ビジョナル持株会社ビジョナルの設立と東証マザーズへの上場
売上の8割を稼ぐ主力サービスの名を、なぜ社名から外したか
- 概要
- 2019年12月に公表し2020年2月3日を期日とする株式移転で、株式会社ビズリーチは持株会社ビジョナルを新設し、自らはその完全子会社となった。新規事業はビジョナル・インキュベーションとして分社した。2021年4月22日には、この持株会社ビジョナルが東京証券取引所マザーズ市場へ新規上場した。
- 背景
- 2020年7月期の連結売上高258億円の8割を転職サイト「ビズリーチ」が占め、HRMOSやM&A・物流・セキュリティなど後発の事業はまだ損失段階にあった。事業会社の名がそのまま主力サービス名である構造のもとで、次の収益柱をどう育てるかが課題となっていた。
- 内容
- 株式移転でビジョナルを設け、ビズリーチを事業会社として傘下に置いた。同時に新設分割でビズリーチ・サクシード、BizHint、yamoryの3事業をビジョナル・インキュベーションへ移した。上場したのは事業会社ではなく持株会社で、公開価格5,000円、公募212万7,700株・売り出し1,124万8,700株であった。
- 含意
- 初値は公開価格を43.0%上回る7,150円、上場初日の時価総額は2,491億円となった。上場後も売上・利益はHR Techセグメントに集中したままで、持株会社の下で事業を出し入れしながら二本目の柱を探す構造が続いている。
名を外すという先行投資
初値が公開価格を43%上回った成功したIPOとして読むと、この判断の中身は見えなくなる。2020年に起きたのは資金調達ではなく、名前と構造の入れ替えであった。連結売上の8割をビズリーチ事業が占める段階で、南壮一郎社長は自ら「早いかもしれない」と認めつつ持株会社を置き、広く知られた主力サービスの名を社名から外している。認知という資産を手放してでも、一事業の会社と見られない形を先に作った点に芯があるとみられる。
もっとも、形を先に整えても、中身がすぐに伴ったわけではない。持株会社化から5年後の2025年7月期でも、HR Techが売上770億円・利益247億円を稼ぐ一方、Incubationは売上31億円で17億円の損失にとどまる。分社したビズヒントのように、手放した事業もあった。構造を先に用意する判断は、二本目の柱が立つまでの時間を会社に強いる。ビジョナルという社名に実態が追いつくかは、まだ確かめられていないといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
ビズリーチ一社に集まった事業
持株会社化前のビジョナルは、株式会社ビズリーチという一つの事業会社であった。2009年に開設した転職サイト「ビズリーチ」を主力に、2016年に採用管理システム「HRMOS採用」、2017年に法人向けM&Aマッチングの「ビズリーチ・サクシード」、2019年に脆弱性管理クラウド「yamory」を始めている。同じ2019年11月には物流のプラットフォームを運営するトラボックスを買収し、人材の外にも事業を広げていた[1]。
ただし稼ぎは一つの事業に寄っていた。2020年7月期の連結売上高258億円のうち、8割をビズリーチ事業が占めている。セグメントで見ると、HR Techが売上249億円・利益33億円を稼ぐ一方で、後発の事業を束ねるIncubationは売上8.9億円・8.6億円の損失にとどまった。新規事業を次々に立ち上げてはいたものの、それらはまだ数字の上で柱と呼べる段階になかった[2][3]。
決断
株式移転による持株会社の新設
2019年12月23日、ビズリーチはグループ経営体制へ移る準備に入ったと公表した。2020年2月3日を期日とする株式移転で持株会社ビジョナルを新設し、ビズリーチ自身はその完全子会社となる。あわせて新設分割により、社内で新規事業開発を担っていたインキュベーションカンパニーをビジョナル・インキュベーションとして切り出し、ビズリーチ・サクシード、BizHint、yamoryの3事業を移した[4][5]。
