NTTグループ傘下からの離脱とKDDIとの資本業務提携
宿敵NTTの傘下を20年で離れたIIJは、通信2強とどのような距離を取ろうとしたか
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- 概要
- 2023年5月、IIJの筆頭株主であったNTTグループが保有株の一部をKDDIへ売却し、IIJはKDDIと資本業務提携を締結した。NTTグループとKDDIが各11.5%で同率の第一位株主となり、IIJは2003年以来のNTTの持分法適用関連会社から外れた資本政策である。
- 背景
- 2003年のクロスウェイブ破綻処理でNTTの増資を受け入れて以来、独立系ISPは20年にわたりNTTの持分法適用関連会社という資本構造に置かれていた。事業は法人ストック型で自立を回復する一方、資本の従属が課題として残っていた。
- 内容
- NTTグループが保有株の一部を売却し、KDDIが総額512億円で発行済株式の10.0%を取得。同時にKDDIと資本業務提携を結び、NTT・KDDIが同率の第一位株主となる通信2強と等距離の資本構造へ再編した。
- 含意
- 危機に迫られた2003年の増資受け入れと対照的に、財務の自立を回復した企業が、どの陣営にも偏らない資本構造をみずから選び直した。20年ぶりの資本的独立の再生であり、中立的なネットワーク事業者としての立ち位置を資本の面から裏づけた。
資本の受け手から、資本の設計者へ
この判断の核心は、資本の受け手から資本の設計者へと、IIJの立場が変わった点にみることができる。2003年の増資受け入れが破綻処理に迫られた不可避の選択であったのに対し、2023年の組み替えは、財務の自立を回復した企業が、どの陣営にも偏らない資本構造をみずから選び取ったものといえる。20年をかけて事業の独立と資本の独立を順に取り戻した道筋が、ここで一つに重なった。
もっとも、NTT・KDDIと等距離という設計が中立事業者としての強みにどこまで結びつくかは、これからの協業の中身に左右される。同率の第一位株主を二つ抱える構造は、双方との取引を広げやすい半面、いずれとも深く踏み込みにくい均衡をはらむ。官需やソブリンクラウドを次の成長の柱に据える同社にとって、二強と等しく向き合う資本構造をどう生かすかが、今後に問われていくとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
2003年のNTT傘下入りと20年の資本従属
創業以来の独立系ISPを掲げてきたIIJがNTTの資本を受け入れたのは、2003年の危機処理においてであった。1998年に合弁で設立した通信キャリア、クロスウェイブ コミュニケーションズがITバブル期の過剰投資で行き詰まり、同年8月に会社更生手続の開始を申し立てる。持分法投資損失が連結業績に波及するなか、IIJは同年9月に第三者割当増資で120億円を調達し、主要引受先にNTTを迎えた。宿敵とみなしてきた相手の資本のもとで財務再建を図る選択であった[1]。
以後、NTTはIIJの「その他の関係会社」にあたり、IIJはNTTの持分法適用関連会社という立場に置かれた。創業期に「打倒NTT」を掲げた企業が、20年にわたって特定の通信陣営の資本構造に組み込まれた。鈴木幸一会長は当時の判断を「振り返れば、思い半ばどころか後悔8割」と後年に述べており、独立を手放した経緯が経営者自身にも重く残っていた様子がうかがえる[2]。
資本の従属が残る一方での事業の自立回復
もっとも、資本構造が固定される間に事業の中身は入れ替わっていた。資本集約的なキャリア投資が財務体力を超えた反省から、IIJは接続・クラウド・データセンター・MVNOという契約が積み上がる法人ストック型へ稼ぎ方を組み替える。2023年3月期の連結売上高は2,527億円、営業利益は272億円に達し、クロスウェイブ破綻の当時とは比較にならない規模と収益力を備えていた[3]。
事業面では、特定陣営への依存がなお残っていた。IIJのモバイル事業は2008年の参入以来、NTTドコモから卸電気通信役務の提供を受ける形で成り立ち、2018年に国内初のフルMVNOへ発展させたあとも、無線網の調達はドコモに負っていた。親会社グループへの依存は、卸料金や網の調達をめぐる交渉上の弱みにもなりうる。資本と事業の双方でNTTグループとの距離が問われていた[4]。
決断
NTTグループの保有株売却とKDDIの資本参加
2023年5月18日、資本構造の組み替えが公表される。筆頭株主であったNTTグループが保有するIIJ株の一部を市場外で売却し、KDDIがこれを取得した。KDDIが日本電信電話から買い付けたのは発行済株式総数の10.0%にあたる18,707,000株で、取得額は総額512億円(1株当たり2,739円)に上る。取引後のKDDIの保有株式数は20,387,000株となった[5]。
同じ日に、IIJとKDDIは資本業務提携契約を締結した。両社は「両社の有する事業資産を生かした相互の企業価値向上」を掲げ、IIJによるKDDI通信サービスの最適調達、事業領域での協業、法人分野とモバイルサービス領域での商材の相互活用および共同開発、人材交流の4点を協業の柱に据える。日本経済新聞は、KDDIが主力の携帯電話以外の非通信分野の成長にIIJとの協業をつなげる狙いがあると伝えた[6][7]。
通信2強と等距離の資本構造
一連の取引の結果、NTTグループとKDDIはそれぞれ20,387,000株、議決権比率にして11.5%を保有し、同率で第一位の株主に並んだ。NTTはIIJの「その他の関係会社」に該当しなくなり、国際財務報告基準における関連当事者ではなくなる。2003年以来続いたNTTの持分法適用関連会社という立場から、IIJは外れた[8]。
この構造は、特定の通信陣営に属さず、NTT・KDDIの双方と等距離を保つ資本政策として設計された。両社グループとの間にはアクセス回線やバックボーン回線を利用する商業上の取引があるものの、取引条件は通常の商慣習の範囲にとどまり、出資関係にもとづく特別の取り決めは存在しないとされる。中立的なネットワーク事業者としての立ち位置を、資本の面から裏づける組み替えであった[9]。
結果
20年ぶりの資本的独立の再生
2003年のNTT傘下入りが危機のなかで独立を手放す選択であったとすれば、2023年の組み替えは資本的な独立を取り戻す到達点にあたる。創業期に掲げた独立系ISPというコンセプトが、20年の時を経て資本構造の面で再生した。喪失と再生が20年をまたいで対をなし、クロスウェイブ破綻から続いた一連の資本政策に一つの区切りがついた[10]。
今回の再編は、財務的に追い込まれた末の資本注入であった2003年とは前提が異なる。2023年3月期に連結売上2,527億円・営業利益272億円を上げ、法人ストック型で構造増益に入った企業が、みずからの意思で資本構造を選び直した。実務の面でも、無線網の調達先をNTTドコモに加えてKDDIへ広げうるなど、フルMVNO事業の交渉の余地を広げる効果が見込まれた[11][12]。
- KDDI ニュースリリース(2023年5月18日)「インターネットイニシアティブとの資本業務提携について」
- インターネットイニシアティブ「主要株主及びその他の関係会社の異動、並びにKDDIとの資本業務提携に関するお知らせ」(2023年5月18日)
- インターネットイニシアティブ コーポレート・ガバナンス(関連当事者取引)
- 日本経済新聞(2023年5月18日)「KDDI、IIJに1割出資 NTTが保有株を一部売却」
- インターネットイニシアティブ 有価証券報告書【沿革】
- インターネットイニシアティブ 有価証券報告書(連結)
- 日経ビジネス(日経BP, 2019年10月)「鈴木IIJ会長『振り返れば、思い半ばどころか後悔8割』」