四輪電動化戦略の見直し(2026年・ホンダの決断)

更新:
論点 北米EVの開発を中止するか
ホンダ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
北米EVモデルの開発中止と、四輪事業1兆5,778億円の損失計上

何をなぜ決めたか:北米EVモデルの開発中止と、四輪事業1兆5,778億円の損失計上

概要

2026年3月12日、四輪電動化戦略の見直しとして、北米で生産予定であったEVモデルの上市および開発の中止などを決めた。翌13日には、8,200億円から1兆1,200億円の営業費用と、1,100億円から1,500億円の持分法による投資損失を2026年3月期に計上する見込みとした。ただしこれは当日時点の概算値で、確定値は期末の実績で定まった。

確定値は、四輪事業だけで1兆5,778億円の損失および費用。連結の営業損益は4,143億円の損失、親会社の所有者に帰属する当期損益は4,239億円の損失となり、1952年までさかのぼる業績で初めて最終赤字に転じた。

背景

米国ではEV補助金の見直しや化石燃料規制の緩和が進み、EV市場の拡大スピードが鈍化した。EV販売台数の減少と販売奨励金の増加が生じ、7,500ドルのEV補助金の終了で、8〜9%だったEVの市場シェアは5%程度まで低下する可能性が見込まれた。中国ではEV市場の成長が続く一方、新興EVメーカーの台頭で競争が激化した。

貝原典也氏は 『EV市場は大幅に後退している状況です。最終目標は変わりませんが、そこに至るまでの道筋はこれまでと異なる姿になりつつあります』 と、道筋そのものの組み替えを認めている。北米ではICEとHEVへリソースを集中させ、中国では自前主義を見直して現地サプライヤーの活用へ転じた。

内容

1兆5,778億円の内訳は、売上原価1兆479億円、販売費及び一般管理費79億円、研究開発費3,979億円、持分法による投資損益1,241億円。非金融資産の減損損失5,214億円は、製造終了または上市および開発中止を決めた北米EVモデルの製造設備等と、北米・中国の一部EVモデルの無形資産(開発資産)に対するもので、売却も他への転用も困難なため、処分コスト控除後の公正価値はゼロとして評価した。

除却損失3,314億円は、上市前に開発中止が決まった北米EVモデルなどの開発資産の認識を中止したもの。EV関連損失に係る引当金の繰入額6,674億円には、不利な契約の引当金1,063億円と、他社との契約から生じる損失・費用5,611億円が含まれる。

含意

損失は北米だけで完結していない。持分法による投資損益1,241億円には、中国の一部の共同支配企業に係る投資の減損損失909億円が含まれ、四輪車部品の製造・販売を行う子会社グループは売却目的で保有する処分グループへ振り替えられて483億円の減損を計上した。EVを前提に組んだ設備・開発・契約が、地域をまたいで一斉に評価し直された。

足元3年は四輪事業の体質再構築に集中し、2029年3月期に過去最高の営業利益、2031年3月期にROIC10%をめざす。一方で開発中止に伴う取引先への追加支出は調査中で、金額を見積もれていない。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 11名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

考察:エンジンの会社が、道筋を書き換えるということ
考察

考察:エンジンの会社が、道筋を書き換えるということ

この判断の核心は、電動化をやめたことではなく、EVを前提に積み上げた設備・開発・契約の束を、いったん資産から外したことにあるだろう。四輪事業が計上した1兆5,778億円のうち、除却損失3,314億円は上市前に開発を止めた車両の開発資産であり、まだ一台も売っていないものが費用に変わった。減損の対象となった製造設備等は、売却も他への転用も困難として公正価値をゼロと評価している。期限を切って一つの技術に資源を配分する経営は、方向が合っている限り速いが、外れたときには転用先のない資産だけが残る。その代価が、1952年までさかのぼる業績で初めての最終赤字であった。

もっとも、これは退場ではなく足場の組み替えでもあった。中国では自前主義を緩めて現地サプライヤーの活用へ寄り、北米ではICEとHEVへリソースを集中させる。2050年のカーボンニュートラルという最終目標は動かさず、そこへ至る道筋だけを引き直した形になっている。ただし開発中止に伴う取引先への追加支出は調査中で、金額を見積もれていない。2029年3月期の過去最高益という目標は、この見積れない部分が閉じたうえで初めて成り立つものだろう。宣言の重さは、降ろすときにこそ測られるのかもしれない。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

