日産との統合協議打切(2024年・ホンダの決断)

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論点 子会社化を受け入れて統合するか
ホンダ:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
経営の一体化構想へ踏み込みながら二カ月弱で引き返した判断

何をなぜ決めたか:経営の一体化構想へ踏み込みながら二カ月弱で引き返した判断

概要

2024年12月23日、ホンダは日産自動車との経営統合に向けた検討で基本合意した。統合は2026年の夏に予定され、ホンダは同じ日の取締役会で上限1兆1,000億円の自己株式取得も決議している。しかし統合の枠組みをめぐる隔たりが埋まらず、2025年2月13日に基本合意書を解約して協議を終えた。三部敏宏社長のもとでの、自主独立路線の一時転換と撤回である。

背景

EV(電気自動車)とSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)への対応で研究開発支出が膨らみ、2025年3月期には1兆2,106億円と5期前の1.5倍に達していた。ホンダは有価証券報告書で、中国企業等の新興勢力の台頭による競争激化と環境政策の変化を挙げ、自動車業界が大きな変革期にあって将来の確実な予測は困難だとしている。

内容

検討されたのは共同持株会社の傘下に両社を置く方式で、ホンダが統合会社の社長を選任し取締役の過半を占めることは、日産も当初から想定していた。日産の内田誠社長は打ち切り当日の説明会で 『ホンダ側から100%子会社化というご提案がされ、取締役の中でも論議を行い、100%子会社という形で、日産が強い会社に変わるのは難しいところが多いという結論に最終的にいたりました』 と述べ、協議の途上でホンダから完全子会社化の提案があったことを明らかにしている。

一方でホンダは、基本合意と同じ日に上限1兆1,000億円の自己株式取得を決議していた。統合が動き出せばデューデリジェンスを抱えて自己株式の取得が機動的にできなくなるため、決議をその日に前倒ししたと最高財務責任者の藤村英司氏は説明している。

含意

開発費を分担するための規模の拡大という論理と、統合会社で日産が強みを出すという建前は、完全子会社化の提案をめぐって正面から衝突した。ホンダは統合の実行前に日産の再建という重荷を引き受けずに済んだ一方、単独で年1兆円を超える研究開発支出を負い続けるという最初の問いは残った。

協議が終わったのちも、2024年8月に三菱自動車を加えた3社で結んだ戦略的パートナーシップの覚書は存続している。三部敏宏社長は2025年5月の説明会で 『日産自動車さんとの経営統合に関しては、2月13日に公表した白紙に戻って以降、進んでいない。一方、昨年8月に締結した、戦略的パートナーシップのMOUは現在でも生きており、これは三菱自動車さん含めて、協業の最大化を検討していくことで継続議論をしている』 と述べ、資本の提携がなくともプロジェクト単位で効果は出せるとの考えを示した。決議した自己株式取得は2025年12月までに枠をほぼ使い切っている。

いつ何が起きたか 6件
当時の取締役 12名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

考察:規模の論理と、自主独立という原理
考察

考察:規模の論理と、自主独立という原理

この判断の中心にあるのは、自主独立を掲げてきた会社が、規模の論理にどこまで身を寄せられるかという問いである。EVとSDVへの投資は個社の体力を超えて膨らみ、研究開発支出は5期で1.5倍の1兆2,106億円に達した。その圧力のもとで、ホンダは長く距離を置いてきた大型再編に一度は着手した。踏み込んでおきながら完全子会社化を提案し、相手の反発を受けて退いた道筋には、規模を欲する動機と主導権を手放せない体質とが同居していたようにみえる。

もっとも、二カ月弱で畳まれた協議を失敗とだけ読むのは早いのかもしれない。日産の再建という重荷を背負い込むリスクを、ホンダは統合の実行前に避けることができた。同じ日に決めた1兆1,000億円の自己株式取得は予定どおり使い切られ、資本は統合ではなく株主への還元へ向かった。一方で、単独で年1兆円を超える開発費に耐え続けられるのかという最初の問いは、統合を見送っても消えずに残っている。協業の糸を残しつつ自主独立へ回帰したホンダが、規模を持たないまま次世代技術の競争で優位に立てるのか——その答えは、なお先の業績と技術の推移に委ねられていると推察される。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る 3表

