全国保証東京証券取引所市場第一部への新規上場と公募増資の実施
資金を集めるためか、保証の格を上げるためか——非上場のまま7兆円を保証していた会社が上場に求めたもの
- 概要
- 2012年12月19日、全国保証が東京証券取引所市場第一部へ新規上場した経営判断。二部を経ない直接上場で、上場前日には公募増資735万株を実施し、翌2013年1月のオーバーアロットメントに伴う第三者割当と合わせて80億8,000万円を調達した。
- 背景
- 2012年3月末の保証債務残高は7兆6,371億円、提携金融機関は672機関に達していた一方、株主は46名で金融機関が82.58%を握る非上場会社であった。2009年7月には投資事業組合と生命保険会社を割当先とする第三者割当で外部資本を受け入れていた。
- 内容
- 2012年9月25日に1株を100株へ分割して単元株制度を採り、12月18日にブックビルディング方式で735万株を発行価格980円で募集した。払込金総額は67億7,000万円、翌年1月の第三者割当13億1,000万円を加え、資本金は26億円から106億8,100万円になった。
- 含意
- 会社が上場のメリットとして挙げたのは調達額ではなく、上場して安定配当を続ければ金融機関の資産査定で全国保証の保証付案件が「優良保証」に分類される点であった。上場は資本政策であると同時に、提携先を増やすための営業条件でもあった。
上場で買ったのは資金ではない
上場のメリットとして会社が真っ先に書いたのは、調達額でも知名度でもなく、金融機関の資産査定であった。上場して安定した配当を続ければ、自社の保証が付いた案件は優良保証に分類され、提携先は引当金の負担を軽くできる。7兆円を保証していながら、非上場のままでは保証の確からしさを相手に説明する手立てが乏しかった。80億8,000万円という調達額は、735万株の新株を出した対価としては小さい。この上場で買ったものは資金というより、保証を売るときに提示できる格であったとみられる。
ただし、その格は無償ではなかった。優良保証として扱われる条件が「上場し安定した配当を実施すること」である以上、配当を絞れば営業条件のほうが傷む。住宅市場が縮む見通しは上場申請の書類自身が認めていたことで、そのなかで残高と利益を伸ばし続ける立場を自ら選んだ形になる。2009年に1株53,000円で株を引き受けた投資事業組合と生命保険会社は上場後に持分を減らし、2014年3月末には外国法人等が25.77%を占めた。静かな非上場会社が、四半期ごとに数字を問われる会社へ変わった代償ともいえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
7兆円を保証する非上場会社
上場を申請した時点の全国保証は、規模と知名度が釣り合わない会社であった。2012年3月末の保証債務残高は7兆6,371億円、提携金融機関は672機関に達していたが、従業員は執行役員を含めて197人にすぎない。株主は46名で、所有株式数の82.58%を金融機関が握り、富国生命保険と明治安田生命保険がそれぞれ10.00%を持つ筆頭株主に並んでいた[1][2]。
資本を外から入れる動きは上場の3年前に始まっていた。2009年7月31日、全国保証は1株53,000円で56,560株を発行する第三者割当を実施し、資本金が24億円、資本準備金が5億9,700万円増えた。割当先はNIFSMBC-V2006S3投資事業有限責任組合と富国生命保険、明治安田生命保険である。投資ファンドが株主に入った時点で、いずれ株式を市場で売れる状態にする必要が生まれていた[3]。
保証会社の信用が、そのまま営業条件になる
信用保証は、保証する側の信用がそのまま商品の質を決める商売である。会社は上場のメリットとして、資金調達ではなく金融機関の資産査定を挙げた。上場して安定した配当を実施すれば、全国保証の保証が付いた案件は資産査定において「優良保証」という位置づけになり、金融機関は資産査定の見直し作業や引当金の負担を軽くできる[4]。