ホンダ:四輪事業の損益と減損損失の推移

売上収益(百万円)営業利益率(%)
ホンダ:四輪事業の損益と減損損失の推移
(百万円) 売上収益営業利益減損損失 備考
2021年3月期 8,567,20590,25519,999 売上収益は外部顧客への売上。以下の期も同じ
2022年3月期 9,147,498236,20713,097
2023年3月期 10,593,519△16,62924,777 中国・北米の生産設備の減損などにより四輪事業が営業損失
2024年3月期 13,567,565560,64944,652
2025年3月期 14,169,240243,85318,477
2026年3月期 13,863,362△1,411,140605,150 四輪電動化戦略の見直しで1兆5,778億円の損失および費用を計上
出所:本田技研工業 有価証券報告書 第97〜102期(セグメント情報・報告セグメントごとの売上収益、利益又は損失その他の項目の金額)
出所:本田技研工業 有価証券報告書 第97〜102期(セグメント情報・報告セグメントごとの売上収益、利益又は損失その他の項目の金額)

ホンダ:連結業績の推移

売上収益(百万円)営業利益率(%)
ホンダ:連結業績の推移
(百万円) 売上収益営業利益親会社の所有者に帰属する当期利益 備考
2021年3月期 13,170,519660,208657,425
2022年3月期 14,552,696871,232707,067
2023年3月期 16,907,725780,769651,416
2024年3月期 20,428,8021,381,9771,107,174
2025年3月期 21,688,7671,213,486835,837
2026年3月期 21,796,610△414,346△423,941 1952年までさかのぼる業績で初めての最終赤字
出所:本田技研工業 有価証券報告書 第97〜102期(主要な経営指標等の推移・連結損益計算書)
出所:本田技研工業 有価証券報告書 第97〜102期(主要な経営指標等の推移・連結損益計算書)

四輪電動化戦略の見直しの条件

四輪電動化戦略の見直しの条件
科目 概要 備考
事象の発生年月日 2026年3月12日 四輪電動化戦略を見直し、北米で生産予定であったEVモデルの上市および開発の中止などを決定
営業費用(概算値) 8,200億円〜1兆1,200億円 2026年3月13日時点の概算値。確定値は売上原価・販管費・研究開発費の計1兆4,537億円
持分法による投資損失(概算値) 1,100億円〜1,500億円 2026年3月13日時点の概算値。確定値は1,241億円
個別業績の特別損失(概算値) 3,400億円〜5,700億円 2026年3月13日時点の概算値。個別業績での確定額は区分して開示されていない
四輪事業の損失および費用 1兆5,778億円 2026年3月期の確定値。2027年3月期以降に追加的な費用または損失が発生する可能性
非金融資産の減損損失 521,377百万円 北米EVモデルの製造設備等と、北米・中国の一部EVモデルの開発資産。回収可能価額はゼロ
除却損失 331,426百万円 上市前に開発中止が決定された北米EVモデルなどの開発資産の認識の中止による損失
EV関連損失に係る引当金繰入額 667,366百万円 不利な契約の引当金106,296百万円、他社との契約から生じる損失・費用561,070百万円
持分法による投資損益の損失 124,128百万円 中国の一部の共同支配企業に係る投資の減損損失90,882百万円を含む
共同支配企業からの補填 66,492百万円 北米子会社で発生した専用設備投資等の支出に対する補填。未収入金と売上原価に認識
売却目的で保有する処分グループ 減損損失48,328百万円 四輪車部品の製造・販売を行う子会社グループ。減損後の資産は106,097百万円
連結業績への影響 営業損失414,346百万円 親会社の所有者に帰属する当期損失は423,941百万円。前期は営業利益1,213,486百万円
見直し後の目標 2029年3月期に過去最高の営業利益 2031年3月期にROIC10%。足元3年は四輪事業の体質再構築に集中する
取引先への追加支出 見積り不能 開発中止に伴う影響を調査中で、合理的に見積れないため引当金を認識していない
出所:本田技研工業 臨時報告書(2026年3月13日提出)/有価証券報告書 第102期(2026年3月期)【セグメント情報】【重要な後発事象】
出所:本田技研工業 臨時報告書(2026年3月13日提出)/有価証券報告書 第102期(2026年3月期)【セグメント情報】【重要な後発事象】
当時の取締役 11名

当時の取締役(2025年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 本田技研工業 臨時報告書「臨時報告書(四輪電動化戦略の見直しに伴う損益への影響)」
  • 本田技研工業 決算説明会質疑応答「2026年3月期第3四半期決算説明会 質疑応答(2026年2月5日)」
  • 本田技研工業 決算説明会質疑応答「2025年3月期決算説明会 質疑応答(2025年5月13日)」
  • 本田技研工業 有価証券報告書「第102期(2026年3月期)【セグメント情報】【重要な後発事象】【主要な経営指標等の推移】」

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