日立建機鉱山機械への本格参入と、米H-Eパーツ・豪ブラッドケンの取得による消耗部品事業の獲得
機械本体でキャタピラー・コマツに届かないなら、摩耗して交換される部品の側から入るか
- 概要
- 日立建機が2008年に鉱山用の大型ダンプトラックで市場へ本格参入し、2009年にカナダのウェンコを買収して運行管理へ広げたうえ、2016年12月に米H-Eパーツを約280億円、2017年3月に豪ブラッドケンを約516億円で取得して、鉱山機械の消耗部品とアフターサービスを事業の柱に据えた一連の判断。
- 背景
- 中国の建機需要が2011年ごろから縮み、地場の三一重工が油圧ショベルの販売台数でコマツを抜いた。資源価格の下落で鉱山機械の本体需要も落ち、2015年には本社で早期退職を募って構造改革費用112億円を計上した。
- 内容
- 機械本体でキャタピラー・コマツを追い抜く道ではなく、4年に一度のオーバーホールで交換される消耗部品の側から入った。ブラッドケンはバケットの爪などGETとミルライナーの世界的な主要供給者で、売上の約9割が消耗品、84.7%が資源関連の顧客であった。
- 含意
- 2025年3月期のスペシャライズド・パーツ・サービス事業は売上収益1,273億円で連結の9%を占めた。ただ資源価格と地域ごとの競争に振られ、ブラッドケンのノンコア事業売却では構造改革費用140億円を計上した。
本体で勝てない年月の稼ぎ方
後発が2強に追いつく道として日立建機が選んだのは、機械本体の性能競争ではなく、摩耗して交換される部品の側であった。大型ダンプのシェアが10%弱で足踏みしていた会社が、4年に一度のオーバーホールで確実に落ちる需要を先に押さえに行ったのは、本体で勝てない年月の稼ぎ方を用意する動きだったとみることができる。主要鉱物の価格が10年来の最低水準にあり、本社で早期退職を募っていた同じ時期に約800億円を投じた点に、この判断の性格が表れている。
ただ、消耗部品なら景気に強いという読みは、半分しか当たらなかった。ブラッドケンではノンコア事業の売却で140億円の構造改革費用が出て、H-Eパーツは米州と中南米の競争で計画を下回った。部品も再生も現場の近くで値段を競う商売であり、トップブランドを買った時点で完成する事業ではなかったといえる。それでも、買った2社の主戦場が米国とオーストラリアであったことは、米州売上比率が24%へ上がる展開と噛み合った。中国が消えた後の稼ぎ場所を資源国と米州へ置き換える作業を、部品会社の取得から先に始めていたとみることができる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
中国が消え、鉱山の本体需要も落ちた
日立建機の収益を支えてきた中国市場は、2011年ごろから逆を向いた。政府の金融引き締めで住宅や鉄道の工事が止まり、コマツと日立建機の中国向け油圧ショベルは2011年5月から3割から6割減という前年割れが続いた。頭金を撤廃し展示会で外国車を抽選で配る地場の三一重工が、2011年に年間販売台数でコマツから首位を奪った。日立建機の中国売上比率は2010年度の27%から2022年度の3%まで下がった[1][2]。
鉱山機械も逃げ場にはならなかった。中国と新興国の失速で石炭など主要鉱物の価格が10年来の最低水準へ下がり、資源メジャーが新規の機械投資を絞ったため、2016年3月期の中間決算で日立建機は通期予想を下方修正し、営業利益は前期比52.5%減の見通しであった。同社は2015年11月中旬から本社で35歳以上を対象に早期退職を募り、構造改革費用112億円を計上して類似製品の生産集約も進めた[3][4]。
機械の寿命の間に落ちる金
鉱山機械は、売った後に稼ぐ商品であった。3階建てビルに匹敵するダンプトラックや小山のような油圧ショベルは1台数億円と高額で、コマツ、キャタピラー、日立建機の寡占市場のため言い値に近い価格で売れた。しかも過酷な環境で使われる機械は4年に1回オーバーホールし、摩耗したエンジン、モーター、油圧機器を総交換する。地味ながら非常に儲かる補修部品の売上が、機械本体の売上を上回る商売であった[5]。
日立建機の立ち位置は、製品によって大差があった。辻本雄一社長は2012年、鉱山用の大型油圧ショベルでは世界で30%以上のトップシェアがある一方、大型ダンプトラックは参入が遅くまだ10%弱にとどまり、キャタピラーとコマツを追いかける立場にあると語っている。ダンプは2008年に本格参入した後発で、日立製作所と共同開発したAC駆動式を武器にゼロから1割弱までシェアを伸ばしたところであった[6][7]。
