ゆうちょ銀行郵政民営化でのゆうちょ銀行開業:国営の郵便貯金事業を条件付きの銀行免許で民間銀行へ移した選択

更新:

時期 2007年10月
論点 国営の郵便貯金事業をどのような銀行として建て直すか
概要

2007年10月1日、郵政民営化関連6法の施行によって日本郵政公社が解散し、郵便貯金事業は前年に設けられた準備会社へ承継され、株式会社ゆうちょ銀行の名で開業した。1875年に国の直営事業として始まった小口貯蓄の受け皿が、ここで銀行法第4条の免許を受けたものとみなされる一民間銀行になった。

ただしその免許には条件が付いていた。銀行の看板を得た代わりに、預入限度額と新規業務の認可制という、他の銀行には課せられていない規制を負ったまま走り出した。

背景

郵便・郵便貯金・簡易生命保険は国の直営事業として運営されてきたが、1996年11月に発足した行政改革会議が「官から民へ」の視点で行政機能の減量・効率化を求め、三事業一体で新たな公社により運営することがまず決まった。2001年1月に郵政省は総務省と郵政事業庁へ再編され、2003年4月に日本郵政公社が発足した。

2001年4月の小泉内閣の発足で、郵政事業の民営化は「聖域なき構造改革」の重要課題の一つに据えられた。2004年9月には公社の4機能をそれぞれ株式会社として独立させ、純粋持株会社の子会社とする基本方針が閣議決定され、関連6法案は衆議院での一部修正、参議院本会議での否決、衆議院解散・総選挙を経て、2005年10月に成立した。

内容

承継先の会社は前年に用意されていた。2006年9月、日本郵政の全額出資子会社として準備会社「株式会社ゆうちょ」が設立され、民営化の日にこれが商号を変えて銀行になった。免許は郵政民営化法第98条第1項によるもので、新規業務を行うときは内閣総理大臣の承認を要すること、銀行代理業者への継続的な業務委託がされていることの2つが条件として付いた。

負った制限はそれだけではない。一の預金者から受け入れられる貯金は振替貯金を除いて1,000万円まで、資金の貸付けと手形の割引は認可を要する新規業務、銀行を子会社とすることは不可、合併・会社分割・事業の譲渡は認可がなければ効力を生じない、という枠がはめられた。

含意

免許は得たものの、銀行として当たり前にできることの多くは認可の向こう側に置かれた。開業から2か月後の2007年12月にシンジケートローン(参加型)や金利スワップ取引等、翌2008年4月にクレジットカード業務と住宅ローン等の媒介業務の認可を取り、できる業務を一つずつ取り戻す形で範囲を広げていった。

預入限度額は1,000万円のまま9年続き、2016年4月に1,300万円へ、2019年4月には通常貯金と定期性貯金を別枠として合わせて2,600万円まで緩んだ。これらの規制が外れる条件は郵政民営化法第104条が定めており、親会社である日本郵政の持株比率がその鍵を握る形になっている。

筆者の見解

免許と引き換えに差し出したもの

この民営化は、国営事業が民間企業になった瞬間として語られやすい。しかし条件表を並べ直すと、見えてくるのはむしろ逆の構図であるように思われる。ゆうちょ銀行が手にしたのは銀行の看板であり、差し出したのは銀行としての自由度であった。貸付けも、子会社の保有も、合併も、まず認可を通さなければ動かせない。預かれる金額にすら上限が置かれた。国内最大の預金量を持ちながら、集めた資金を自ら貸すことは原則として認可の向こう側にある銀行が、こうして生まれた。

もっとも、この縛りは競争条件を均すための装置でもあり、規制が外れる条件は最初から法律に書き込まれていた。鍵は親会社の持株比率で、日本郵政が株式の2分の1以上を処分すれば認可は届出へと軽くなる。開業から18年を経て、その水準にようやく手が届いた。銀行になった日に受け入れた縛りを解く作業が、その後の経営の主題であり続けたとみることができる。免許を得ることと、普通の銀行になることは、この会社にとって別の出来事であった。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

