ソシオネクスト汎用ASSPからカスタムSoC専業への転換と「ソリューションSoC」ビジネスモデルへの絞り込み

親会社から引き継いだ汎用品を手放し独自SoCの受託設計へ絞ったソシオネクストは、量を追わない事業へどう組み替えたか

時期 2018年4月
意思決定者(推定) 肥塚雅博 会長兼CEO
論点 事業モデルの転換と注力領域の絞り込み
概要
2018年4月に会長兼CEOへ就いた肥塚雅博氏のもとで、ソシオネクストは用途を特定した汎用品中心の事業構成から、顧客ごとに設計する「ソリューションSoC」によるカスタムSoC事業へと注力領域を絞り込んだ。営業部門・開発部門のリソースを順次シフトし、量を売りさばく従来型のモデルから、顧客と上流設計から手がける受託設計の専業へと事業の性格を組み替えた転換であった。
背景
富士通とパナソニックのSoC事業を統合して2015年に発足した会社は、テレビやDVDプレーヤー向けなどあらかじめ用途を定めた半導体を国内の民生機器メーカーに供給していた。汎用品では台湾・韓国・中国の量産メーカーとのコスト競争が厳しく、発足当初の業績は伸び悩んでいた。
内容
従来型ASICとASSPを中心とする事業から、外部ベンダーの最先端技術を組み合わせて顧客とともに上流設計から量産まで請け負う「ソリューションSoC」へ転換した。国内向けから海外顧客志向へ、コンシューマ向けからオートモーティブ・データセンター・スマートデバイスといった先端分野へと、注力領域を移した。
含意
量産販売で規模を競う半導体の一般的なモデルを捨て、付加価値の高い特注品を顧客と作り上げる受託設計に絞った。2023年の米国・中国向けカスタムSoCでシェア12%・世界2位に達する一方、特定顧客への集中という副作用も抱え込んだ。
筆者の見解

業界標準を捨てるということ

この転換の芯は、時流に乗った成功譚というより、量産販売という半導体業界の標準そのものを捨てた点にあるとみることができる。エヌビディアやクアルコムが既製品を大量に売って投資を回収するモデルは、統合前のソシオネクストが延長線上に置いていたやり方でもあった。肥塚雅博氏が2018年を「第1の転機」と呼び、汎用品でメガプレイヤーと量を競う道を自ら閉じたところに、この判断の性格が表れている。国内向けを7割近くから4割以下へ落とし、米国・中国向けカスタムSoCでシェア12%・世界2位まで登ったのは、規模ではなく設計そのものを売る会社へ自らを定義し直した結果であった。

もっとも、量を追わない選択は、そのまま業績の安定を約束したわけではなかった。設計を売るモデルは顧客ごとの案件に深く入り込むぶん、特定顧客への集中を抱え込みやすい。2025年3月期に統合以来はじめて減収減益へ転じ、中国大口顧客の在庫調整が次の発注を止める構造が数字に表れたのは、その裏返しだといえる。汎用品の薄利多売を捨てて特注品の付加価値へ賭けることは、規模の平準化という守りを手放すことでもあった。業界標準の否定は、別種のリスクを引き受ける選択でもあったとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

汎用品とテレビ中心の顧客基盤

富士通とパナソニックのSoC事業を統合して2015年に発足したソシオネクストは、当初、テレビやカメラなどの民生機器を手がける国内顧客を主な相手にしていた。顧客に対して「テレビ向け」「DVDプレーヤー向け」とあらかじめ用途を定めた半導体を設計・供給する事業で、搭載される最終製品が数多く売れることで投資を回収する、量産販売型のモデルであった。だが発足当初の業績は伸び悩み、成長軌道には乗らなかった[1]

引き継いだ製品の柱は、従来型のASICと、分野を限定して機能を特化させたASSPであった。ASSPは特定の顧客向けにカスタマイズされておらず、複数の顧客に提供する汎用部品にあたる。汎用品は台湾・韓国・中国の量産メーカーとのコスト競争にさらされやすく、親会社から受け継いだ製品群を延命させ続けることには構造的な限界があった。どの領域に経営資源を集中させるかが、独立企業としての課題になっていた[2]

決断

2018年の肥塚CEO就任とソリューションSoCへの絞り込み

2018年、会長兼CEOに就いた肥塚雅博氏を機に、ソシオネクストは事業モデルを大きく転換した。国内ではなく海外の顧客を志向し、用途を特定した汎用品ではなく、顧客の要望に沿ってオーダーメイドの最先端品を設計・開発するスタイルへ切り替えた。有価証券報告書の沿革は、2018年4月以降、独自のSoCを求める顧客に向けた「ソリューションSoC」によるカスタムSoC事業を注力事業とし、営業・開発のリソースを順次シフトしたと記している[3][4]

「ソリューションSoC」は、顧客とともに仕様の策定や論理設計といった上流工程から手がけ、外部ベンダーの最先端技術も組み合わせて顧客に最適なSoCを提供し、特定ベンダーへの囲い込みを避ける点に特徴があった。エヌビディアやクアルコムが仕様を自ら定めた既製品を大量に売るのに対し、ソシオネクストは量を追わず、付加価値の高い特注品を顧客と一緒に作り上げて稼ぐモデルへと組み替えた。汎用品依存からの離脱を意味する、事業の性格そのものの転換であった[5][6]

結果

先端分野への注力領域の移行と業績の拡大

転換は製品の作り方だけでなく、注力する事業領域の入れ替えを伴った。それまでのテレビ等のコンシューマ向け中心から、オートモーティブ、データセンター/ネットワーク、スマートデバイスといった先端分野へと注力領域を移した。転換前は7割近かった国内向けは4割以下まで減り、半分を米国向けが占めるようになった。7nm以細の先端プロセスを使う案件がNRE売上に占める割合は、2025年3月期には74%へと高まった[7][8]

受託した設計案件が数年をかけて量産段階に移るにつれ、業績は伸びた。連結売上高は2021年3月期の997億円から、2022年3月期1170億円、2023年3月期1927億円、2024年3月期2212億円へと拡大した。商談の積み上がりも大きく、2023年3月末の商談獲得残高は約1兆円に達し、2018年の転換以降、年間の商談金額は倍増して2022年度には約2500億円の商談を得ていた[9][10]

カスタムSoC市場での位置づけと需要変動

顧客ごとに設計するモデルを採る競合は、TSMCグループのグローバルユニチップなど一部に限られる。ソシオネクストは2023年の米国・中国向けカスタムSoCでシェア12%を占め、世界2位となった。同社はこの2018年の絞り込みを「第1の転機」と呼び、汎用品からカスタムSoC事業へシフトしたと説明している。日本で唯一、5〜7nm世代の先端品を設計できる国内メーカーとして、独自の位置を築いた[11][12]

一方で、量を追わない受託設計は、特定の顧客への集中という副作用を伴った。2025年3月期の連結売上高は1885億円、営業利益は250億円と、統合以来はじめて減収減益に転じた。主因は中国の通信機器向けの需要減と、大口顧客の在庫調整の長期化である。ソシオネクストは同年2月に、中国大口顧客の在庫調整を読み切れなかったとして通期予想を下方修正した。特定顧客の在庫が解消されるまで次の発注が出にくい構造が、業績の振幅として表れた[13][14]

出典・参考

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