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図と表

ホンダ:研究開発支出の推移

うち四輪事業(億円)四輪事業以外(億円)
ホンダ:研究開発支出の推移
(億円) 研究開発支出うち四輪事業 備考
2020年3月期 8,2147,072
2021年3月期 7,8006,925 新型コロナウイルス感染症の影響下で前期から414億円の減少
2022年3月期 8,0407,081
2023年3月期 8,5207,541
2024年3月期 9,7638,699 前期比1,243億円の増加。EV・SDVへの投資が本格化した期
2025年3月期 12,10610,742 初めて1兆円を超え、5期前の1.5倍。統合の検討と打ち切りはこの期
2026年3月期 11,74810,292 四輪は450億円減。EV戦略の見直しに伴い0シリーズの開発を中止
出所:ホンダ 有価証券報告書 第96〜102期(2020年3月期〜2026年3月期)【研究開発活動】
出所:ホンダ 有価証券報告書 第96〜102期(2020年3月期〜2026年3月期)【研究開発活動】

ホンダ:自己株式の取得による支出の推移

自己株式の取得による支出(百万円)
ホンダ:自己株式の取得による支出の推移
(百万円) 自己株式の取得による支出 備考
2020年3月期 96,113
2021年3月期 △154 売却が取得を上回り、154の収入超
2022年3月期 62,180
2023年3月期 156,622
2024年3月期 250,009
2025年3月期 722,037 12月23日の取締役会で11億株・1兆1,000億円を上限とする取得枠を決議
2026年3月期 670,270 取得期間の末日である2025年12月23日までに枠をほぼ使い切った
出所:ホンダ 有価証券報告書 第96〜102期(連結キャッシュ・フロー計算書)
出所:ホンダ 有価証券報告書 第96〜102期(連結キャッシュ・フロー計算書)

協議の条件

協議の条件
科目 概要 備考
基本合意書の締結 2024年12月23日 同じ日の取締役会で上限1兆1,000億円の自己株式取得も決議した
検討していた統合の形態 共同持株会社方式 両社の強みを持たせシナジーを生む形態として協議が進んでいた
統合会社の主導権 ホンダが社長を選任し取締役の過半 日産の現況と時価総額を踏まえ、日産も当初から想定していた
統合の予定時期 2026年の夏 それまではインサイダー情報を抱え自己株式の取得ができない見込みだった
協議途上のホンダの提案 日産を100%子会社とする案 日産は取締役会で論議し、強い会社に変わるのは難しいと判断した
基本合意書の解約 2025年2月13日 締結から52日。両社が同じ日に協議の終了を公表した
協議を中止した理由 市場の見通しと経営施策をめぐる議論 日産の記載による。相互の強みを補完できる領域での協業の検討は継続
継続する協業の枠組み 戦略的パートナーシップの覚書 2024年8月締結。三菱自動車を含む3社で協業の最大化を検討する
協業の対象領域 次世代SDVの共同研究とバッテリー e-Axle、車両の相互補完、国内のエネルギーサービス、資源循環も
有価証券報告書での記載 記載なし ホンダ第101期の【重要な契約等】は該当事項なし。後発事象にもない
出所:本田技研工業 有価証券報告書 第101期(2025年3月期)【自己株式の取得等の状況】・日産自動車 有価証券報告書 第126期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】・両社の決算説明会質疑応答
出所:本田技研工業 有価証券報告書 第101期(2025年3月期)【自己株式の取得等の状況】・日産自動車 有価証券報告書 第126期(2025年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】・両社の決算説明会質疑応答
当時の取締役 12名

当時の取締役(2024年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • ホンダ 有価証券報告書 第101期(2025年3月期)
  • ホンダ 有価証券報告書 第102期(2026年3月期)
  • ホンダ 2025年3月期 第3四半期決算 機関投資家・アナリスト向け説明会 質疑応答(2025年2月13日)
  • ホンダ 2025年3月期 機関投資家・アナリスト向け説明会 質疑応答(2025年5月13日)
  • ホンダ 2026年3月期 第1四半期決算 機関投資家・アナリスト向け説明会 質疑応答(2025年8月6日)
  • 日産自動車 有価証券報告書 第126期(2025年3月期)
  • 日産自動車 2024年度第3四半期決算 アナリスト向け説明会 質疑応答(2025年2月13日)
  • ホンダ 決算説明会質疑応答「2025年3月期 第3四半期決算 機関投資家・アナリスト向け説明会 質疑応答」
  • 日産自動車 決算説明会質疑応答「2024年度第3四半期決算 アナリスト向け説明会 質疑応答」
  • ホンダ 決算説明会質疑応答「2025年3月期 機関投資家・アナリスト向け説明会 質疑応答」
  • ホンダ 有価証券報告書「第101期(2025年3月期)」
  • 日産自動車 有価証券報告書「第126期(2025年3月期)」
  • ホンダ 決算説明会質疑応答「2026年3月期 第1四半期決算 機関投資家・アナリスト向け説明会 質疑応答」
  • ホンダ 有価証券報告書「第102期(2026年3月期)」

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