筆者の見解
成功例を手放す冷静さ
この判断の核心は、日米合弁の成功例という看板よりも、収益力・競合性・投資財源という実利をとった冷静さにある。年16億円を生む簿価14億円の超優良物件を、将来の配当が伸びにくいと見切って600億円で手放す。相手の会社分割という外的な契機を、横河は自社の事業転換の資金づくりへと転換したと思われる。"信義に応じた"という穏当な言葉と、価格の緻密な計算とが同居する点に、この決断の性格がにじむ。
もっとも、電子計測器という祖業に連なる中核事業を失った代償は小さくなかった。合弁解消の翌年以降、横河は工場閉鎖や人員削減方針の撤回といった痛みを伴う再編へ進み、本業を制御システムへ絞り込む長い道のりをたどる。手にした資金が制御事業への集中を後押しした一方で、選択と集中がただちに果実を生んだわけではない。成功した合弁をどの時点で手放すか——横河の1999年の選択は、優良事業の売り時を冷静に見極めることの難しさと重みを示す一例といえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月