銀行免許を得た条件と、受け入れた縛り

科目 概要 備考
民営化の実施日 2007年10月1日 郵政民営化関連6法の施行により日本郵政公社が解散した日
承継の枠組み 5つの承継会社と管理機構へ引き継ぎ 日本郵政・郵便事業・郵便局・当行・かんぽ生命保険と、郵便貯金・簡易生命保険管理機構
承継先の会社 準備会社「株式会社ゆうちょ」の商号変更 2006年9月に日本郵政の全額出資子会社として設立した会社を、開業日に改称した
銀行免許 銀行法第4条の免許を受けたものとみなす 郵政民営化法第98条第1項による。有効期間の定めは置かれていない
免許に付いた条件① 新規業務は内閣総理大臣の承認を要する 郵政民営化法第110条第1項各号に掲げる業務。認可には総務大臣も加わる
免許に付いた条件② 銀行代理業者への継続的な業務委託 郵政民営化法第8章第3節の規定の適用を受ける間、委託を続けることが条件となる
預入限度額 一の預金者から1,000万円 振替貯金を除く。通常貯金と定額・定期貯金の合算で、財形貯金は別に550万円
貸付けの制限 資金の貸付け・手形の割引は認可が要る 預金担保・国債担保・地方公共団体向け・コール資金等は認可の対象から外れる
子会社保有の制限 銀行を子会社とすることはできない 子会社対象金融機関等の子会社化にも2大臣の認可が要る(同法第111条)
組織再編の制限 合併・会社分割・事業譲渡は認可が要る 認可がなければ効力を生じない。金融機関との合併等は認可されない(同法第113条)
窓口の担い手 郵便局網との銀行窓口業務契約 自前の店舗網を持たず、契約に基づいて郵便局の窓口を使う形をとった
規制が外れる条件 日本郵政が株式の2分の1以上を処分 2大臣が競争関係を阻害しないと認めた日以後は適用されない(同法第104条)
開業後に取った認可 2007年12月・2008年4月 シンジケートローン参加型・金利スワップ等と、クレジットカード・住宅ローン媒介

出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第10期(2016年3月期)【沿革】【事業の内容】(参考)【事業等のリスク】/第19期(2025年3月期)【沿革】【事業の内容】(参考)

ゆうちょ銀行:預入限度額の推移

(万円) 預入限度額 備考
2007年10月 1,000 通常貯金と定額・定期貯金の合算。振替貯金は対象外で、財形貯金は別に550万円
2016年4月 1,300 合算のまま1,000万円から引き上げ。開業から9年で最初に緩んだ規制
2019年4月 2,600 通常貯金1,300万円と定期性貯金1,300万円に区分。合計で2,600万円となる
一の預金者から受け入れられる貯金の上限
預入限度額(万円)

出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第10期(2016年3月期)【事業の内容】(参考) 預入限度額 / ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第19期(2025年3月期)【事業の内容】(参考) 預入限度額

ゆうちょ銀行:貯金残高・貸出金残高・経常利益の推移

(百万円) 貯金残高貸出金残高経常利益 備考
2003年3月期 日本郵政公社の発足前。郵便貯金は国の直営事業で、会社としての計数はない
2004年3月期 日本郵政公社の計数。当行の会計期間は2006年9月の設立後から始まる
2005年3月期
2006年3月期
2007年3月期
2008年3月期 民営化して開業した期。この期の計数は会社の公表資料で照合できていない
2009年3月期
2010年3月期
2011年3月期 主要な経営指標等の推移で遡れるのは2012年3月期まで
2012年3月期 175,635,3704,134,547576,215 総資産は195兆8,198億円。貯金は総資産の9割を占める
2013年3月期 176,096,1363,967,999593,535 貸出金は総資産199兆8,406億円の2.0%。免許を得ても貸出は限られた

出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第10期(2016年3月期)【主要な経営指標等の推移】

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出典・参考
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第10期(2016年3月期)【沿革】【事業の内容】(参考)【事業等のリスク】【主要な経営指標等の推移】」
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第19期(2025年3月期)【沿革】【事業の内容】(参考)」

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