日立建機日立製作所による保有株26%の売却と、伊藤忠・日本産業パートナーズ連合への筆頭株主の異動

半世紀の親会社が半分だけ抜けた後、世界市場の4割を占める米州をどう自力で取るか

時期 2022年1月
意思決定者(推定) 平野耕太郎・日立製作所 取締役会 日立建機 執行役社長兼CEO
論点 親子上場の解消と独立後の成長戦略
概要
2022年1月14日、日立製作所が保有する日立建機株式51.5%のうち26.0%を1,824億5,700万円で伊藤忠商事と日本産業パートナーズの共同出資会社HCJIホールディングスへ譲渡すると発表し、同年8月に筆頭株主が日立からHCJIへ移った資本異動。
背景
日立は2009年に22社あった上場子会社をITとインフラを軸とする再編のなかで整理し、最後に日立金属と日立建機が残った。日立建機はリース資産を抱えて総資産が重く資本効率も高くない一方、単体でも事業を営める独立心が強く、完全子会社化にも全株売却にも収まりにくかった。
内容
全株売却でも完全子会社化でもない折衷であった。日立は25.4%を残して持分法適用関連会社とし、日立ブランドの継続使用やLumadaの活用、部品取引と技術連携は続いた。日立建機は伊藤忠の海上物流とファイナンスを、ディアとの合弁解消後の米州事業の立ち上げに使う道を選んだ。
含意
売り手の都合で始まった資本異動を、買われた側は世界市場の4割を占める米州の攻略に結び付けた。日立の持分は2025年11月に18.4%へ下がって持分法から外れ、2027年4月には商号もランドクロスへ変わる。
筆者の見解

売られた側が書き換えた台本

この資本異動を起草したのは日立建機ではない。2009年に22社あった上場子会社を減らしてきた日立製作所が、最後まで扱いを決めきれなかった1社として建機を残し、全株売却でも完全子会社化でもない26%という半端な線を引いた。それでも平野耕太郎社長は、米州の売上が全社の15%程度しかないという弱点を先に自分で認め、ディアとの合弁解消を資本政策の前に決めていた。売り手の都合で動く場面に、買われる側の課題を持ち込んだ順番に、この判断の性格が表れているとみることができる。

ただ、独立が有利な取引だったと言い切るには早い。発表当日の株価は17%下げ、会見では伊藤忠にサヤを抜かれるのではないかという疑いが正面から向けられた。日立の持分は2025年11月に18.4%まで下がり、2027年4月には約75年掲げた社名からも日立の字が消える。親会社の傘を段階的に外していく過程で残ったのは、米州という最大市場を自力で開けるかどうかという一点であり、その答えは商号が変わった後の数字で出てくるといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

上場子会社ゼロへ向かう親会社の整理

2009年3月期に国内製造業で最悪の赤字を出した日立製作所は、モノ売りからITを使う社会インフラ事業へ事業を組み替えてきた。2009年に22社あった上場子会社のうち、本体との関係が薄く利益率の低い会社を次々と手放し、日立化成は昭和電工へ約5,000億円で売却し、日立ハイテクは約5,300億円で完全子会社化した。2021年初めに残っていたのは、かつて1兆円規模の売上を誇った日立金属と日立建機の2社であった[1][2]

建機だけは、扱いが決まらなかった。販売した建機の稼働率を監視して整備に生かす事業は日立のIoT基盤Lumadaと相性がよく、全株を手放した化成や金属とは違うという声が社内にあった。一方でリース資産を多く抱える日立建機は総資産が大きく資本効率がよくないため、完全子会社化にも壁があった。単体でも事業を営めるという独立心の強さも重なり、売却の賛否は日立の内部で入り乱れ、一部売却という案が浮上した[3][4]

