米カルゴン・カーボン取得(2017年・クラレの決断)

更新:
論点第3の事業は自前開発か買収か
クラレ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
環境ソリューションを第3の柱に据える事業構成の組み替え

何をなぜ決めたか:環境ソリューションを第3の柱に据える事業構成の組み替え

概要

クラレが2017年9月21日に、活性炭の世界最大手である米Calgon Carbon Corporationの全株式を取得して完全子会社とすることで合意する契約を締結し、2018年3月9日に全株式を取得した経営判断。取得原価は123,497百万円(1,093百万USドル)で、対価は全額現金。有価証券報告書は企業結合日を2018年1月1日(みなし取得日)とし、連結した業績は2018年1月1日から12月31日までの通年である。

背景

2017年12月期はビニルアセテートが売上高518,442百万円のうち234,711百万円を占め、セグメント利益61,619百万円は全社営業利益76,351百万円の8割を超えていた。主力事業に寄りきった構造のなかで、クラレは2014年6月にE.I.du Pont de Nemours and Companyからビニルアセテート関連事業を買収し、2017年1月にはクラレケミカルを吸収合併して炭素材料事業部を新設していた。買って揃える方針は、この買収の前から続いていた。

内容

有価証券報告書は結合の理由を、Calgon Carbon社は世界7か国に生産拠点、世界16か国に販売拠点を有する活性炭のグローバルリーダーであり、買収後は炭素材料事業を将来のコア事業の一つとすべく、同社のグローバルに強固な事業基盤を活用した事業拡大の推進、両社の持つ技術力・開発力の融合による技術革新の加速、生産体制の最適化によるコストダウンなどの戦略的施策を順次実施する、と記している。のれん50,511百万円は20年間にわたる均等償却とされた。資金は長期借入れ90,000百万円と社債の発行40,000百万円、短期借入金の純増額26,715百万円等で賄っている。

含意

機能材料セグメントの売上高は2017年12月期の39,774百万円から2018年12月期に111,969百万円へ跳ねたが、セグメント利益は6,665百万円から4,396百万円へ減少した。2021年12月期の有価証券報告書は、前連結会計年度までCalgon Carbon社ののれん償却費計上後の営業損益は継続してマイナスであり、当期にプラスへ転じたと記している。その間、2018年5月に米国子会社で発生した火災事故の訴訟関連損失を2019年12月期に50,590百万円、2020年12月期に23,196百万円計上し、2020年12月期には米国子会社の一部事業の撤退でのれん3,684百万円を含む減損損失4,475百万円を事業整理損に計上した。

いつ何が起きたか8件
当時の取締役8名

当時の取締役(2017年3月株主総会決議)

  • 松山貞秋:専務執行役員
  • 浜口友一:取締役
  • 久川和彦:専務執行役員
  • 伊藤正明:社長
  • 阿部憲一:常務執行役員
  • 佐野義正:常務執行役員
  • 豊浦仁:常務執行役員
  • 浜野潤:取締役
考察:半歩の代金
考察

考察:半歩の代金

受け入れた資産136,271百万円から引き受けた負債63,285百万円を引くと、取得した正味の資産は72,986百万円になる。払った123,497百万円との差、50,511百万円がのれんである。値がついたのは設備よりも、世界7か国の生産拠点と16か国の販売網、そして活性炭のグローバルリーダーという立ち位置であった。20年という償却期間の選び方にも、その超過収益力が長く続くという読みが表れている。主力の技術を保ったまま新しい領域へ半歩だけ踏み出す、その半歩の代金が1,234億円であった。

買った事業は、しばらくのあいだ自らの償却費すら賄えなかった。2021年12月期の有価証券報告書は、前期までのれん償却費計上後の営業損益は継続してマイナスであったと記している。機能材料セグメントの売上高が2018年12月期に3倍近くへ跳ねながら、セグメント利益がかえって減少したのはそのためである。しかもこの時期、買収とは無関係の火災事故による訴訟関連損失が2期で73,786百万円にのぼり、借入で財務の余裕を使い切った直後の会社を直撃した。売上高185,692百万円、セグメント利益10,323百万円という2023年12月期の姿に届くまで、5期を要したことになる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

