パーク24マツダレンタカーの取得によるモビリティ事業への参入

駐車場を貸す会社は、車そのものを貸す会社になれるか——20億円で買った385店の意味

時期 2009年3月
意思決定者(推定) 西川光一 パーク24 社長
論点 駐車場事業の周辺への多角化とカーシェアリング参入
概要
2009年3月24日、パーク24が株式会社マツダレンタカーの発行済株式71,500株を20億71百万円で取得し、出資比率98.6%の子会社とする決議を行った経営判断。同月31日に取得を実行し、レンタカーとカーシェアリングを扱う「モビリティ事業」を開始した。
背景
時間貸駐車場「タイムズ」は全国13,500件・37万台の規模に達し、タイムズクラブ会員240万人と24時間対応のコールセンターを抱えていた。一方で車を利用者に貸す事業には車両と車両管理の体制が要る。国内のカーシェアリングは2008年時点で事業者全体の会員が3,000人程度にとどまる市場であった。
内容
取得先は大和SMBCキャピタル・住友三井オートサービスと上西清志社長ほか既存株主。マツダレンタカーは2002年にマツダレンタリースから分離した会社で、2008年3月期の売上高187億83百万円・経常利益62百万円、385店・レンタカー18,000台・法人契約10,000社を持ち、カーシェアリングは16ステーション45台であった。
含意
パーク24は自社が運営する駐車場の区画をカーシェアリングの拠点に転用し、車を置く場所の費用を駐車場事業側で吸収した。カーシェアリング事業の部門営業利益は2014年10月期に単年度黒字へ転じ、2016年10月期には28億5,000万円に達した。
筆者の見解

空き区画に載せた事業

この買収で支払われた20億71百万円は、パーク24の当時の年間営業利益106億円と比べても小さい。売上187億円に対して経常利益62百万円という会社の値段としては、それほど不思議な水準でもない。買われたのは利益ではなく、車18,000台と385店と、車を仕入れて整備して売るまでの手順であった。同じものを自前で用意しようとすれば、市場が立ち上がる前の数年を準備に費やすことになる。参入の判断としては、市場の大きさより先に、参入までの時間を短くすることが選ばれている。

そのうえで効いたのは、車を置く場所を新たに借りなくてよい、という一点であった。カーシェアリングに参入した各社が駐車場代で採算に詰まる間、パーク24は自社の区画を回すことで費用を薄められた。もっとも、この優位は駐車場事業が全国に区画を持ち続けることを前提にしている。2020年のコロナ禍で駐車場の稼働もレンタカーの需要も同時に落ちたとき、二つの事業が同じ足場を共有していることの意味は裏側からも表れた。空いている区画に別の商売を載せる発想は、その区画が空いている限りにおいて強い。

2009年3月に買われたのは、広島に本社を置く売上187億円のレンタカー会社である。それが10年を経て、駐車場に次ぐ事業区分の名前になった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

駐車場という商売の伸びしろ

2009年に入るまでのパーク24は、時間貸駐車場「タイムズ」の出店を積み増すことで売上を伸ばしてきた。土地を借り、舗装し、料金精算機とロック板を置いて無人で回す業態は、出店の数がそのまま収益の量になる。ただし2008年10月期は売上高808億円と前期の755億円から伸びた一方で、営業利益は127億円から89億円へ落ちた。区画を増やす速度と、1区画あたりの稼ぎを保つことの両立が、この時期の経営の焦点であった[1]

駐車場に置かれているのは、車を止めたい人の時間である。その延長線上に、車そのものを時間で貸す商売がある。パーク24は買収の説明資料で「駐車場会社から新たなクルマ社会創造企業へ」という言葉を掲げ、クルマ社会の構造変化を「保有から利用へ」と要約した。若年層の自動車保有が減り、環境への意識も加わって、車を持たずに使う需要が現れはじめた時期にあたる[2]

揃っていたものと、欠けていたもの

車を時間で貸す事業に必要な要素を並べると、パーク24の手元にはその大半が既にあった。タイムズ物件と管理受託物件は13,500件・37万台、タイムズクラブ会員は240万人、法人会員は5万7,000人。加えて24時間対応のコールセンター、ETC決済の機能、駐車場を無人で運営するオペレーションとそれを支える情報システムを持っていた。拠点も、会員も、遠隔で機械と客を管理する仕組みも揃っていた[3]