決断
消耗部品のトップブランドを買う
部品から攻める発想は、買収の前から動いていた。2015年の時点で日立建機は、鉱山機械の消耗部品について現場に近く安価な地場の部品メーカーへ接近し、グループ内に取り込んで日立ブランドの品質を担保しながら売ってもらう提携先を増やしていた。その延長で2016年12月、米H-Eパーツ・インターナショナルなど2社を2億4,000万ドル、約280億円で全株取得した。両社は顧客現場に合わせた建機の使い方の提案や部品供給を手がけ、2015年12月期の売上はそれぞれ100億円を超えていた[8][9]。
本体の買収は、その2カ月前に決まっていた。2016年10月3日、日立建機は豪ブラッドケンに1株3.25豪ドルで公開買付けを行うと発表した。過去1カ月の出来高加重平均に37.7%を上乗せした価格で、100%取得ベースの総額は約6億8,900万豪ドル、1豪ドル75円換算で約516億円であった。1922年設立、従業員約3,500名のブラッドケンは、バケットの爪などGETとミルライナーの世界的な主要供給者で、売上の約9割が消耗品、84.7%が資源関連の顧客で占められていた[10][11]。
会社が示した買収の意義は三つであった。バケットの爪などGETを軸に消耗部品事業を強化してバリューチェーンを深めること、消耗部品のトップブランドを得てグローバルな顧客カバレッジを広げること、双方の技術力と製品力を合わせて付加価値の高い製品とサービスを生み出すことである。鉱山機械の需要は短期的には厳しいものの中長期には成長市場であるという読みを、資源価格が底にある時期の買収に賭けた判断であった。公開買付けは2017年3月に条件が成就し、4月7日までに約520億円で92.8%を取得した[12][13]。
結果
米州の稼ぎ頭と、部品事業のむら
買収から数年で、収益の姿は入れ替わった。連結売上収益は2019年3月期に1兆337億円・営業利益1,023億円まで伸び、2024年3月期には1兆4,059億円・当期利益932億円に達した。米国では2021年11月に成立した超党派インフラ法が油圧ショベル需要を押し上げ、資源価格の高騰でマイニング需要も伸びて、日立建機の米州売上比率は2022年度に24%へ上がった。2025年3月期のスペシャライズド・パーツ・サービス事業の売上収益は1,273億円で、連結の9%を占めた[14][15][16]。
ただ、買った部品事業は平坦な収益源ではなかった。2023年度にはブラッドケンでノンコア事業の売却に伴う減損などを含む構造改革費用140億円を計上し、当期利益を100億円下方修正した。2024年度はブラッドケンが好調な一方、H-Eパーツが米州のエンジン再生などで競争激化に苦しみ、部門売上を現地通貨ベースで40億円ほど下方修正した。2025年度も中南米での競争激化で受注が伸びず、部門は計画を下回った[17][18][19]。
- 週刊東洋経済 2012年3月13日号「スペシャルリポート02 コマツ抜いた中国勢 不気味な躍進の裏側」
- 週刊東洋経済 2012年4月13日号「TOP INTERVIEW 日立建機社長 辻本雄一 日立Gの強みを生かし コマツと肩を並べたい」
- 週刊東洋経済 2012年7月27日号「NEWS&REPORT 01 先行コマツ、強敵も参戦 “沸騰”無人ダンプ市場」
- 週刊東洋経済 2013年1月25日号「【特集 日立に学べ!】建設機械 日立建機 新興国開拓の尖兵」
- 週刊東洋経済 2015年10月30日号「核心レポート04 中国失速が痛い建機各社 合理化で済まない事情」
- 週刊東洋経済 2024年4月20日号「【第1特集 わかる!地政学】PART3 米政権のインフラ投資が追い風 『稼ぎ頭』が変わる建機業界」
- 日本経済新聞(2016年12月21日)「日立建機、米社を280億円で買収、建機事業の拡大急ぐ」
- 日立建機「Bradken社の買収について」(2016年10月3日)
- 日本経済新聞(2017年4月10日)「日立建機、豪ブラッドケンのTOB完了」
- 日立建機 有価証券報告書(連結・IFRS)
- 日立建機 決算説明会 質疑応答(2024年3月期第3四半期・2025年3月期第1四半期・2026年3月期第2四半期)