日本郵政公社の投資信託募集業務開始(2005年・ゆうちょ銀行の決断)

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論点窓口で投資信託を販売するか
ゆうちょ銀行:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
他社商品の窓口販売で手数料を得る収益構造への転換

何をなぜ決めたか:他社商品の窓口販売で手数料を得る収益構造への転換

概要

2005年10月、日本郵政公社が投資信託の募集業務を開始した。郵便貯金事業は1875年の創業以来、預かった資金を国が運用して利ざやを取る方式で収益を立ててきたが、ここで初めて、他社が設定した運用商品を郵便局の窓口で取り次いで手数料を得る手段が加わった。

同じ月には郵政民営化関連6法が特別国会で可決・成立している。2年後に郵便貯金事業を承継した株式会社ゆうちょ銀行は、この業務を持った状態で銀行として開業した。

背景

1996年11月に発足した行政改革会議は、行政機能の減量・効率化の一環として郵政事業も国の直営を改め、「三事業一体として新たな公社」により運営することとした。2002年7月31日に郵政公社化関連4法が公布され、2003年4月1日に日本郵政公社が発足する。

2001年4月に発足した小泉内閣は、財政・税制・規制・特殊法人の改革や地方分権の推進とともに、郵政事業の民営化を「聖域なき構造改革」の重要課題の一つに据える。2004年9月には、窓口サービス・郵便・郵便貯金・簡易生命保険の4機能をそれぞれ株式会社として独立させる「郵政民営化の基本方針」が閣議決定されている。貯金が単体で採算の合う会社として立つことを求められる日程は、この時点で見えていた。

内容

募集の取扱いは、自ら資金を運用する業務ではない。証券投資信託の募集の取扱い等は金融商品取引法第33条第2項に定める登録金融機関の業務にあたり、預かった資金を自らの貸借対照表に載せずに商品を取り次いで、役務取引等収益を受け取る方式をとる。

売り場も自前ではない。2007年の民営化後は、銀行代理業および金融商品仲介業に係る業務の委託契約に基づき、貯金の受払いとあわせて国債・投資信託の募集の取扱等を日本郵便へ委託している。その対価である基本委託手数料は、貯金や投資信託等の預かり資産に係る事務等について平均総預かり資産残高に料率を乗じて算出し、この残高は貯金平均残高と投資信託平均残高の合計値である。

含意

2026年3月期の投資信託・ゆうちょファンドラップの残高は3兆5,194億円、販売金額は6,469億円で、残高は2017年3月末の1兆3,101億円から2.7倍になった。ただし投資信託関連手数料は136億円で、単体の役務取引等利益1,657億円の8%にとどまる。為替・決済関連手数料999億円、ATM関連手数料376億円に次ぐ3番目の位置は、20年を経ても変わっていない。

一方で、商品を作る立場に転じる動きは続いている。2015年11月にJP投信へ出資し、2022年3月に投資一任契約の締結の媒介業務の認可を取得して同年5月に取扱いを始め、2026年4月にはJP投信とJPインベストメントの合併によりゆうちょアセットマネジメントが発足した。

いつ何が起きたか11件
考察:窓口を売り場に変えた20年
考察

考察:窓口を売り場に変えた20年

この決断が変えたのは、郵便局の窓口の意味であっただろう。1875年以来、窓口は貯金を預かる入口であって、集めた資金をどう運用するかは中央が決める仕事だった。投資信託の募集をそこへ載せた瞬間、窓口は預かる場所であると同時に売る場所になり、収益は預かった資金の厚みだけでなく、その窓口で何が売れたかにも左右されるようになる。銀行になる2年前に、公社の段階でこの形を作っておいた意味は小さくない。郵政民営化法が認可を求めるのは民営化時に認められていなかった業務であり、公社が先に始めた募集業務はそこに含まれないことになるからである。

もっとも、20年を経た手数料の姿は、この読みほど鮮やかではない。2026年3月期の投資信託関連手数料は136億円で、役務取引等利益の8%にすぎない。残高は3兆5,194億円まで伸びたものの、186.1兆円の貯金を有価証券で運用するという稼ぎの本体は動いておらず、窓口を売り場に変える選択は収益源を入れ替えるところまでは届かなかった。2026年4月に発足したゆうちょアセットマネジメントは、他社の商品を取り次ぐ側から自ら作る立場に転じる動きであり、20年前に開いた道をどこまで伸ばせるかが、ここで問われることになる。

