ビスキャスへの電力事業統合(2001年・フジクラの決断)

更新:
論点需要が減少する電力ケーブルを競合と統合するか
フジクラ:業績の推移
売上高(億円)当期純利益率(%)
古河電工との折半出資による送電線・配電線の共同運営と解散

何をなぜ決めたか:古河電工との折半出資による送電線・配電線の共同運営と解散

概要

2001年7月、フジクラは古河電気工業と、電力事業部門の合弁会社を設立し、将来の全面統合を検討することで合意した。9月には両社の折半出資で株式会社ビスキャスを設立し、地中送電の設計業務と海外販売業務をここに集約した。ビスキャスは同年10月1日に営業を開始した。

統合は2段階で進んだ。2004年3月25日、両社は統合の範囲を地中送電の製造・工事、架空送電、配電まで含む電力事業部門全体へ拡大することで合意した。フジクラは2005年1月に電力事業全般をビスキャスへ営業譲渡して古河電工との事業統合を完了し、その後も議決権の50.0%を持ち続けた。

背景

合弁を選んだ前提には、国内の電力会社による設備投資の急な削減がある。電力規制緩和の影響で電力事業の売上は大きく減少し、中長期でも回復は難しい状況だった。海外では欧州メーカーとの競争にアジアのメーカーが加わり、価格の競争は一段と厳しくなっていた。

合弁は社内の計画にすでに入っていた。2001年6月の中期経営計画は、2000年度に1,211億円だったエネルギー関連の売上高について、2003年度の目標を1,250億円とほぼ横ばいに置いた。同じ計画で、巻線は昭和電線と合弁にし、汎用電力線はグループ4社の生産を新会社へ集約する一方、電力用電線は同業他社との合弁を検討中とした。決めた時期の業績は悪くなく、2001年3月期の連結当期純利益は15,466百万円だった。

内容

2004年4月に結んだ営業譲渡契約の対象は、架空送電の事業全般(国内工事を除く)、地中送電の工事・製造・研究開発、配電ケーブル・電線の事業(配電部品を除く)と、それらの国内電力会社向け・海外向けの販売である。子会社の日本アルモウエルドの事業も合わせて統合する計画とした。対価は、譲渡日時点の第三者による評価額と譲渡財産の時価を基礎に協議で決めるとした。フジクラは2005年3月期に、営業譲渡による収入13,238百万円を計上した。

統合後のビスキャスは、資本金125億円(予定)、従業員約800名、売上見込み550〜600億円の規模とされた。公正取引委員会は2004年7月23日、この統合が競争を実質的に制限しないと判断した。同じ2005年1月、フジクラは三菱電線工業と建設・電販向けの販売合弁会社フジクラ・ダイヤケーブルを設立し、汎用電線の販売でも他社と提携した。

含意

譲渡の後も、エネルギー関連部門の損益はすぐには好転しなかった。この部門の営業損益は2004年3月期の△2,101百万円に続き、2005年3月期も△1,718百万円だった。2006年3月期に2,575百万円の営業利益へ転じた。ビスキャスは持分法適用の関連会社として残り、2014年4月には欧州委員会から電力ケーブル事業の競争法違反で34,992,000ユーロの制裁金を課された。

やがて共同運営は行き詰まった。2016年3月期のビスキャスは、売上高45,742百万円に対して当期純損失19,731百万円を計上した。両社は2016年4月25日に事業再編及び終息の合意書を結び、10月1日に配電線・架空送電線事業をフジクラへ、地中及び海底送電線事業を古河電工へ譲渡した。ビスキャスは2026年3月31日付で解散し、フジクラは同社への債権8,266百万円を放棄した。

いつ何が起きたか12件
考察:撤退を先へ延ばした合弁
考察

考察:撤退を先へ延ばした合弁

なぜフジクラは、電力ケーブルを単独で続けず、古河電工と会社をつくったのか。国内の電力会社は設備投資を減らしており、売上の回復は難しいとみていた。撤退すれば、電力会社との取引を失う。単独で続ければ、需要の減少を一社で負う。折半出資の合弁は、その中間の答えだったと考えられる。しかも決めたのは、連結当期純利益が15,466百万円あった2001年3月期の直後である。業績に余裕がある年に、先に体制を組み替えた点に、この判断の特徴がある。

