AI・データセンターへの集中と電線大手の再定義
2020年実施薄利に苦しんだ電線御三家フジクラは、光ファイバへの「選択と集中」でどのようにAIインフラの主役へ変わったのか
- 概要
- 2020年前後の構造改革で不採算事業を整理したフジクラが、生成AI・データセンター需要を追い風に光ファイバと光接続製品へ資源を集中させ、薄利の電線大手から高収益の光通信メーカーへ事業構成を組み替えた経営判断。岡田直樹社長のもと、2025年3月期に売上9,793億円・営業利益1,355億円で過去最高を更新した。
- 背景
- フジクラは古河電気工業・住友電気工業と並ぶ「電線御三家」の一角だが、銅相場に採算を左右される電線の薄利に長く苦しみ、2019年度(2020年3月期)には過去最大級の385億円の最終赤字を計上した。中期経営計画を中止し、「100日プラン」で不採算事業の整理と固定費の圧縮に取り組んだ。
- 内容
- 岡田直樹社長は限られた資源を光ファイバと融着接続機など光接続製品へ集中させ、2024年に導体(銅電線)事業を分社化して本体を情報通信中心に再定義した。生成AI・データセンター向けの需要拡大に応じ、日米で最大3,000億円を投じて光ファイバの生産能力を広げる。
- 含意
- 2025年3月期は過去最高業績を更新し、株価は急騰してAIインフラ関連の代表銘柄となった。2026年3月期も純利益が前期比65%増の1,500億円へ伸びる見通しにある。一方、高い収益は情報通信事業への一極集中の裏返しで、需要の一巡や増産を競う同業の追い上げという不確実性を抱える。
電線大手の再定義と、一極集中のリスク
この経営判断の核心は、銅電線という薄利の事業に長く依存してきた電線大手が、構造改革で足元を固めたうえで、生成AI・データセンターという新しい需要へ資源を集中させ、みずからを高収益の光通信メーカーへ組み替えた点にある。2020年の巨額赤字という危機がなければ、光ファイバへの絞り込みも、独立系として技術で勝負するという方針も、これほど徹底されなかった。危機が「選択と集中」を促し、そこへ生成AIの波がたまたま到来したことが、その集中を過去最高の収益へ結実させた。
もっとも、高い収益は情報通信事業への一極集中の裏返しでもある。売上と利益の伸びは光ファイバ・光接続製品に強く依存し、データセンター投資の一巡や、増産を競う同業の追い上げ、製品価格の下落は、そのまま業績の振れにつながる。フジクラは日米で最大3,000億円を投じて生産能力を広げ、需要の拡大が続くと見込む。だが、素材に近い電線メーカーが特需で高収益企業へと姿を変えたいま、その高収益が次の需要循環をどこまで持ちこたえるのかという問いは、なお残されている。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
「電線御三家」の一角と、過去最大級の赤字
フジクラは古河電気工業・住友電気工業と並ぶ「電線御三家」の一角として、通信・エネルギー・自動車部品を手掛けてきた。だが電線は銅相場に採算を左右される薄利の事業で、同社の収益は長く伸び悩んだ。2020年前後には新型コロナ禍で中国や欧米の拠点が一時操業を停止し、2019年度(2020年3月期)には過去最大級となる385億円の最終赤字を計上した[1][2]。
「100日プラン」による構造改革
2020年3月期の巨額の赤字を受け、フジクラはただちに構造改革へ乗り出した。まず既存の中期経営計画を中止し、事業再生へ向けた「100日プラン」をまとめて、採算の悪い事業の整理と固定費の圧縮に取り組んだ。売上規模を追い、薄利の電線に幅広く依存してきた事業構成を、収益力の高い分野へ絞り込んで組み替える作業が、この危機からはじまった[3]。
決断
「技術で勝負する」光ファイバへの集中
構造改革を通じてフジクラが定めたのは、限られた経営資源を光ファイバと光接続製品へ集中させる方針である。巨大な競合と戦って勝ち抜くには、全方位の経営はとれない。勝てる土俵を絞り込んだ末に残した一つが、細径・多心で高密度化に強い光ファイバケーブルと、それをつなぐ融着接続機だった。2024年には祖業の導体(銅電線)事業を分社化し、本体を情報通信中心に再定義した[4][5]。
生成AI・データセンター需要への生産増強
2022年から2023年にかけて生成AIが急速に広がると、大規模データセンターの建設と増設が世界で相次ぎ、機器を結ぶ光ファイバの需要が急増した。フジクラは高密度の配線に強い細径・多心ケーブルでこの需要を取り込み、日本国内への400億円とあわせ最大3,000億円を投じて生産能力を広げる。岡田直樹社長は需要の膨大さを見込み、生産能力の拡大と製造技術の革新によって競争優位を築く方針を示した[6][7]。
結果
過去最高業績と株価の再評価
生成AI・データセンター需要を追い風に、フジクラの業績は急拡大した。2024年11月には2025年3月期の純利益見通しを上方修正して過去最高益を見込み、同期の売上高は9,793億円、営業利益は1,355億円と過去最高を更新した。上場企業の間で最高益が相次ぐなか、データセンター向け部材を手掛ける同社は、生成AI市場の拡大を背景に増益企業の代表格となった[8][9]。
業績の伸長を映して株価は急騰した。電線大手という薄利の評価を離れ、フジクラはAIインフラ関連の代表銘柄と目された。2026年2月には決算を受けて株価が前日比8.51%高の2万3,825円まで急反発する場面もあった。2026年3月期の純利益は前期比65%増の1,500億円へ伸びる見通しで、データセンター向けの光ファイバ製品が業績を牽引している[10][11]。
- 日経ビジネス(2024年8月6日)「フジクラ、日経225で株価上昇率最大 光ファイバー特化で電線3位の評価一変」
- 日本経済新聞(2024年11月7日)「フジクラの25年3月期決算見通し、上方修正し純利益最高に 増配も」
- 日本経済新聞(2026年2月9日)「フジクラの純利益65%増に上振れ 26年3月期、光ファイバー好調」
- 日本経済新聞(2026年2月10日)「フジクラ株価急反発、AI熱呼び戻した決算会見『光ファイバー生産増へ』」
- 日本経済新聞(2026年2月18日)「上場企業3社に1社が最高益 生成AI市場拡大で、フジクラ2年連続」
- 日本経済新聞(2026年5月19日)「フジクラ、米に最大2600億円投資 データセンター向け光ファイバー増産」