たないトヨタ不動産に担い手を委ね、豊田章男氏が10億円で個人として資本に加わった。支配権を掌握するのではなく、持たない主体を間に立てることでグループ全体の連携を深める——理屈としては筋が通っている。上場子会社という立場を外しながら、トヨタの子会社にもしない構図である。

もっとも、価格の推移はこの筋書きとは別の緊張を映している。16,300円で始めた提案は、開始時に18,800円、エリオットとの応募契約を挟んで20,600円まで上がった。それでも2026年3月期の1株当たり親会社所有者帰属持分22,537円には届いていない。トヨタ自動車株をはじめとする保有株式の含み益が持分を押し上げていた事情はあるにせよ、少数株主が受け取った価格は、帳簿上の持分を下回ったまま決着している。応募推奨へ意見を改めた取締役会の判断が正しかったかは、上場廃止によって市場が値付けをやめた以上、もはや検証されることがない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
非公開化の条件

非公開化の条件

科目 概要 備考
公開買付者 トヨタアセット準備㈱ トヨタ不動産が2025年6月9日に設立したSPC。資本金5,000円で、全株をトヨタアセット㈱が保有する
取引の形態 現金を対価とする公開買付け 株式併合によるスクイーズアウトと自己株式取得を合わせた一連の取引で非公開化する
公開買付価格 1株20,600円 2025年6月3日公表の16,300円を開始時に18,800円、2026年3月6日に20,600円へ引き上げた
プレミアム 4.30% 18,800円と届出前営業日2026年1月14日の終値18,025円との差。20,600円の水準は開示がない
公開買付期間 2026年1月15日〜3月23日 45営業日。届出当初の期間を2026年2月12日・3月2日・3月6日の3度にわたり延長した
買付予定数 226,373,268株 下限は126,215,300株(所有割合42.01%)。上限は設けていない
買付代金 4,663,289,320,800円 買付予定数に20,600円を乗じた額。買付手数料23億円等を加えた合計は4,665,633,320,800円
応募株券等 191,087,116株 下限を上回ったため、応募株券等の全部を買い付けた
買付け後の株券等所有割合 88.26% 特別関係者の議決権741,006個を含む。2025年9月30日現在の総株主の議決権が分母
決済の開始日 2026年3月30日 同日付で親会社、主要株主および主要株主である筆頭株主の異動が生じた
トヨタ不動産の出資 2,000億円 公開買付者の親会社トヨタアセット㈱への普通株式出資
トヨタ自動車の出資 8,000億円 議決権のない優先株式の第三者割当増資を引き受ける
豊田章男氏の出資 10億円 決済後に公開買付者親会社の普通株式を引き受ける。1株当たり払込価額の前提は買付価格と同一
借入と保証 三井住友・三菱UFJ・みずほ 2026年6月3日、豊田自動織機が借入債務を保証し、子会社株式等を担保に提供した
エリオットとの応募契約 20,036,150株(6.7%) トヨタ不動産が2026年3月1日に締結。関係者の保有は変更報告書で7.7%と記載されている
対象会社の意見 賛同および応募推奨 2025年6月3日は賛同のうえ応募中立。2026年1月14日に応募推奨へ改めた
スクイーズアウト 74,100,604株を1株に併合 2026年5月12日の臨時株主総会で決議し、6月3日に効力が発生した
上場廃止 2026年6月1日 東京証券取引所プライム市場および名古屋証券取引所プレミア市場
トヨタ自動車所有株式の取得 1,257,635百万円 2026年6月15日に自己株式として取得し、株主は公開買付者のみとなった

出所:豊田自動織機 有価証券報告書 第148期(2026年3月期)【後発事象】 / トヨタアセット準備 公開買付届出書(2026年1月15日)・訂正公開買付届出書(2026年3月6日)・公開買付報告書(2026年3月24日) / 豊田自動織機 意見表明報告書(2026年1月15日)