クラレ:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
クラレ:のれんと無形固定資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産合計総資産備考
2014年3月期26,59857,198634,252
2014年12月期31,21788,840691,538決算日を3月31日から12月31日に変更したため9か月の変則決算
2015年12月期28,56483,976701,770
2016年12月期26,25679,537725,433
2017年12月期24,56777,024776,735
2018年12月期66,485144,150947,095Calgon Carbon社ののれん50,511百万円が加わった期
2019年12月期61,357129,934991,149
2020年12月期51,105111,0491,051,584米国子会社の事業撤退でのれん3,684百万円を減損
2021年12月期52,635114,0551,091,014このうちCalgon Carbon社由来は37,395百万円
2022年12月期56,058121,4841,221,533このうちCalgon Carbon社由来は40,446百万円
2023年12月期55,386120,5011,254,485このうちCalgon Carbon社由来は40,347百万円
出所:クラレ 有価証券報告書 第133期〜第143期(連結貸借対照表、重要な会計上の見積り)
出所:クラレ 有価証券報告書 第133期〜第143期(連結貸借対照表、重要な会計上の見積り)

クラレ:機能材料セグメントの推移

機能材料の売上高(百万円)機能材料のセグメント利益率(%)
クラレ:機能材料セグメントの推移
(百万円)機能材料の売上高機能材料のセグメント利益備考
2014年3月期32,7951,500
2014年12月期30,7461,5239か月の変則決算
2015年12月期38,9235,564
2016年12月期48,8514,471
2017年12月期39,7746,665
2018年12月期111,9694,396Calgon Carbon社を1月から通年で連結。売上は3倍近いが利益は減少した
2019年12月期107,0203,836
2020年12月期106,6502,994減損損失4,475百万円は特別損失の事業整理損に含めて表示
2021年12月期119,3978,673Calgon Carbon社ののれん償却費計上後の営業損益がプラスへ転じた
2022年12月期170,3298,574
2023年12月期185,69210,323
出所:クラレ 有価証券報告書 第133期〜第143期(セグメント情報、報告セグメントごとの売上高・利益)
出所:クラレ 有価証券報告書 第133期〜第143期(セグメント情報、報告セグメントごとの売上高・利益)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業Calgon Carbon Corporation米国ペンシルバニア州。ニューヨーク証券取引所上場
取得した事業の内容活性炭及び水処理機器の製造・販売世界7か国に生産拠点、世界16か国に販売拠点を有する
買収契約の締結日2017年9月21日全株式を取得し完全子会社とすることで合意する契約
全株式を取得した日2018年3月9日締結した契約に基づき実行した
企業結合日2018年1月1日みなし取得日。連結した業績は2018年1月1日から12月31日までの通年
企業結合の法的形式現金を対価とする株式の取得取得企業を決定するに至った主な根拠も同じ
取得した議決権比率100%結合後企業の名称に変更はない
取得原価123,497百万円1,093百万USドル。対価は全額現金
取得関連費用1,387百万円アドバイザリー費用
のれん50,511百万円447百万USドル。発生原因は期待される将来の超過収益力
のれんの償却20年間にわたる均等償却2023年12月期末のCalgon由来の残高は40,347百万円
受け入れた資産136,271百万円流動資産39,420百万円、固定資産96,850百万円
引き受けた負債63,285百万円流動負債17,045百万円、固定負債46,240百万円
買収資金の調達長期借入れ90,000百万円ほかに社債の発行40,000百万円、短期借入金の純増額26,715百万円
結合を行った主な理由炭素材料事業を将来のコア事業の一つに事業基盤を活用した事業拡大、技術革新の加速、生産体制の最適化
出所:クラレ 有価証券報告書 第138期(2018年12月期)【企業結合等関係】・第137期(2017年12月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】
出所:クラレ 有価証券報告書 第138期(2018年12月期)【企業結合等関係】・第137期(2017年12月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】
当時の取締役8名

当時の取締役(2017年3月株主総会決議)

  • 松山貞秋:専務執行役員
  • 浜口友一:取締役
  • 久川和彦:専務執行役員
  • 伊藤正明:社長
  • 阿部憲一:常務執行役員
  • 佐野義正:常務執行役員
  • 豊浦仁:常務執行役員
  • 浜野潤:取締役
参考文献

参考文献

参考
  • クラレ 有価証券報告書(連結)
  • クラレ 有価証券報告書【沿革】
  • クラレ 有価証券報告書「第138期(2018年12月期)【企業結合等関係】」
  • クラレ 有価証券報告書「第137期(2017年12月期)【経営上の重要な契約等】【重要な後発事象】」
  • クラレ 有価証券報告書「第141期〜第143期(2021年12月期〜2023年12月期)【重要な会計上の見積り】」
  • クラレ 有価証券報告書「第139期・第140期(2019年12月期・2020年12月期)【連結損益計算書関係】」
  • クラレ 有価証券報告書「第133期〜第143期(主要な経営指標等の推移、連結貸借対照表、セグメント情報)」

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