Yutaka Sugiura, 2026年9月
数字で見る2表

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図と表

ゆうちょ銀行:投資信託の販売金額・残高と投資信託関連手数料

残高(百万円)投資信託関連手数料率(%)
ゆうちょ銀行:投資信託の販売金額・残高と投資信託関連手数料
(百万円)販売金額残高投資信託関連手数料備考
2017年3月期544,3991,310,15110,549第12期に前事業年度の値として載る。残高は投資信託の純資産残高
2018年3月期737,8781,642,30119,036販売金額の増加とATMの設置拡大により、役務取引等利益は98億円増
2019年3月期891,0752,285,94722,219販売金額はこの期がこれまでの最大。手数料も222億円で最大
2020年3月期691,4962,301,78121,764
2021年3月期262,9122,565,80114,654販売金額が4,285億円減。投資信託関連手数料の減少が役務取引等利益を押し下げた
2022年3月期200,4332,595,53613,666
2023年3月期229,4682,387,13911,892翌期からゆうちょファンドラップを含む区分。同基準では販売247,341・残高2,405,123
2024年3月期435,7712,766,33612,215この期からゆうちょファンドラップを含み、開示の名称も純資産残高から残高へ
2025年3月期587,9902,939,76713,007
2026年3月期646,9153,519,43213,600手数料は単体の役務取引等利益1,657億円の8%。残高は過去最高
出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第12期〜第20期(2018年3月期〜2026年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】役務取引等利益の状況・投資信託の取扱状況
出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第12期〜第20期(2018年3月期〜2026年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】役務取引等利益の状況・投資信託の取扱状況

投資信託の窓口販売を開始した条件

投資信託の窓口販売を開始した条件
科目概要備考
募集業務の開始2005年10月株式会社ゆうちょ銀行の設立前の沿革に載る。当時の郵政事業は公社が担っていた
決定した主体日本郵政公社2003年4月1日発足。郵便・郵便貯金・簡易生命保険を一体で担った国の事業体
同じ月に決まったこと郵政民営化関連6法の可決・成立特別国会で成立。4機能を株式会社として独立させる民営化の日程が定まった
業務の区分登録金融機関の業務金融商品取引法第33条第2項。証券投資信託の募集の取扱い等にあたる
収益の計上先役務取引等収益為替・決済業務や投資信託販売手数料など、サービス・商品販売に係る収益に入る
販売の窓口日本郵便の郵便局ネットワーク直営店235箇所に対し、郵便局19,701局・簡易郵便局3,370局が代理店(2026年3月末)
窓口への委託契約金融商品仲介業に係る業務の委託契約2007年9月12日締結。期間の定めはなく、解除協議の申入れから6か月後の通知で解除
窓口へ払う対価平均総預かり資産残高 × 料率基本委託手数料の算式。残高は貯金平均残高と投資信託平均残高の合計値
商品を設定する側への出資JP投信株式会社2015年11月に出資。2026年3月期末に連結子会社となり、翌月に商号を変更した
拡充した隣接業務投資一任契約の締結の媒介業務2022年3月に認可を取得し、同年5月に開始。取扱状況は投資信託と合算で開示
販売金額6,469億円(2026年3月期)ゆうちょファンドラップを含む。2019年3月期の8,910億円がこれまでの最大
残高3兆5,194億円(2026年3月末)ゆうちょファンドラップを含む。2017年3月末の1兆3,101億円から2.7倍
投資信託関連手数料136億円(2026年3月期)単体の役務取引等利益1,657億円の8%。為替・決済999億円、ATM376億円に次ぐ
出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第20期(2026年3月期)【沿革】【事業の内容】【経営上の重要な契約等】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】/第13期(2019年3月期)【沿革】
出所:ゆうちょ銀行 有価証券報告書 第20期(2026年3月期)【沿革】【事業の内容】【経営上の重要な契約等】【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】/第13期(2019年3月期)【沿革】
参考文献

参考文献

参考
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第20期(2026年3月期)【沿革】【事業の内容】【経営上の重要な契約等】」
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第12期(2018年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第18期(2024年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】」
  • ゆうちょ銀行 有価証券報告書「第13期(2019年3月期)【沿革】」

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