移行の理由を、南壮一郎社長は10年後からの逆算だと語っている。売上の8割を一事業が占める規模でグループ経営を敷くのは早いかもしれないと自ら断ったうえで、2つ目、3つ目の収益柱を作るならこの体制が最善だと判断したという。広く知られた主力サービス名を社名から外すことにも、南社長は躊躇しなかったと述べている。課題を新しい可能性に変えるという意味を込めた「Visional」が、グループの名となった[6][7]。
持株会社のままの株式公開
株式公開の主体となったのも、事業会社ではなく持株会社であった。2021年3月17日、ビジョナルは4月22日に東証マザーズへ新規上場すると発表した。国内外で212万7,700株の公募と1,124万8,700株の売り出しを行い、これに上限26万6,900株のオーバーアロットメントが加わる。売り出し株数が公募の5倍を超えており、既存株主の持ち分の放出が中心となる公開であった[8]。
価格は4月12日に決まった。仮条件4,500〜5,000円の上限にあたる5,000円が公開価格となり、主幹事には野村証券と三菱UFJモルガン・スタンレー証券が就いている。開示の単位もグループの姿に合わせ、上場後はHR TechとIncubationの2セグメントで業績を示す形をとった。ビズリーチ一社としてではなく、損失を出している育成事業を抱えた企業グループとして市場に出る形を、上場前に整えていた[9][10]。
結果
上場と、その後のグループ
2021年4月22日、ビジョナルは東証マザーズに上場した。初値は公開価格を43.0%上回る7,150円で、初値形成時の出来高は129万4,000株であった。上場初日の時価総額は2,491億円に達し、マザーズ市場への上場としては有数の規模となった。持株会社を設けてから1年2カ月後、ビズリーチの開設からは12年後の公開で、市場が値を付けた対象は事業会社ではなくグループ全体であった[11][12]。
上場後の業績は伸びた。2021年7月期に連結売上高287億円・営業利益24億円だったものが、2025年7月期には売上802億円・営業利益214億円となっている。従業員数も同じ期間に1,271人から2,175人へ増えた。市場区分も動き、2022年4月の東証再編でマザーズからグロースへ移ったのち、2023年12月にはプライム市場へ変更している。新興市場に上場した会社が、4年足らずで最上位の市場に移った計算になる[13][14]。
持株会社の下で、事業の入れ替えが続いた。2021年11月に勤怠管理のIEYASU、2022年3月に経費精算のイージーソフトを加え、2023年12月にはビズヒントを譲渡した。2025年7月期のセグメントは、HR Techが売上770億円・利益247億円、Incubationが売上31億円・17億円の損失で、収益の集中は上場前と変わっていない。南社長は2025年、ビズリーチのノウハウを社内の人材登用に生かす方針を示した[15][16][17]。
- ビズリーチ ニュースリリース 2019年12月23日「株式会社ビズリーチ、グループ経営体制へ移行 新グループ名「Visional(ビジョナル)」」
- 株探 2021年3月17日「ビジョナル、4月22日に東証マザーズへ新規上場」
- 株探 2021年4月12日「ビジョナルの公開価格は5000円に決定、4月22日マザーズ市場に新規上場」
- 株探 2021年4月22日「【IPO】ビジョナル<4194>---初値は7150円(公開価格5000円)」
- Bloomberg 2021年4月21日「ビジョナルの初値7150円、近年の大型IPOで初値上昇率は突出」
- 週刊東洋経済 2021年5月22日号「トップに直撃 ビジョナル 社長 南 壮一郎 「未来の日本の働き方に革命を起こし続けたい」」
- 週刊東洋経済 2024年12月28日号「【第1特集 2025年大予測】 Part4 産業・企業 Interview ハイクラス人材 ビジョナル 社長 南 壮一郎 「大転職時代の幕開け 人材流出防止焦点に」」
- ビジョナル 有価証券報告書 第6期(2025年7月期)【沿革】
- ビジョナル 有価証券報告書(2021年7月期・2025年7月期・連結)