大塚HD植物性食品デイヤフーズの買収:医薬に寄せず栄養事業を植物性食品へ広げた資源の振り分け

更新:

時期 2017年7月
意思決定者(推定) 樋口達夫 社長
論点 医薬と栄養の二本柱のうち、栄養側をどこまで広げるか
概要

2017年7月26日(現地時間)、大塚製薬がカナダのプラントベース食品会社デイヤフーズInc.の全株式を取得する契約を締結し、8月31日に買収を完了した経営判断。カナダに設けた買収目的子会社を通じ、現金35,209百万円を対価に議決権の100%を取得した。のれんは11,981百万円で、無形資産には商標権及び販売権等6,626百万円とその他無形資産17,896百万円を配分している。

背景

大塚グループは疾病の治癒を担う医療関連事業と、日々の健康増進を担うニュートラシューティカルズ関連事業の両輪でトータルヘルスケアカンパニーを掲げてきた。後者の海外側は1989年のファーマバイト(ネイチャーメイド)と2009年のニュートリション エ サンテで組み立てられている。デイヤフーズは2008年にバンクーバーで設立され、売上高は2013年から2016年の間に約3倍、直近12か月で約90百万カナダドルに伸びていた。

内容

植物由来の原料から作るチーズ代替品、ヨーグルト代替品、ドレッシング、デザートを展開し、健康志向の高い層、ベジタリアン、食物アレルギーを持つ層に受け入れられていた。買収の狙いは、新たな製品カテゴリーの追加による製品ポートフォリオの充実と、北米におけるニュートラシューティカルズ関連事業の拡大に置かれた。

同じ2017年、医療関連事業ではニューロバンスInc.の取得にのれん及び無形資産28,599百万円を投じている。デイヤフーズに配分した36,505百万円はこれを上回り、その年の投資は医薬パイプラインの側へ一本に寄っていない。

含意

デイヤフーズ社ブランドは「エクエル」「ボディメンテ」と並ぶ育成3ブランドに置かれ、3ブランド合計の売上収益は2019年12月期の21,217百万円から2022年12月期の28,514百万円へ伸びた。

もっとも北米の乳代替チーズ市場は競合環境が激しくなり、2023年12月期にデイヤフーズ社に係る資産を回収可能価額31,537百万円まで減額して減損損失24,828百万円を計上した。うち12,707百万円はのれんで、取得時に積んだのれんはここで消えている。2025年12月期にも11,349百万円を減じた。

筆者の見解

ブランドを買うということ

この買収は、植物性食品という新しい市場への賭けというより、1989年のファーマバイト以来つくってきた回路をもう一度動かしたものだとみることができる。医薬で稼いだ資金を消費者向けの栄養事業へ回し、海外のブランドを丸ごと抱えて売り場を広げる。支払対価35,209百万円は、同じ年に医療関連事業で取得したニューロバンスに投じたのれん及び無形資産28,599百万円を上回った。研究開発費が年1,700億円を超え、グローバル4製品の世代交代に医薬側の投資が張り付いていた時期に、追加のパイプラインではなく非医薬の稼ぎ手を厚くする側へ配分したことになる。

もっとも、買ったものの中身を見ると、のれん11,981百万円に対して配分した無形資産は24,522百万円と倍近い。価値の大半は商標権と販売権、つまりブランドそのものに置かれており、その値は棚の取り合いに直接さらされる。北米の乳代替チーズ市場で競合が増えた2023年12月期に24,828百万円を落としたのは、賭けたものが技術でも工場でもなかったことの裏返しであろう。ただし柱としての建て増しは効いており、ニュートラシューティカルズ関連事業の売上収益はその後も伸び続けている。減損は事業の失敗ではなく、ブランドに払った値段の是正だったのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年9月

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 デイヤフーズ Inc. 本社はカナダ・ブリティッシュコロンビア州。2008年にバンクーバーで設立
事業の内容 プラントベース食品、デアリーフリー食品の研究開発・製造・販売 植物由来のチーズ代替品、ヨーグルト代替品、ドレッシング、デザート
取得の法的形式 現金を対価とする株式取得 大塚製薬が設立したカナダにおける買収目的子会社を通じて取得した
契約の締結日 2017年7月26日 現地時間。全株式を取得する契約を締結した
取得日 2017年8月31日 支配獲得日。連結の対象は同日以降
取得した議決権比率 100% 議決権付株式の全部
支払対価の公正価値 35,209百万円 全額が現金
取得資産及び引受負債の公正価値 23,227百万円 流動資産2,983、非流動資産26,089、流動負債△1,582、非流動負債△4,262
のれん 11,981百万円 シナジー効果と超過収益力。税務上損金算入を見込む金額はない
無形資産(商標権及び販売権等) 6,626百万円 非流動資産に含まれる配分額
無形資産(その他) 17,896百万円 商標権及び販売権等と合わせて24,522百万円を無形資産に配分した
繰延税金負債 4,037百万円 当該企業結合により認識した額。非流動負債に含まれる
取得に直接要した費用 527百万円 連結損益計算書の販売費及び一般管理費に含めている
のれん及び無形資産への投資額 36,505百万円 ニュートラシューティカルズ関連事業の主な設備投資として計上した
買収時の売上規模 約90百万カナダドル 直近12か月。2013年から2016年の間に約3倍へ伸びていた
業績への影響 軽微 プロ・フォーマ情報は重要性が乏しいとして開示を省略している
取得対価の配分 2018年12月期に完了 取得資産及び引受負債の公正価値は暫定値から変更なし
結合の理由 製品ポートフォリオの充実 新たな製品カテゴリーの追加と、北米におけるNC関連事業の拡大
のれんの帰結 2023年12月期に減損 資産を回収可能価額31,537百万円まで減額。うちのれん12,707百万円

