ユキグニファクトリーベインキャピタルによる株式公開買付けへの賛同と、東証二部からの上場廃止
創業家との争いを取締役の頭数で続けるか、株主ごと入れ替えるか──1株245円のTOBをめぐる2015年2月23日の取締役会
- 概要
- 2015年2月23日、雪国まいたけの取締役会が米投資ファンドのベインキャピタルによる1株245円・最大約95億円の株式公開買付けに賛同し、同年6月に東京証券取引所第二部の上場を廃止した経営判断。
- 背景
- 不適切会計の発覚で創業者の大平喜信社長が2013年11月に辞任した後も、一族は6割以上の株式を保有し続けた。2014年6月の定時株主総会では経営陣が入れ替えられ、創業家は臨時株主総会の招集許可を新潟地裁長岡支部から得ていた。
- 内容
- 鈴木克郎会長兼社長を中心とする経営陣が、ベインキャピタルとメインバンクの第四銀行ら6行の銀行団とTOBを用意した。第四銀行は大平元社長への融資の担保権を実行して応募し、ベインは過半数を確保できる見通しとなった。
- 含意
- 株主総会での多数決を繰り返す争いを、株主構成の入れ替えで終わらせた。非公開化後はまいたけ以外の事業を整理し、2017年に神明が株式49%を取得、2020年9月に東証一部へ再上場したが、借入の重さは残った。
株式の6割を握る株主を入れ替えるという解き方
創業家が6割の株式を持つ限り、株主総会が開かれるたびに取締役会は作り替えられた。2014年6月の定時株主総会がそれを実証し、2015年3月末までの臨時株主総会の招集許可は同じことの繰り返しを予告していた。鈴木社長らが選んだのは、取締役の頭数を争うことではなく、株主そのものを入れ替えることであった。第四銀行が大平元社長への融資の担保権を実行して担保株をTOBに応募したことで、6割という壁は議決権の争いを経ずに崩れたとみることができる。
ただ、この解き方には代償が残った。非公開化から6年を経た2021年3月末でも有利子負債比率は217.2%に達し、再上場時の基本戦略には財務体質の強化が並んだままであった。2014年夏の接触でベインキャピタルが描いていた、栽培の知見を事業に生かしてもらう形で創業者を迎える案は、35%という保有比率をめぐって流れている。統治の安定と創業者の技術を同時に取る道は、この時点では選べなかったとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
25億円の最終赤字と2%台に落ちた自己資本比率
雪国まいたけの財務は、TOBを受け入れる前にすでに傷んでいた。長野市を本拠とするホクトとの競争を背景にぶなしめじの生産増強を計画したものの、機械の不備やきのこ生産に使う菌の品質問題といったトラブルが続き、増強した設備は計画どおりの収穫を生まないまま費用だけを積み上げた。連結の最終損益は2012年3月期が25億円の赤字、2013年3月期が18億円の赤字となり、10年前には20%台だった自己資本比率は2012年度末に2%台まで落ちた[1][2]。
創業家が入れ替えた取締役会と折り合わなかった出資比率
大平元社長が経営から退いても、一族で6割以上の株式を保有する大株主であることは変わらなかった。雪国まいたけは改善報告書に、創業家兼大株主の影響を受けないよう適度な出資割合まで引き下げる方向で交渉すると記していたが、それが形になる前の2014年6月27日、定時株主総会で一族の反対により星名社長ら経営陣の再任が否決された。代わって一族が選んだ7人が取締役に選ばれ、うち1人がすぐ辞任して6人となる[4]。
会長兼社長に就いたのはホンダで専務まで務めた鈴木克郎氏で、大平元社長が社長に据えたかった旧スノーヴァ元社長の大塚政尚氏は社外取締役にとどまった。短期間で集めた取締役会に創業家の制御は及ばず、鈴木社長は反創業家の側に回る。一方、2014年夏にはベインキャピタルから大平元社長へ接触があり、キノコ栽培の知見を事業に生かしてほしいという打診を受けたが、35%以上の株式保有を求めた大平元社長と折り合わなかった[5][6]。
決断
臨時株主総会の招集許可と経営陣が用意したTOB
創業家と経営陣の対立は、製品検査の頻度をめぐって続いていた。星名前社長の退任を大平元社長が望んだ最大の理由は、毎日行っていた農薬・放射性物質・重金属の検査を月1回に減らす決定にあったが、鈴木社長のもとでも方針は変わらなかった。そこで大平元社長は鈴木体制に反発する取締役と組み、臨時株主総会で取締役4人を追加して取締役会を自らの支配下に置く方法を選び、実弟ら少数株主3人が招集を請求した[7]。
