スウェーデンBTインダストリーズの買収による産業車両の世界首位

国内で築いたフォークリフト首位を、欧州の物流機器大手ごと取り込んで世界へ広げられるか

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時期 2000年4月
意思決定者 豊田自動織機製作所 取締役会
論点 海外M&Aによる産業車両事業の世界展開
概要
2000年、豊田自動織機製作所が、屋内用小型運搬機器で世界首位のスウェーデンBTインダストリーズを買収した経営判断。まず発行済株式の25.1%を取得し、段階的に90%超まで買い増して子会社化した。フォークリフト生産台数で世界一だった同社は、この買収で産業用運搬機器の全般でも世界トップシェアを確立した。
背景
豊田自動織機製作所は1956年にフォークリフトの自社生産を始め、トヨタ自販の全国販路を活かして国内首位を築いた。しかし欧州はBTや独リンデなど地場の有力メーカーが押さえる激戦地で、世界規模で産業運搬機器を手がけるには欧州市場の取り込みが欠かせなかった。
内容
2000年4月、ノルディコ・インベスト社とバンク・オブ・アメリカ・エクィティ・パートナーズからBT株の25.1%を買い取ると発表し、同年7月には77億クローネで90%超を取得した。産業用運搬機器の世界シェアは13%から21%へ上がり、買収後の連結売上高は58億ドル、全世界の従業員は約2万人の規模となった。
含意
国内首位のフォークリフト事業を、欧州で強い物流機器メーカーごと取り込んで世界首位へ引き上げた。買収したBTは現在のトヨタ マテリアルハンドリングヨーロッパにあたり、以後の産業車両・物流事業をグローバルに広げる最初の一歩となった。
筆者の見解

首位を守るために海外の首位を買う

この買収の核心は、国内で築いた首位を世界で守り抜くために、自前の成長ではなく現地の首位企業を取り込む道を選んだ点にある。生産台数で世界一といっても、欧州の販売網や屋内用小型機器の品ぞろえでは地場のBTに及ばなかった。時間をかけて欧州に食い込む代わりに、そこで強い会社ごと抱えることで、豊田自動織機製作所は産業運搬機器の世界シェアを一段で13%から21%へ引き上げた。国内で通用したトヨタ自販の販路という強みが、海外では通じない。その現実を、地場の首位企業ごと買うことで埋めた判断だった。

BTのブランドと欧州基盤を残したまま取り込む手法は、その後の海外M&Aの型となった。産業車両で確かにした世界首位を足場に、豊田自動織機は米カスケードの買収や、倉庫全体の自動化を担う物流ソリューションへの投資へと進む。祖業の織機に代わる柱を国内で育て、その柱を海外M&Aで世界規模へ広げるという流れが、2000年のこの一手からはっきりと見えてくる。首位を守るには世界の首位を買う——資本を厚く積んだ会社だからこそ選べたこの戦略が、以後の豊田自動織機の輪郭を決めた。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

国内で築いたフォークリフト首位と、欧州の壁

豊田自動織機製作所は、繊維機械に代わる自社製品として1956年にフォークリフトの自社生産を始めた。トヨタ自販がすでに築いていた全国の販売網を販路に用いたことで短期間に販売を伸ばし、1977年時点で国内シェア38%を占める首位のメーカーとなった。祖業の織機が構造的な不振に沈むなかで、フォークリフトは会社を支える主力の自社製品へ育っていた[1]

しかし、フォークリフトの世界市場に目を移すと、事情は違った。欧州はスウェーデンのBTインダストリーズや独リンデなど地場の有力メーカーが強く、日本の首位メーカーといえども容易には入り込めない激戦地だった。生産台数では世界一を誇りながら、屋内で使う小型の運搬機器や欧州の販売網では出遅れていた。世界の産業運搬機器で確かな地位を築くには、時間をかけて自前で欧州に食い込むより、現地で強い会社を取り込む方が近道になる。豊田自動織機製作所はその判断へ傾いた[2]

決断

BT株の段階取得と、世界トップシェアの確立

2000年4月5日、豊田自動織機製作所はBTインダストリーズの買収を発表した。まず筆頭株主のノルディコ・インベスト社と第2位株主のバンク・オブ・アメリカ・エクィティ・パートナーズから、発行済株式の25.1%を買い取る。フォークリフトの生産台数で世界一の豊田自動織機と、屋内用小型運搬機器で世界一のBTが組むことで、産業運搬機器の広い範囲を一挙にそろえる狙いだった。BTのブランドは欧州での知名度が高く、買収後も当分は残す方針を示した[3]

取得はここで止まらなかった。豊田自動織機製作所は2000年7月までにBT株を77億クローネで90%超まで買い増し、同社を子会社に収めた。この買収で、産業用運搬機器の全般での世界シェアは13%から21%へ上がった。買収後の連結売上高は58億ドル、全世界の従業員は約2万人にのぼり、国内首位の一メーカーから、欧州に厚い基盤を持つ世界規模の産業車両企業へと姿を変えた。BTの経営陣と労働組合も、この統合を長期の発展を保証するものと受け止めた[4][5]

結果

世界首位の産業車両事業と、物流への広がり

買収したBTインダストリーズは、のちにトヨタ マテリアルハンドリングヨーロッパへと再編され、豊田自動織機の欧州事業の柱となった。国内では2001年4月にトヨタ自動車からL&F(ロジスティクス&フォークリフト)の販売部門を譲り受け、フォークリフトの販売網を自社側に集約した。トヨタの一部門として始まった産業車両事業は、生産から販売まで豊田自動織機が自ら担う自立した事業へと整えられた[6]

産業車両事業の世界展開が進むなか、豊田自動織機製作所は2001年8月、商号を「豊田自動織機」へ改めた。祖業の織機はなお手がけながらも、産業車両・自動車部品・コンプレッサーを主力とする総合機械メーカーへ移った実態を映す社名変更だった。BT買収で確かにした産業運搬機器の世界首位は、その後の米カスケード買収(2013年)や、フォークリフト単品から倉庫全体の自動化へ広げる物流ソリューションへの投資(2017年)へと続く土台となった[7]

出典・参考