ビジョナルHRMOSの投入とSaaS群・隣接市場への多角化による成功報酬型からの収益源分散
BizReach一本足の稼ぎを、月額SaaSでどこまで分散できるか
- 概要
- 2016年、ビジョナル(当時のビズリーチ)は採用管理クラウド「HRMOS」を投入し、成功報酬型の転職サイトBizReachに月額SaaSを重ねる多角化へ進んだ。同年3月にYJキャピタルなど10社から約37.3億円を調達し、以降HRMOS群・M&A・セキュリティ・物流へ事業を広げ、単一収益源への依存を薄める収益構造を組んでいった。
- 背景
- BizReachは求人企業やヘッドハンター、求職者から成功報酬・課金を得る仕組みで伸びたが、収益は中途採用市場の活況に連動した。2020年7月期でも連結売上258億円の約8割をビズリーチ事業が占め、稼ぎは一つの事業にほぼ集中していた。南壮一郎社長は10年後を逆算し、2つ目3つ目の収益の柱を育てる必要をみていた。
- 内容
- 2016年6月に企業の採用担当者向けSaaS「HRMOS採用」を開始し、BizReachで集めた候補者と採用業務を月額で支えるSaaSを組み合わせた。以後、HRMOS勤怠・経費・労務給与とプロダクトを拡充し、事業承継M&Aのサクシード、セキュリティのyamory、物流のトラボックスへも進出して収益源を分散させた。
- 含意
- 収益の裾野は広がり、売上高は2021年7月期の287億円から2025年7月期に802億円へ伸びた。一方でHRMOSは長く赤字が続き、飛び地の多角化はグループの柱に育たなかった。収益源の分散は、BizReachに代わる別の柱としてより、主力の周りに月額収益を束ねる形で進んだとみることができる。
収益源を分散するということ
成功報酬型からの収益源分散を、新しい柱を次々に立てた多角化の成功物語として読むのは早い。2016年に投入したHRMOSは7年を経ても累計86.1億円の営業赤字を抱え、物流やセキュリティといった飛び地は主力に育たず、ビズヒントやキャリトレは途中で手放された。南壮一郎社長が蒔いた種の多くは、単体では黒字の柱になっていない。分散が形になったのは、BizReachと切り離した別の柱としてではなく、その周りにHRMOSを束ねた採用基盤の一体化としてであったとみることができる。
もっとも、景気連動の成功報酬に解約されにくい月額のSaaSを重ねる設計そのものは、上場後の連続増収を支えたとみられる。売上高は287億円から802億円へ伸び、その大半をHRMOSを含むHR Tech事業が担った。収益源の分散とは、稼ぎ頭に代わる新しい柱を立てる作業である以上に、既存の稼ぎ頭の周りに定期収益を織り込み、一本足の揺れを薄める作業だったといえる。花開かなかった種の多さは、その難しさの裏返しかもしれない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
成功報酬に集中した単一の収益源
BizReachは2009年に始まった即戦力人材向けの転職サイトで、求人企業やヘッドハンターから成功報酬を得るほか、求職者からも課金して登録者の質を保つ仕組みで伸びた。ただし成功報酬型の収益は中途採用市場の活況に連動し、景気が採用需要を冷やせば業績が振られやすい構造を抱えていた。2020年7月期でも連結売上高258億円のうち約8割をビズリーチ事業が占め、グループの稼ぎは一つの事業にほぼ集まっていた[1]。
南壮一郎社長はこの一本足の構造を早くから経営課題とみていた。持株会社ビジョナルへ移行した2020年、南社長は10年後の姿から逆算したうえで、ビズリーチ事業だけでなく2つ目3つ目の収益の柱を構築することは必然だと語った。単一の成功報酬に収益を委ねる状態から抜け出すことが、上場を見据えた同社にとって避けて通れない課題であった[2]。
決断
HRMOSの投入と37.3億円の調達