材料を必要とする事情もあった。当時の年間新規貸出額19兆円という民間住宅ローン市場に対し、全国保証の保証シェアは数%にとどまり、住宅市場そのものは少子高齢化により中長期的に縮む見通しであった。縮む市場でシェアを取りにいく以上、未提携の金融機関を口説く理由を増やさなければならず、上場はその理由として使える札であった[5]。
決断
二部を経ない一部への上場
準備は2012年の夏から秋にかけて進んだ。7月17日の取締役会決議により、9月25日付で普通株式1株を100株に分割し、あわせて1単元を100株とする単元株制度を採用した。発行済株式総数は256,560株から25,656,000株になった。そして12月19日、全国保証株式は東京証券取引所市場第一部に上場した。二部や新興市場を経ない、一部への直接の新規上場である[6][7]。
上場の前に、資本をめぐる係争を片付けてもいた。新株予約権の権利行使によって発行した普通株式36,000株について、発行の有効性を争う訴訟が起き、2009年3月19日に東京地方裁判所が発行を無効とする判決を言い渡していた。2012年4月24日に最高裁判所が上告を棄却して判決が確定し、発行済株式総数は36,000株減の256,560株となり、資本金と資本準備金も減額された[8]。
公募増資を伴う上場
上場は既存株主が売り抜けるだけの機会にはならなかった。上場前日の2012年12月18日、全国保証はブックビルディング方式による有償一般募集で7,350,000株を発行した。発行価格は980円、引受価額は921円20銭で、払込金総額は67億7,000万円である。分割後の発行済株式総数25,656,000株に対し、3割近い新株を市場に出した計算になる[9]。
翌2013年1月21日には、オーバーアロットメントによる売出しに関連した第三者割当として、大和証券に1,423,100株を同じ条件で割り当て、13億1,000万円を払い込ませた。二度の発行で調達した資金は合わせて80億8,000万円、資本金は26億円から106億8,100万円へ膨らんだ。保証会社にとっての資本は、引き受けられる保証の量と、金融機関から見た保証の確からしさを同時に支える[10]。
結果
上場を材料にした提携先の開拓
上場の効き目は、翌年度の営業報告に現れた。2014年3月期、全国保証は上場による信用力向上のメリットを使って地方銀行を中心に営業し、銀行7行・信用金庫4金庫・農協4組合の計15機関と新たに保証基本契約を結んだ。提携金融機関はその後も増え続け、2026年3月末には707機関に達している。上場前の672機関から、14年で35機関の積み増しであった[11][12]。
収益も伸びた。上場した年度の前にあたる2012年3月期の経常利益は50億円であったが、2017年3月期には290億円、2026年3月期には466億円になった。2014年3月1日には1株を2株に分割し、2022年4月には東証の市場区分見直しに伴ってプライム市場へ移った。上場によって得た資本と信用は、2018年以降の地方信用保証会社の買収にも使われている[13][14]。
入れ替わった株主
株主の顔ぶれも変わった。上場前に46名だった株主は2014年3月末に2,244名となり、所有株式数に占める金融機関の割合は82.58%から65.16%へ下がった。代わりに増えたのが外国法人等で、25.77%を占めるまでになった。個人その他は4.97%である。市場に出した3割弱の新株と、既存株主の売却が、株主構成をこの2年で作り替えた[15]。
非上場時代から支えた生命保険会社は、比率を下げつつ残った。2014年3月末の大株主は富国生命保険が9.00%、明治安田生命保険が7.45%、太陽生命保険が6.20%である。上場前に10.00%ずつを持っていた二社は、市場の参加者と席を分け合う立場になった。創業者やその一族の名前は、上場の前後を通じて大株主の上位に現れない[16]。
- 全国保証 新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)(2012年)
- 全国保証 有価証券報告書(2014年3月期)
- 全国保証 有価証券報告書(2013年3月期・単体)
- 全国保証 有価証券報告書(2026年3月期・連結)
- 全国保証 公式サイト「会社沿革」
- 全国保証 公式サイト「全国保証の強み」