1株当たり指標と買付価格

豊田自動織機:1株当たり指標と買付価格

(円) 1株当たり親会社所有者帰属持分基本的1株当たり当期利益1株当たり年間配当金 備考
2021年3月期 10,422.64440.28150
2022年3月期 12,653.04580.73170
2023年3月期 12,359.66621.17190
2024年3月期 19,472.48736.86240 1株当たり持分が買付価格20,600円に迫る水準まで積み上がった期
2025年3月期 16,273856.96280 非公開化の初期的提案が出た期。1株当たり当期利益は過去最高
2026年3月期 22,537.25744.750 公開買付けの開始を踏まえ中間・期末とも無配。持分は買付価格を上回る
1株当たり親会社所有者帰属持分と配当
1株当たり親会社所有者帰属持分(円)1株当たり年間配当金(円)

出所:豊田自動織機 有価証券報告書 第143〜148期【主要な経営指標等の推移】(連結経営指標等・提出会社の経営指標等)

業績の推移

豊田自動織機:業績の推移

(百万円) 売上高営業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2021年3月期 2,118,302118,159136,700
2022年3月期 2,705,183159,066180,306
2023年3月期 3,379,891169,904192,861
2024年3月期 3,833,205200,404228,778 エンジン国内認証問題の調査結果を公表し、是正命令と型式指定取消しを受けた期
2025年3月期 4,084,984221,695262,312
2026年3月期 4,369,512137,023223,785 エンジン認証関連費用、人件費、米国関税などにより営業利益は38%減
売上高と営業利益率
売上高(百万円)営業利益率(%)

出所:豊田自動織機 有価証券報告書 第143〜148期【主要な経営指標等の推移】(連結経営指標等)

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

MBO による非公開化2023年大正製薬ホールディングス創業家による総額7,100億円のMBOと上場廃止資本政策と少数株主の利害
2015年ユキグニファクトリー投資ファンドの公開買付けへの賛同と、東証二部からの退出資本政策とガバナンス
2014年ローランド創業者の反発の中でのMBOによる非公開化非上場化による構造改革の加速と創業者との対立
2011年ホリプロ創業家の資産管理会社によるMBOと、東京証券取引所市場第一部の上場廃止上場維持の是非と非公開化
2006年すかいらーくホールディングス創業家と投資ファンドによる総額2,700億円超のMBOと東証一部からの非上場化上場の是非と構造改革の進め方
上場廃止2024年富士ソフト公開買付けへの賛同表明と、東証プライム市場からの退出株主構成の整備と非公開化の是非
2025年テクノプロ・ホールディングス東証プライム市場の上場廃止と、公開会社としての歩みの終わり上場維持と先行投資の速度
2026年日本板硝子1650億円の第三者割当と、株式併合による上場からの退出財務再建と資本構成の再構築
2026年MCJ創業会長が主導した非公開化と、上場企業としての立場の返上非公開化と資本政策
2026年三菱ロジスネクスト公開買付けの成立によるスタンダード市場からの上場廃止親子上場の解消と非公開化
参考文献
出典・参考
  • 豊田自動織機 適時開示「トヨタ不動産株式会社による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する賛同及び応募中立の意見表明のお知らせ」
  • 豊田自動織機 適時開示「トヨタ不動産株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する賛同及び応募推奨の意見表明のお知らせ」
  • トヨタアセット準備 公開買付届出書「株式会社豊田自動織機の株券等に対する公開買付届出書」
  • 豊田自動織機 意見表明報告書「意見表明報告書」
  • トヨタアセット準備 訂正公開買付届出書「訂正公開買付届出書(買付価格の変更)」
  • トヨタアセット準備 公開買付報告書「公開買付報告書」
  • 豊田自動織機 臨時報告書「臨時報告書(親会社および主要株主の異動)」
  • 豊田自動織機 有価証券報告書「第148期(2026年3月期)【後発事象】」

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