レーヨン撤退とクラリアントのポバール事業買収(2000年・クラレの決断)

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論点創業事業から撤退し樹脂へ集中するか
クラレ:業績の推移
売上高(億円)当期純利益率(%)
創業以来の繊維の生産停止と、欧州の樹脂生産拠点の取得

何をなぜ決めたか:創業以来の繊維の生産停止と、欧州の樹脂生産拠点の取得

概要

2000年5月22日、クラレの取締役会は、2001年3月期中にレーヨン事業から撤退することを決議した。レーヨンは1926年に倉敷絹織を設立した目的の化学繊維で、1928年に倉敷工場で生産を開始した創業事業である。生産は2001年2月に停止し、残った在庫の販売は2002年3月期まで続けた。

撤退の決議の翌月、2000年6月に和久井康明氏が社長に就任した。2001年7月、クラレはスイスのクラリアントからポバール(PVA)関連事業を買収した。事業を引き継ぐ子会社としてドイツにKuraray Specialities Europe GmbH(KSE)を設立し、2001年12月からPVAとPVB(ポリビニルブチラール)の事業の運営を始めた。

背景

レーヨンは国内でも海外でも需要が減少し、2000年3月期には赤字を計上した。将来の採算の見通しが立たないことが、撤退の理由である。繊維事業全体でも、外部顧客向けの売上高は1997年3月期の112,937百万円から2000年3月期には98,088百万円に減少し、営業利益は2,769百万円にとどまった。

一方、ポバールの市場は日本とアジアを中心に、欧州と北米へも広がっていた。工場を新設すれば時間がかかり、需給が崩れるおそれもあった。クラリアントの事業を競合が買収すれば、クラレのシェアが下がる危険があった。その事業は、クラリアントが1997年にドイツの化学会社ヘキストから取得したものである。

内容

撤退と並行して、国内の繊維の生産体制を組み替えた。2001年4月に倉敷工場と玉島工場を統合して倉敷事業所とし、10月には西条事業所のポリエステル長繊維生産部門を分社してクラレ西条を設立した。2002年4月には衣料・インテリア用テキスタイル関連事業を、会社分割でクラレトレーディングに承継させた。

買収の対価は28,468百万円で、ドイツの子会社がクラリアントからPVA・PVB事業の設備とのれんを取得した。のれんは約300億円にのぼり、償却を前倒しで進めるため、2003年3月期と2004年3月期はこの事業が損失になると見込んだ。KSEの設立で、グループのポバールの年産能力は14.4万トンから19.4万トンに増加した。

含意

繊維事業の縮小は数字に表れた。2002年3月期の繊維事業は、外部顧客向けの売上高が80,274百万円、営業利益が161百万円まで低下した。同じ期の化成品事業は売上高152,541百万円、営業利益13,298百万円で、営業利益は連結の18,958百万円の7割に当たる。

買収した事業は、見込みより早く収益に寄与した。KSEは初年度の2003年3月期に売上高約160億円を計上し、のれん償却による営業損失は想定を大きく下回った。2006年3月期には化成品・樹脂事業の売上高が190,753百万円、営業利益が31,868百万円となり、PVBフィルムは建材向けに伸びた。連結営業利益は38,277百万円と、2002年3月期の2倍になった。

いつ何が起きたか12件
考察:撤退と買収を1年で組にした判断
考察

考察:撤退と買収を1年で組にした判断

なぜクラレはレーヨンの撤退とポバール事業の買収を相次いで決めたのか。レーヨンは創業の目的だった事業だが、2000年3月期には赤字に陥り、採算が戻る見込みも立たなかった。一方、ポバールは市場が欧州や北米へ広がり、工場を新設すれば時間がかかる。売りに出たクラリアントの事業を競合が取れば、シェアを失う。赤字の事業を止めて資金と人を空け、伸びる事業の生産能力を買って時間を縮める。2つの判断は、同じ資源配分の両面だったと考えられる。

もっとも、買収には重い負担が付いていた。対価は28,468百万円で、のれんは約300億円にのぼり、会社自身が2期の損失を見込んでいた。ポバールの需要が伸びなければ、のれんの償却だけが残る。さらに、繊維事業はレーヨンを止めた後も営業利益が161百万円まで低下し、国内の繊維を分社や統合で縮める作業は続いた。創業事業から撤退する判断は、それだけで収益を戻すものではなかったのだろう。

結果は成功である。KSEは初年度に売上高約160億円を計上し、のれん償却による損失は想定より小さかった。2006年3月期には化成品・樹脂事業の営業利益が31,868百万円に達し、連結営業利益は38,277百万円と2002年3月期の2倍になった。ポバールの年産能力を14.4万トンから19.4万トンへ一度に増やしたことが、需要の伸びを取り込む前提になったとみられる。赤字の創業事業を止め、伸びる事業の能力を買うという組み合わせは、5年で数字に表れた。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る2表

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図と表

クラレ:繊維事業と化成品事業の推移(旧事業区分)

繊維売上高(百万円)繊維営業利益率(%)

