この転換の芯は、時流に乗った成功譚というより、量産販売という半導体業界の標準そのものを捨てた点にあるのだろう。エヌビディアやクアルコムが既製品を大量に売って投資を回収するモデルは、統合前のソシオネクストが延長線上に置いていたやり方でもあった。肥塚雅博氏が2018年を"第1の転機"と呼び、汎用品でメガプレイヤーと量を競う方針を自ら断ったところに、この判断の性格が表れている。国内向けを7割近くから4割以下へ落とし、米国・中国向けカスタムSoCでシェア12%・世界2位まで登ったのは、規模ではなく設計そのものを売る会社へ自らを定義し直した結果であった。
もっとも、量を追わない選択は、そのまま業績の安定を約束したわけではなかった。設計を売るモデルは顧客ごとの案件に深く入り込むため、特定顧客への集中を招きやすい。2025年3月期に統合以来はじめて減収減益へ転じ、中国大口顧客の在庫調整が次の発注を止める構造が数字に表れたのは、その裏返しだといえる。汎用品の薄利多売を捨てて特注品の付加価値へ経営資源を集中することは、規模の平準化という守りを放棄することでもあった。業界標準の否定は、別種のリスクを引き受ける選択でもあっただろう。