JSRエラストマー事業のENEOSへの譲渡と、半導体材料・ライフサイエンスへの集中

時期 2021年5月
意思決定者(推定) エリック・ジョンソン川橋信夫 CEO・社長兼COO
論点 祖業の扱いと中核事業への資本集中
概要
2021年5月11日、JSRが合成ゴムの製造・販売を含むエラストマー事業をENEOSへ譲渡する契約を結んだ経営判断。会社分割で新会社に事業と関係会社株式を承継させ、2022年4月をめどにENEOSがその全株式を取得して完全子会社とする建て付けであった。株式取得価額は第三者評価を参考に合意した1,150億円をベースに置いた。
背景
エラストマーは1957年の設立以来の祖業で、2021年3月期も売上収益の3割を超えていた。ただ市況と原料価格に振られやすく、コア営業損益は前期の17億58百万円の損失から114億20百万円の損失へ赤字が広がっていた。
内容
2021年5月12日に日本合成ゴム分割準備株式会社を設け、吸収分割でエラストマー事業と子会社・関係会社株式を承継させた。同年11月に商号を株式会社ENEOSマテリアルと決めている。ENEOSは、JSRが約60億円規模のコスト削減を終えることを買収の前提に置いた。
含意
譲渡後のJSRはデジタルソリューションとライフサイエンスを中核事業とする会社になり、社名の由来であるJapan Synthetic Rubberの合成ゴムは手元から離れた。国策会社として担った国産化の事業が、石油元売り最大手へ渡った。
筆者の見解

手放す側が整えてから渡した

1,431億円——譲渡が決まる直前の期にエラストマー事業が上げた売上収益は、全社の3割を超えていた。JSRはこれを、赤字が一期出たから畳んだのではない。前期に17億58百万円だったコア営業損失が114億20百万円へ膨らんだ二年の推移は、規模がありながら利益の読めない事業の姿を数字で示していた。半導体材料とライフサイエンスへ資本を寄せるうえでは、その規模こそが重荷になっていたとみられる。

ただ、この判断が身軽さだけをもたらしたとは言い切れない。ENEOSは同じ事業を、低燃費タイヤに欠かせないSSBRを主力とする成長分野と位置づけて取得している。売り手が持ちきれないと見た資産を、買い手は成長事業として受け取っている。しかも譲渡の前提には、JSRが約60億円規模のコスト削減を終えることが置かれていた。採算の立つ形に整えてから渡した点で、身を削ったのは手放す側であったといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

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出典・参考
  • ENEOS ニュースリリース 2021年5月11日「JSR株式会社のエラストマー事業の買収について」
  • ENEOS ニュースリリース 2022年4月1日「JSR株式会社のエラストマー事業の買収完了について」
  • JSR ニュースリリース 2021年11月19日「エラストマー事業新会社の商号決定について」
  • JSR 第76回定時株主総会招集通知 事業報告(2021年3月期)
  • JSR 有価証券報告書(2022年3月期・連結・IFRS)
  • JSR 有価証券報告書【沿革】
  • 日経ビジネス 1994年1月31日号

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