経営陣は、不適切会計が発生した当時の役員が取締役候補者に含まれると主張して開催に抵抗したが、新潟地裁長岡支部は2015年3月31日までの招集を許可し、株主名簿の閲覧も認めた。鈴木社長らが用意していたのが、ベインキャピタルによる株式公開買付けであった。買付価格は1株245円、買付総額は最大約95億円、買付期間は2月24日から4月6日までとし、ベインは非公開化のあとに経営陣と組んで統治体制と事業を立て直し、数年後の再上場を狙うとした[8][9]。
2015年2月23日の取締役会と第四銀行の担保権実行
2015年2月23日午後、東京都江東区の東京本部で開いた取締役会には6人の取締役全員がそろった。大塚氏ら3人はTOBの件を当日まで把握しておらず、鈴木社長らによる資料に基づく説明は30分程度で、その場で結論を求められた。あまりに拙速だという声が上がり、出席者の1人は退出する。残る5人のうち賛同派が3人で過半数となり、雪国まいたけがTOBに賛同することが事実上決まった。創業家側には何の連絡もなかった[10]。
買付けには、ベインキャピタルとメインバンクの第四銀行ら6行の銀行団、鈴木社長を中心とする経営陣が加わった。第四銀行は大平元社長が保有する株式を担保に融資しており、返済の遅延を理由に担保権を実行して買付けに応募する。その借入は雪国まいたけの株式を買うためのもので、1年半ほど前から約束どおりの返済ができなくなっていたと大平元社長は語った。銀行団の協調により、ベインは経営権取得に必要な過半数を確保できる見通しとなった[11][12]。
結果
BCJ-22による完全子会社化ときのこ以外の事業の整理
大平元社長の話しぶりは、TOBの発表から日を追って変わった。銀行が求めたのは返済ではなく臨時株主総会をやめることだったとしたうえで、納得はいかないものの、会社もベインも銀行も賛成していることに反対はしない、TOBには応じることになるのではないかと語る。雪国にはもう戻らないとも述べ、不適切会計を認めた判断についても、上場廃止になったとしてももっと争えばよかったと振り返った[13][14]。
TOBは成立し、雪国まいたけは2015年6月にベインキャピタルの受け皿会社であるBCJ-22の完全子会社となって、東京証券取引所第二部の上場を廃止した。同年10月にはBCJ-22を存続会社とする合併により、商号を雪国まいたけへ戻す。非公開化のあとは事業の絞り込みが進み、2016年8月にもやしと生コンクリートを手がける雪国バイオフーズの株式をサラダコスモへ譲渡し、2017年4月には中国でまいたけを生産していた子会社の株式を手放した[15][16]。
神明の49%出資と2020年9月の東証一部再上場
株主も入れ替わった。2017年7月、コメ卸最大手の神明がベインキャピタルから株式49%を取得すると発表し、取締役を派遣したうえで3年後をめどに再上場を目指すとした。国内では2019年3月に米国の子会社2社を譲渡し、2020年2月にはカット野菜と納豆の製造出荷を終える。2020年4月に持株会社との合併で法人格を一つにまとめ、同年9月、東京証券取引所市場第一部へ上場して、上場廃止から5年3カ月で株式市場へ戻った[17][18]。
再上場にあたって掲げた中期的な基本戦略は6点で、プレミアムきのこ総合メーカーとしての基盤確立、まいたけでの圧倒的No.1の達成と維持、生産・包装の技術革新、機能性ときのこ高品質化の研究、財務体質の強化、独自モデルの海外展開への準備を並べた。2021年3月期の売上収益は345億円、営業利益は78億円、親会社株主に帰属する当期純利益は47億円。一方、2021年3月末の有利子負債比率は217.2%で、有利子負債の圧縮と自己資本比率の向上を課題に挙げた[19][20]。
- 週刊東洋経済 2015年3月21日号
- 日本経済新聞 2015年2月23日
- 日本経済新聞 2017年7月21日
- 雪国まいたけ 有価証券報告書【沿革】
- 雪国まいたけ 有価証券報告書(2021年3月期)「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」