もっとも、合弁は需要そのものを増やす手段ではなかった。2社の工場と営業を一つにすれば、費用は減らせる。しかし国内の需要が戻らなければ、統合した会社も同じ縮小に向き合う。実際、統合を終えた2005年3月期も、エネルギー関連部門は1,718百万円の営業損失だった。さらにビスキャスは、欧州で競争法違反の制裁金を課された。折半出資の合弁は損失を半分にした。しかし、問題を本体の外へ移しただけだったのだろう。

結果を見ると、2つ目の読みが当たった。2016年3月期のビスキャスは19,731百万円の当期純損失を計上し、両社は事業を製品ごとに引き取って共同運営を終えた。フジクラは配電線と架空送電線を自社に戻し、2期で6,358百万円と1,642百万円の臨時損失を計上した。2026年3月にビスキャスを解散する際には、同社への債権8,266百万円も放棄した。この3つを足すと、2005年3月期に営業譲渡で得た13,238百万円を上回る。合弁は撤退を2016年まで先へ延ばしただけで、需要の縮小への答えにはならなかった。電力事業の合弁は、失敗した判断だった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る3表

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図と表

フジクラ:エネルギー関連部門の売上高と営業損益

外部顧客への売上高(百万円)営業損益率(%)
フジクラ:エネルギー関連部門の売上高と営業損益
(百万円)外部顧客への売上高営業損益備考
2003年3月期110,654△913この期から区分を変え、エネルギー関連を設けた
2004年3月期112,476△2,1013月に古河電工と統合範囲の拡大で合意
2005年3月期131,271△1,7181月に電力事業全般をビスキャスへ営業譲渡
2006年3月期179,1052,575営業利益に転じた
出所:フジクラ 決算短信 平成16年3月期〜平成18年3月期(連結)(事業の種類別セグメント情報)
出所:フジクラ 決算短信 平成16年3月期〜平成18年3月期(連結)(事業の種類別セグメント情報)

フジクラ:持分法による投資損益とビスキャスの再編に伴う臨時損失

再編の翌期、持分法による投資損益は1,046百万円の利益に転じた

フジクラ:持分法による投資損益とビスキャスの再編に伴う臨時損失
(百万円)持分法による投資損益再編に伴う臨時損失備考
2015年3月期△343−欧州委員会が当社とビスキャスに制裁金を課した
2016年3月期△2,9186,358ビスキャスは当期純損失19,731。4月に合意書を締結
2017年3月期1,0461,64210月に配電線・架空送電線事業を移管
2018年3月期1,504−
2019年3月期1,237−
2020年3月期1,115−
2021年3月期430−
2022年3月期2,103−
出所:フジクラ 有価証券報告書 第168〜174期(連結損益計算書、【連結損益計算書関係】)。持分法による投資損益は関連会社全体の合計
出所:フジクラ 有価証券報告書 第168〜174期(連結損益計算書、【連結損益計算書関係】)。持分法による投資損益は関連会社全体の合計