米州が全社の1割台という弱点

売られる側には、資本政策とは別の急ぎの用があった。2021年8月、日立建機は約20年にわたり北中南米で販売を委託してきた米ディアとの提携を2022年3月をもって解消すると発表していた。平野耕太郎社長は、世界市場に占める米州の割合が4割ほどでキャタピラーもコマツもそこでそれくらい売っているのに、自社の米州売上高は全体の15%程度しかないと語っている。売上1兆円の壁を越えるには、最大市場を自分でやるほかなかった[5][6]

提携解消を決めた時点で、平野社長は親会社の資本政策と自社の成長戦略を切り離して語っていた。米州の件は日立の資本関係見直しとまったく関係なく、成長戦略が米州戦略であることは理解されていて、その進め方は全部任されていると述べた。細かい投資に口を出してこない親会社への評価も口にしており、日立の東原敏昭会長からは「どんどんやってくれ。そこがポイントなんだろう」と言われたと明かしている[7][8]

決断

半分だけ売るという設計

2022年1月14日、日立は日立建機株式のうち約半数の26.1%を、1株3,300円、総額1,824億5,700万円で売却すると発表した。買い手は伊藤忠商事と日本産業パートナーズが共同出資して設けた特別目的会社HCJIホールディングスで、議決権ベースでは51.5%のうち26.0%が動き、日立の保有は25.4%に下がった。日立建機は連結対象から外れて持分法適用関連会社となり、当局の審査を経て売却は6月完了の見通しとされ、日立は2023年3月期に売却益770億円を計上した[9][10][11]

全株売却でも完全子会社化でもない中間の設計は、日立側の未練と市場の要請の両方を満たすものであった。日立は25.4%を残したうえで、日立ブランドの継続使用、Lumadaの活用、研究開発や部品取引、技術面の連携を続ける方針を示した。伊藤忠側にも中長期で株を持つ意向があったため出資の話は2021年末から短期間でまとまり、日立物流や日立キャピタルで先に採っていた「持分を残した一部売却」と同じ形が建機にも当てられた[12][13]

商社とファンドを株主に迎える理屈

日立建機の側から見れば、この資本異動は米州事業の立ち上げを早める道具であった。平野社長は会見で、伊藤忠とJIPの資本参加によって北米での事業を加速でき、とりわけ建機の拡販で重要な役割を果たすファイナンスでは伊藤忠との協業の効果が大きいと述べた。同社は伊藤忠グループの東京センチュリーとインドネシアとタイで建機ファイナンス会社を共同運営しており、そのやり方を北米へ移す道筋が見えていた[14][15]

もう一つの期待は物流にあった。コンテナ不足で海上輸送が逼迫するなかで、伊藤忠は北米に物流サービスの拠点網を持ち、日本から北米へ油圧ショベルを輸出する日立建機にとって使い道があった。市場の見方は厳しく、会見では伊藤忠にサヤを抜かれるのではないかという指摘が出て、平野社長は「使えるものは何でも使う」と応じた。発表当日の株価は前日比17%の下落となり、独立の代償は数字で先に表れた[16][17]

結果

独立の現実と、看板の返却

独立後の数字は伸びた。連結売上収益は2022年3月期の1兆249億円から2024年3月期の1兆4,059億円へ、当期利益は758億円から932億円へ増え、2025年3月期は売上1兆3,713億円で海外売上比率84%であった。日立の持分はその後も削られ、2025年11月7日に1,500万株(7.1%)が国内外の機関投資家へ売られて議決権は18.4%となり、日立建機は日立の持分法適用会社ではなくなった。伊藤忠は2026年、議決権比率を20.4%から33.4%へ引き上げる方針を示した[18][19][20]

資本の縁が薄れると、看板も返した。2025年10月28日、日立建機は2027年4月1日付で商号をランドクロス株式会社に、コーポレートブランドを「LANDCROS」に変更する計画を取締役会で決めた。約75年掲げてきた日立の名を社名から下ろす判断であり、日立製作所へ払ってきたブランドフィーも要らなくなる。伊藤忠の出資増について、日立建機は自主的な経営と業績向上を支えるための出資と受け止めていると説明している[21][22][23]

出典・参考

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