第一三共複眼経営を捨て、がんに絞る——中山讓治氏の選択と集中
- 概要
- 2015年、第一三共は複眼経営の看板だった海外後発薬事業から完全に退き、新薬、なかでもがん領域へ経営資源を絞り込む方針へ転換した。3月にインドのサン・ファーマシューティカル株を全売却してランバクシーとの縁を断ち、同年、中山讓治社長兼CEOが新薬回帰を明言、年末には『がんに強い会社』への転身を打ち出した。
- 背景
- 2008年のランバクシー買収は品質問題と巨額減損で躓き、複眼経営(新薬・後発薬・OTC・ワクチンの4本柱)は行き詰まっていた。加えて年約3000億円を売り上げる主力の降圧薬オルメサルタンが2016年に米国で特許切れを控え、後発薬撤退と大型新薬の減収が同時に迫っていた。
- 内容
- 中山讓治社長はグローバル後発薬と新薬の二正面作戦を断念し、従来得意としてきた新薬に特化する結論を下した。サン・ファーマ株の売却で得た約4000億円のキャッシュを成長投資に回し、社内で温めてきた抗体薬物複合体(ADC)の研究へ資源を集中させ、がん領域への転身を宣言した。
- 含意
- 自社創製のADC『エンハーツ』が2020年に上市し、2024年3月期には売上1兆6000億円の約3割を稼ぐ主力へ育った。がんの経験がほぼなかった会社が海外大手も注目する存在へ変わり、ランバクシーで刻んだ赤字は自前の新薬で埋め戻された。
筆者の見解
筆者見解
この転換の要点は、新しい領域へ打って出た積極性よりも、広げた事業をどこまで手放せるかという撤退の徹底にあったとみることができる。ランバクシーで嫌ったはずの単品依存や巨額投資のリスクは、後発薬を続けても新薬に絞っても形を変えて残った。中山讓治社長は、勝ち目の薄い二正面作戦を畳み、得意領域へ資源を寄せる道を選んだ。四つの柱を掲げて広げた経営を自ら巻き戻す判断は、掲げるより畳むほうが難しいという経営の機微を示しているようにもみえる。
もっとも、絞り込んだ先ががんであった必然を、当時の材料だけから読み取るのは難しい。社内で細々と続いていたADC研究が世界的な大型薬へ育ったのは、技術の筋のよさに加え、少なからぬ幸運も働いた結果だったとみられる。選択と集中は、外れれば単なる退却として記憶されたはずで、エンハーツの成功があってはじめて先見の一手として語られている面は否めない。理想の是非より、退く決断と育てる技術がたまたま噛み合った巡り合わせこそが、この転換の実相に近いのかもしれない。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
- 第一三共 有価証券報告書(2015年3月期・連結)