繊維の営業利益は1997年3月期の37億円から2002年3月期に1.6億円まで縮んだ

クラレ:繊維事業と化成品事業の推移(旧事業区分)
(百万円)繊維売上高繊維営業利益化成品売上高化成品営業利益備考
1996年3月期112,8612,785139,13314,555売上高は外部顧客向け。繊維の区分名は化学・合成繊維
1997年3月期112,9373,790146,81214,884
1998年3月期111,0413,768150,31916,540
1999年3月期103,1202,686142,07116,501
2000年3月期98,0882,769144,43512,160レーヨンが赤字。区分名を繊維(Fibers and textiles)へ変更
2001年3月期90,8221,720151,00712,7152000年5月に撤退を決議し、2001年2月に生産を停止
2002年3月期80,274161152,54113,298KSEの運営開始は2001年12月
出所:クラレ 英文年次報告書「Financial Section」(1997年3月期)注記11(事業の種類別セグメント情報)(1996・1997年3月期) / クラレ Annual Report 1999 注記12(事業の種類別セグメント情報)(1998・1999年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2000 注記13(事業の種類別セグメント情報)(2000年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2002 注記14(事業の種類別セグメント情報)(2001・2002年3月期)
出所:クラレ 英文年次報告書「Financial Section」(1997年3月期)注記11(事業の種類別セグメント情報)(1996・1997年3月期) / クラレ Annual Report 1999 注記12(事業の種類別セグメント情報)(1998・1999年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2000 注記13(事業の種類別セグメント情報)(2000年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2002 注記14(事業の種類別セグメント情報)(2001・2002年3月期)

クラレ:連結の売上高と利益の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)

連結営業利益は2002年3月期の190億円から2006年3月期に383億円へ倍増した

クラレ:連結の売上高と利益の推移
(百万円)売上高営業利益当期純利益備考
1996年3月期330,86926,09311,049
1997年3月期340,11226,54811,741
1998年3月期347,64328,89813,962
1999年3月期336,46627,14813,171
2000年3月期316,44420,3217,452
2001年3月期313,65119,9314,045レーヨンの撤退を決議し、生産を停止した期
2002年3月期305,86218,9582,866
2003年3月期322,52425,1868,051KSEの初年度。売上高は約160億円
2004年3月期332,14928,04615,181
2005年3月期354,87433,18718,465
2006年3月期375,07238,27721,185
出所:クラレ Annual Report 1999 Consolidated Six-Year Summary(1996〜1999年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2002 Consolidated Six-Year Summary(2000〜2002年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2005 Consolidated Six-Year Summary(2003〜2005年3月期) / クラレ 有価証券報告書 第125期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】(2006年3月期)
出所:クラレ Annual Report 1999 Consolidated Six-Year Summary(1996〜1999年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2002 Consolidated Six-Year Summary(2000〜2002年3月期) / クラレ ANNUAL REPORT 2005 Consolidated Six-Year Summary(2003〜2005年3月期) / クラレ 有価証券報告書 第125期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】(2006年3月期)
参考文献

参考文献

参考
  • クラレ ANNUAL REPORT 2000 注記14(Subsequent event)
  • クラレ 有価証券報告書 第125期(2006年3月期)【沿革】
  • クラレ ANNUAL REPORT 2002 Review of Operations(Fibers and Textiles)、PVA-Related Operations of Clariant Acquired
  • クラレ 有価証券報告書 第125期(2006年3月期)【役員の状況】
  • クラレ ANNUAL REPORT 2000 Fibers and Textiles
  • クラレ 英文年次報告書「Financial Section」(1997年3月期)注記11(事業の種類別セグメント情報)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2000 注記13(事業の種類別セグメント情報)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2002 PVA-Related Operations of Clariant Acquired
  • クラレ ANNUAL REPORT 2002 Poval Business Concept
  • クラレ ANNUAL REPORT 2002 連結財務諸表注記(Goodwill)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2002 注記14(事業の種類別セグメント情報)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2003 Review of Operations
  • クラレ 有価証券報告書 第125期(2006年3月期)【業績等の概要】
  • クラレ 英文年次報告書「Financial Section」(1997年3月期)注記11(事業の種類別セグメント情報)(1996・1997年3月期)
  • クラレ Annual Report 1999 注記12(事業の種類別セグメント情報)(1998・1999年3月期)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2000 注記13(事業の種類別セグメント情報)(2000年3月期)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2002 注記14(事業の種類別セグメント情報)(2001・2002年3月期)
  • クラレ Annual Report 1999 Consolidated Six-Year Summary(1996〜1999年3月期)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2002 Consolidated Six-Year Summary(2000〜2002年3月期)
  • クラレ ANNUAL REPORT 2005 Consolidated Six-Year Summary(2003〜2005年3月期)
  • クラレ 有価証券報告書 第125期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】【業績等の概要】(2006年3月期)
  • クラレ 英文年次報告書「ANNUAL REPORT 2000」
  • クラレ 英文年次報告書「ANNUAL REPORT 2002」
  • クラレ 英文年次報告書「ANNUAL REPORT 2003」
  • クラレ 英文年次報告書「ANNUAL REPORT 2005」
  • クラレ 英文年次報告書「Annual Report 1999」
  • クラレ 英文年次報告書「Financial Section(1997年3月期)」
  • クラレ 有価証券報告書「第125期(2006年3月期)【沿革】【役員の状況】【業績等の概要】」

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