切り出しと解消の条件

切り出しと解消の条件
科目概要備考
分離した事業電力事業全般電力用電線の製造販売と研究開発。2005年1月にビスキャスへ営業譲渡した
相手方と出資比率古河電気工業/議決権の直接50.0%折半出資。役員1名を兼任し、原材料の供給と製品の購入の取引が続いた
合弁会社株式会社ビスキャス(東京都品川区)資本金は12,100百万円。2015年3月期の時点では13,600百万円
合弁会社の設立2001年設立の月日は有価証券報告書に記載がない
営業譲渡日2005年1月電力事業全般を移し、古河電気工業との同事業に関する事業統合を完了した
営業譲渡による収入13,238百万円譲渡により減少した資産は流動3,189百万円・固定10,049百万円
譲渡資産の取引金額13,307百万円譲渡日の第三者による評価額と譲渡財産の時価をもとに協議して決めた
会計上の取扱い持分法適用関連会社連結子会社とはせず、損益は持分法で取り込む
提携見直しの合意2016年4月25日古河電気工業と「ビスキャスの事業再編及び終息に関する合意書」を締結
解消の日2016年10月1日同日付で両社がビスキャスから事業を譲り受けた
フジクラが引き取った事業配電線・架空送電線事業地中および架空配電線(66kV未満)と架空送電線・同部品の製造販売
古河電気工業が引き取った事業地中及び海底送電線事業古河電工の取得原価は1,944百万円、負ののれん発生益は5,251百万円
再編に伴う臨時損失(2016年3月期)6,358百万円事業譲渡損と在外子会社の整理・売却で見込まれる貸倒損失・持分譲渡損
再編に伴う臨時損失(2017年3月期)1,642百万円事業譲渡損・設備移設撤去費用と子会社の整理売却に伴う投資評価損等
解消後のビスキャス持分法適用会社として存続受注済み工事案件契約の履行と事業終息の業務が完了するまで存続する
解消後の持分議決権比率の記載なし2026年3月期の有報で議決権は直接50.0%。同年3月31日付で解散した
出所:フジクラ 有価証券報告書 第158期(2006年3月期)【沿革】【関係会社の状況】【関連当事者との取引】、第168期・第169期(2016年3月期・2017年3月期)【連結損益計算書関係】、第177期(2025年3月期)【事業の内容】、古河電気工業 有価証券報告書 第195期(2017年3月期)【企業結合等関係】
出所:フジクラ 有価証券報告書 第158期(2006年3月期)【沿革】【関係会社の状況】【関連当事者との取引】、第168期・第169期(2016年3月期・2017年3月期)【連結損益計算書関係】、第177期(2025年3月期)【事業の内容】、古河電気工業 有価証券報告書 第195期(2017年3月期)【企業結合等関係】
参考文献

参考文献

参考
  • フジクラ・古河電気工業 ニュースリリース「電力用電線・ケーブル事業統合について」(2004年3月8日)
  • 古河電気工業・フジクラ ニュースリリース「電力事業部門の事業統合について」(2004年3月25日)
  • フジクラ 第156期定時株主総会招集ご通知(2004年6月7日)第2号議案「株式会社ビスキャスに対する営業の一部譲渡の件」
  • フジクラ「フジクラ01中期経営計画」(2001年6月28日)【エネルギー関連・その他の事業】
  • フジクラ 有価証券報告書 第178期(2026年3月期)【沿革】
  • フジクラ 決算短信 平成17年3月期・平成18年3月期(連結)【事業の種類別セグメント情報】
  • フジクラ 有価証券報告書 第168期(2016年3月期)【連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項】【関連当事者情報】
  • フジクラ 有価証券報告書 第169期(2017年3月期)【連結損益計算書関係】
  • フジクラ 有価証券報告書 第178期(2026年3月期)【関連当事者情報】
  • フジクラ Annual Report 2002(To Our Shareholders)
  • フジクラ 第156期定時株主総会招集ご通知(2004年6月7日)第2号議案
  • 古河電気工業・フジクラ・ビスキャス ニュースリリース「ビスキャスの再編について」(2016年3月29日)
  • フジクラ 決算短信 平成16年3月期〜平成18年3月期(連結)(事業の種類別セグメント情報)
  • フジクラ 有価証券報告書 第168〜174期(連結損益計算書、【連結損益計算書関係】)。持分法による投資損益は関連会社全体の合計
  • フジクラ 中期経営計画「フジクラ01中期経営計画」
  • フジクラ ニュースリリース「電力用電線・ケーブル事業統合について」
  • フジクラ ニュースリリース「電力事業部門の事業統合について」
  • フジクラ 株主総会招集通知「第156期定時株主総会招集ご通知 第2号議案「株式会社ビスキャスに対する営業の一部譲渡の件」」
  • フジクラ ニュースリリース「古河電気工業株式会社との電力事業部門統合に関する公正取引委員会の審査結果についてのお知らせ」
  • フジクラ 適時開示「電力事業部門の営業譲渡に関する変更のお知らせ」
  • フジクラ ニュースリリース「欧州競争法違反行為への欧州委員会の決定に対する審判請求について」
  • フジクラ ニュースリリース「ビスキャスの再編について」
  • フジクラ 決算短信「平成13年3月期 決算短信(連結)」
  • フジクラ 決算短信「平成18年3月期 決算短信(連結)」
  • フジクラ 有価証券報告書「第168期(2016年3月期)【連結損益計算書関係】【関連当事者情報】」
  • フジクラ 有価証券報告書「第169期(2017年3月期)【沿革】【連結損益計算書関係】」
  • フジクラ 有価証券報告書「第178期(2026年3月期)【沿革】【関連当事者情報】」

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