出所:大塚ホールディングス 有価証券報告書 第10期(2017年12月期)【企業結合】【重要な契約等】【設備の状況】 / 同 第11期(2018年12月期)【企業結合】 / 同 第16期(2023年12月期)【減損損失】

大塚HD:ニュートラシューティカルズ関連事業の推移

(百万円) 外部顧客への売上収益セグメント利益減損損失 備考
2013年3月期 JGAAP期。IFRSへの移行日は2015年1月1日で、遡及した数値がない
2014年3月期
2014年12月期 決算期変更に伴う9か月の変則決算。JGAAP期
2015年12月期 306,72334,438 IFRS。セグメント別の減損損失は開示されていない
2016年12月期 300,88332,507
2017年12月期 314,65139,169 デイヤフーズの連結は8月31日から。当期の業績への影響は軽微
2018年12月期 338,58543,041428 デイヤフーズ社ブランドの売上収益は前期比で増加
2019年12月期 333,75739,1751,034 育成3ブランド合計は前期比18.0%増の21,217
2020年12月期 334,05441,46182 育成3ブランド合計は前期比28.0%増の27,162
2021年12月期 376,60046,55961 育成3ブランド合計は前期比0.9%増の27,071
2022年12月期 437,01456,2762,040 育成3ブランド合計は28,514。現地通貨ベースでは減収
2023年12月期 483,32533,63626,065 デイヤフーズ社に減損24,828。翌期の有報では利益を34,243に組み替え
2024年12月期 557,00659,7765,735
2025年12月期 577,62157,71912,039 デイヤフーズ社に減損11,349。うち有形固定資産7,231
外部顧客への売上収益と利益率
外部顧客への売上収益(百万円)セグメント利益率(%)

出所:大塚ホールディングス 有価証券報告書 第9期〜第18期(セグメント情報、報告セグメントごとの外部顧客への売上収益・セグメント利益・減損損失)

大塚HD:のれんと無形資産の推移

(百万円) のれん無形資産資産合計 備考
2013年3月期 JGAAP期。IFRSへの移行日は2015年1月1日で、遡及した数値がない
2014年3月期
2014年12月期 決算期変更に伴う9か月の変則決算。JGAAP期
2015年12月期 244,743481,2102,575,280 IFRS。移行日のれん92,308、無形資産206,588、資産合計2,238,665
2016年12月期 231,839446,9742,478,290
2017年12月期 249,463455,8622,480,256 デイヤフーズのれん11,981と無形資産24,522を含む
2018年12月期 284,097483,9422,476,634 翌期の有報では280,989・487,779・2,477,363に組み替え
2019年12月期 274,761478,5402,581,309
2020年12月期 262,914457,1922,627,807
2021年12月期 295,735522,6622,820,915
2022年12月期 335,442579,7863,102,716
2023年12月期 379,048490,9713,361,244 デイヤフーズ分ののれん12,707と無形資産12,120を減損で落とした
2024年12月期 449,464544,2473,739,251
2025年12月期 509,984574,1344,197,562
のれんと無形資産
のれん(百万円)のれん以外の無形資産(百万円)

出所:大塚ホールディングス 有価証券報告書 第9期〜第18期(連結財政状態計算書、のれん・無形資産・資産合計)

同じ問いに直面した会社

海外買収による隣接領域への展開2017年日本電気硝子欧米3拠点(英国・オランダ・米国)の取り込みによるガラス繊維事業の海外展開ディスプレイ依存の是正と成長事業の育成
2017年コマツ米鉱山機械大手の取り込みによる製品群のフルライン化鉱山機械のフルライン化と資本配分
2018年クラレ環境ソリューションを第3の柱に据える事業構成の組み替え収益源の偏りの是正と第3の柱の獲得
2018年ルネサスエレクトロニクス車載・データセンター向けアナログ半導体の品揃えの増強車載マイコン一本足からの脱却とアナログ・ミックスドシグナル事業の増強
2016年トレンドマイクロ米HPからのネットワークセキュリティ参入ネットワークセキュリティ領域への参入と無借金経営下での資金の使い道
ブランドを軸とした隣接領域への展開2018年FUJI商号の「FUJI」への変更事業構成と社名
2012年MARUWA企業再生支援機構からの全株式7億円での引き受けLED照明事業の販路とブランドの獲得
2023年日本テレビホールディングス議決権42.3%の取得による子会社化コンテンツIPの取得と、制作会社の後継体制
2011年リコー祖業であるカメラ事業の買い戻しと、手放していた事業の立て直し消費者向けカメラ事業の確立とラインナップ補完
2010年円谷フィールズホールディングス映像コンテンツ版権元の取り込みによる、遊技機の外への収益源の広がりIP保有と事業構成
出典・参考
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第10期(2017年12月期)【企業結合】【重要な契約等】【設備の状況】」
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第11期(2018年12月期)【企業結合】」
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第16期(2023年12月期)【減損損失】」
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第18期(2025年12月期)【減損損失】【事業の内容】」
  • 大塚ホールディングス 有価証券報告書「第9期〜第18期(セグメント情報、連結財政状態計算書)」

免責事項およびポリシー