ルネサスエレクトロニクス 米IDTの買収 車載・データセンター向けアナログ半導体の品揃えの増強

更新:

時期 2018年9月
当時の社長 呉文精
論点 車載マイコン一本足からの脱却とアナログ・ミックスドシグナル事業の増強
何をなぜ決めたか
概要

車載マイコンで世界首位のルネサスが、データセンターや通信インフラ向けのアナログ・ミックスドシグナル半導体を増強するため、2018年9月11日に米IDT(Integrated Device Technology)との合併契約を締結した経営判断。1株49米ドル・総額約67億米ドルで全株式を取得し、2019年3月30日に完全子会社化した。取得原価は7,267億円で、2017年のインターシルに続くアナログ強化の第2弾であった。

背景

2010年に日立・三菱電機系のルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが統合して発足したルネサスは、2013年3月期に1,676億円の当期損失を計上し、産業革新機構の出資で再建した。車載マイコンで世界首位に立ちながら、リストラによって黒字を絞り出す体質にとどまり、単一分野への依存から抜け出すことが課題であった。

内容

2016年6月に社長兼CEOとなった呉文精氏のもとで、ルネサスは2017年2月にインターシルを3,454億円で取得し、アナログ領域へ踏み出していた。その統合の成否が固まらないうちに、2018年9月11日の取締役会でIDTの完全子会社化を決議し、同日に合併契約を締結した。買収資金は三菱UFJ銀行・みずほ銀行との7,280億円のタームローンで手当てし、2019年1月に総額8,970億円のシンジケートローンへ組み替えた。

含意

買収連打は半導体市況の谷と重なり、2019年12月期は営業利益63億円・当期損失63億円へ沈んだ。のれんは4,460億円積み上がって残高6,250億円となり、総資産は1兆6,681億円へ膨らんだ。だが2021〜22年のコロナ下の半導体不足で最高益を記録し、拡大路線が再建後の成長を支えた。国有化された会社が買収の主体へ転じた転換であった。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

国有化された会社が、買収の主体になるという逆説

この買収の面白さは、かつて国の支援で救われた会社が、その数年後に7,000億円を超える買収の主体へ転じた点にある。2013年3月期に1,676億円の当期損失を計上し、産業革新機構の出資で辛うじて生き延びたルネサスは、リストラで黒字を絞り出す縮小均衡に長くとどまっていた。その会社が、インターシル、IDTと立て続けに海外メーカーを取り込み、車載マイコン一本足から抜け出す拡大路線へ転換した。守りで生き延びた会社が攻めへ転じた振れ幅に、この決断の性格がうかがえる。

半導体は、需要の山と谷が数年ごとに入れ替わる市況産業である。買収を連打すれば、谷が来たときに投資の負担と市況の悪化が同時に重なり、2019年のルネサスはその谷に足をとられた。それでも路線は曲がらず、決断した呉文精氏から2019年7月に引き継いだ柴田英利氏のもとで成長投資は続き、翌々年のコロナ下の需要逼迫という山で報われた。市況の谷に買収の重荷を背負う覚悟と、次の山まで路線を保つ胆力がそろって初めて成り立つ賭けであり、縮小均衡を続けていれば避けられた振れ幅を、あえて取りに行った判断であったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業の名称 Integrated Device Technology, Inc. 事業の内容はミックスドシグナルなどのアナログICの開発、製造および販売
合併契約の締結 2018年9月11日 同日付の取締役会でIDTを完全子会社とすることを決議し、同日に契約を締結
買付価格 1株当たり49米ドル 総額約67億米ドル。合併対価としてIDTの株主には現金が交付された
企業結合の法的形式 逆三角合併 米国デラウェア州に設立した買収子会社とIDTが合併し、存続会社はIDT
企業結合日 2019年3月30日 米国太平洋夏時間では2019年3月29日。同日付で完全子会社となった
取得原価 726,747百万円 現金703,559百万円とストック・オプション23,188百万円の合計
取得関連費用 1,258百万円 うち885百万円を2019年12月期の販売費及び一般管理費に計上
受け入れた資産の額 413,959百万円 引き受けた負債は124,591百万円、差し引く純資産は289,368百万円
無形資産への配分額 320,276百万円 技術資産217,540・顧客関連資産79,025・その他21,421・ソフトウエア2,290
のれんの金額 445,976百万円 第3四半期の暫定値447,135百万円を期末の確定で1,159百万円減額
のれんの発生原因 IDTとのシナジーによる超過収益力 税務上損金算入可能と見込まれるのれんの額は無い
のれんの償却方法 償却せず、減損テストを実施 技術資産は12年以内、顧客関連資産は14年以内の定額法で償却する
買収資金の借入 8,970億円 2019年1月15日付シンジケートローン。2018年10月の7,280億円の借入は解約
子会社の取得による支出 685,831百万円 純額。被取得企業の保有現金26,326百万円を差し引いた後の支払額

出所:ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書 第17期(2018年12月期)【経営上の重要な契約等】・第18期(2019年12月期)【連結財務諸表注記 7.企業結合】

のれん・無形資産と総資産の推移

ルネサスエレクトロニクス:のれん・無形資産と総資産の推移

(百万円) のれん無形資産総資産 備考
2016年12月期 049,461873,241 IFRS移行日(2017年1月1日)の残高。インターシル買収前でのれんはゼロ
2017年12月期 190,603202,4021,136,000 2017年2月のインターシル買収でのれん190,603を計上
2018年12月期 187,230166,5241,055,235 合併契約を締結した期。取得は翌期のためIDT分は残高に入らない
2019年12月期 625,030414,5821,668,148 IDT取得でのれん445,976・無形資産320,276が加わり総資産が6割増
2020年12月期 590,459364,7641,608,985
2021年12月期 1,089,452534,7782,426,301 Dialog・Celenoを取得。翌期の確定処理を反映した遡及修正後の額
2022年12月期 1,264,275488,8392,812,491
2023年12月期 1,362,131421,8473,167,003
のれんと無形資産
のれん(百万円)無形資産(百万円)

出所:ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書 第16〜22期(連結財政状態計算書)

産業・インフラ・IoTセグメントの売上収益と営業利益

ルネサスエレクトロニクス:産業・インフラ・IoTセグメントの売上収益と営業利益

(百万円) 外部顧客への売上収益セグメント営業利益 備考
2018年12月期 346,56980,547 自動車と産業・インフラ・IoTの2区分での開示が始まった期
2019年12月期 329,70559,063 IDTが加わったが半導体市況の谷と重なり減収減益
2020年12月期 363,60989,702
2021年12月期 515,547167,071 Dialogの取得と半導体不足による需要増で売上収益が5割増
2022年12月期 845,881331,772
2023年12月期 799,338268,384
産業・インフラ・IoTの売上収益と営業利益率
外部顧客への売上収益(百万円)セグメント営業利益率(%)

出所:ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書 第17〜22期(連結財務諸表注記 セグメント情報)

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参考文献
出典・参考
  • ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書「第17期(2018年12月期)【経営上の重要な契約等】」
  • ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書「第18期(2019年12月期)【連結財務諸表注記 7.企業結合】」
  • ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書「第18期(2019年12月期)【連結財務諸表注記 13.のれんおよび無形資産】」
  • ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書「第16〜22期(連結財政状態計算書・連結損益計算書)」
  • ルネサスエレクトロニクス 有価証券報告書「第17〜22期(連結財務諸表注記 セグメント情報)」

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