収益源の分散に向けた最初の布石は2016年に打たれた。同年3月、ビズリーチはYJキャピタルなど10社を引受先に約37.3億円を調達し、リードのYJキャピタルが16億円を出した。資金は前年に始めた求人検索エンジン「スタンバイ」の拡大と、5月から提供を予定するクラウド型の採用管理システムの育成に充てられた。南社長は調達の狙いを、誰かがやるなら自分たちがやればいいと語った[3][4]。
2016年6月、企業の採用担当者向けSaaS「HRMOS採用」を開始した。求職者を集めるBizReachが成功報酬・課金で稼ぐのに対し、HRMOSは採用業務を月額で支えるクラウドで、両者をデータ連携でつなぎ採用プロセス全体を押さえる構成をとった。景気に振られる成功報酬に、解約されにくい月額の定期収益を重ねる設計であった[5][6]。
SaaS群と隣接市場への多角化
HRMOSに続けて多角化は速まった。2016年8月に経営者向けメディア「BizHint」、10月に大学生のOB訪問「ビズリーチ・キャンパス」を投入し、2017年11月には人材データベースの運営で培ったマッチング技術を中小企業の事業承継M&Aへ応用した「BizReach SUCCEED」を立ち上げた。HR領域の内側で、候補者・企業・大学新卒・事業承継の各接点を一社で押さえていった[7]。
多角化は人事の周辺にとどまらなかった。2019年8月に脆弱性管理クラウド「yamory」でセキュリティ領域へ入り、同年11月にはトラボックス株式会社の全株式を取得して物流DXへ進んだ。人材マッチングとSaaS運営で蓄えた開発体制と顧客基盤を、成功報酬とは異なる月額・従量の収益源へ振り向ける多角化が続いた[8]。
結果
HRMOSの赤字と残る依存構造
収益源分散の主役に据えたHRMOSは、長く赤字が続いた。2016年の開始から7年を経た2023年になっても、HRMOS事業の売上高はビズリーチ事業の20分の1以下にとどまり、営業損益は直近5年で累計86.1億円の赤字を抱えていた。第2の収益の柱と目した事業が、なお育成段階を抜けきれずにいた[9]。
グループの稼ぎは依然としてBizReachに寄っていた。多田洋祐社長を急逝で失った2022年7月期、連結売上高は440億円・経常利益87.5億円まで伸びたが、収益の大半はビズリーチ事業が稼ぎ、HRMOSをはじめとする新規事業は赤字の育成段階にとどまった。成功報酬型からの脱却は、数字の上ではなお道半ばであった[10]。
セグメント構成に表れた分散
それでも収益の裾野は広がった。売上高は上場初年度の2021年7月期の287億円から2025年7月期に802億円へ伸び、営業利益も24億円から214億円へ拡大した。会社が並行して進めたのは事業の選別で、2022年12月にキャリトレの提供を終え、2023年12月にはビズヒントの全株式をスマートキャンプへ譲渡した。育てる事業と畳む事業を仕分けながら、SaaS群を主力の周りに束ねていった[11][12]。
2025年7月期のセグメントは、BizReachとHRMOSを含むHR Tech事業が売上高の96%を占め、M&Aやセキュリティなどのインキュベーション事業は4%にとどまった。飛び地の多角化がグループの柱に育つには至らず、収益源の分散は主にHR領域の内側で、成功報酬に月額SaaSを重ねる形で進んだ[13]。
- ビジョナル 有価証券報告書 第6期(2025年7月期)【沿革】
- ビジョナル株式会社 2022年7月期 決算短信〔日本基準〕(連結)(2022年9月14日)
- 週刊東洋経済 2021年5月22日号「トップに直撃 ビジョナル 社長 南壮一郎 未来の日本の働き方に革命を起こし続けたい」
- THE BRIDGE(2016年3月29日)「ビズリーチがYJC等から37.3億円を調達、南氏が『とことんやると決めた』クラウド型事業を本格化へ」
- ダイヤモンド・オンライン(2023年10月2日)「ビズリーチの急成長にブレーキ!?『第2の収益の柱』が大幅赤字で迎える正念場」