欠けていたのは車と、車を貸して回収し売り抜けるまでの体制である。車両を調達し、整備工場網につなぎ、事故と保険を処理し、中古車として売る。この一連を自前で組み上げるには年数がかかる。しかも参入先の市場はまだ小さく、2008年時点の国内カーシェアリングは事業者全体の会員数が3,000人程度にすぎなかった。需要の存在が証明されていない領域に、時間をかけて体制を作る余裕は薄かった[4][5]

決断

20億71百万円で385店を買う

2009年3月24日、パーク24は取締役会でマツダレンタカーの株式取得を決議し、同日に株式売買契約を結んだ。取得したのは発行済株式71,500株、取得価額は20億71百万円、取得後の出資比率は98.6%である。売り手は大和SMBCキャピタル、住友三井オートサービスと、マツダレンタカーの上西清志社長ほか既存株主2名であった。株式の取得日は同月31日で、決議から実行まで1週間しか置いていない[6][7]

買われた会社の姿は、規模の割に利益の薄いものであった。マツダレンタカーは2002年9月にマツダレンタリースから分離して設立され、2008年3月期の売上高は187億83百万円、経常利益は62百万円にとどまる。総資産165億84百万円に対して純資産は10億20百万円で、車両を抱える業態の借入依存が見てとれる。それでもフランチャイズとサテライトを含めて385店、レンタカー18,000台、法人契約10,000社、従業員1,270名を擁し、カーシェアリングも16ステーション45台で走らせていた[8][9]

駐車場の余りを車の置き場にする

買収の狙いとして掲げられた項目は、いずれも「タイムズを使う」ことに帰着していた。タイムズの有効利用によるレンタカー事業の収益拡大、レンタカー店舗のタイムズ化、大都市圏でのレンタカー展開、低採算店舗の立て直し、そしてカーシェアリングの推進である。カーシェアリングの項に添えられていたのは「タイムズ/IT/ノウハウ最大活用」という一行であった。既にある資産に車を載せる、というのが買収の設計であった[10]

この設計が効くのは、カーシェアリングの費用構造が駐車場代に大きく左右されるためである。1台の車を街なかに常時置いておくには月々の駐車料金がかかり、参入した事業者はまずそこで採算に詰まる。パーク24は自社が運営する駐車場の区画をそのまま拠点に転用でき、土地の費用は駐車場事業の側で吸収できた。実際に2009年5月から、タイムズを使ったステーションの開設が始まっている[11][12]

結果

5年の赤字と、1万台という閾値

買収の翌年、2010年6月にカーシェアリングのブランドは「カーシェア24」から「タイムズプラス」へ改められた。当時のタイムズは全国約9,000カ所・27万台で、その一部を拠点に充てながら、2010年10月末までに車両1,000台、2014年10月末までに4,000台という計画が示された。もっとも車両を増やすほど先に費用が立つ構造は変わらず、カーシェアリング事業の部門損益は2013年10月期まで赤字が続いた[13][14]

損益が反転したのは、車両台数が1万台を超えたあたりであった。拠点の密度が上がると法人の利用に火がつき、稼働の弱かった平日が埋まりはじめる。2014年10月期に部門営業利益が単年度で黒字に転じ、2016年10月期には28億5,000万円を計上した。連結のセグメントでみても、モビリティ事業の売上高は2011年10月期の220億円から2015年10月期には454億円へ伸び、2015年10月期のセグメント利益は28億円となった[15][16]

二本目の柱と、その先の統合

買った会社は、グループの組織図のなかでも組み替えられた。2011年5月の分社型会社分割で、パーク24はマツダレンタカーを分割承継会社の一つに据え、駐車場運営のタイムズ24などと並ぶ事業会社別の運営体制を作った。マツダレンタカーは後にタイムズモビリティへ商号を変え、レンタカーの「タイムズカー レンタル」とカーシェアリングの「タイムズカー プラス」を担う会社になった。20億円で買われた広島の会社が、グループの事業区分そのものを一つ増やしたことになる[17]

カーシェアリングの規模は競合を引き離した。2017年3月末の会員数は約78万人で、2位のオリックス自動車の17万人を大きく上回る。西川光一社長は「他社の追い上げもあるので、2020年度までに3万台という車両配備計画を少しでも早めるよう、全社総力戦でやっていく」と語っている。2019年10月にはカーシェアリングとレンタカーを組み合わせた「タイムズカー」を本格展開し、無人で借りる仕組みと有人店舗の品揃えを一つのサービスに寄せた[18][19]

出典・参考

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