筆者の見解
規模を追わない企業の強さ
この転換の核心は、大手と同じ土俵で規模を競うことをやめた点にある。汎用の繊維で東レや帝人と生産能力を張り合っても競争劣位に立つという冷めた自己認識が、市況に振られにくい高付加価値の独自製品へと経営資源を集中する判断を生んだ。基盤技術から派生商品を枝分かれさせる地下茎経営は、限られた研究開発を無駄なく複数の市場へ広げる仕組みでもあった。バブル崩壊後の不況で他社が大きく沈むなか、クラレの減益幅が最も小さかった事実は、規模より質を選んだ長年の積み重ねが不況抵抗力に転じたことを示しているだろう。
もっとも、この型が万能というわけではない。得意技術から離れた落下傘的な事業で繰り返し撤退したように、地下茎の外へ踏み出す試みは失敗を伴った。独自性へのこだわりは、裏を返せば市場規模の大きい主戦場を避け続ける選択でもあり、成長の速度には自ずと限りがある。小さな池の大きな鯉であり続けることと、より大きな海へ出て成長を取りにいくことをどう両立させるか——不況に強い体質を築いたクラレが次に向き合ったのは、その問いであったといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月