モンスターストライクへの資源集中(2014年・MIXIの決断)

更新:
論点 1本のゲームに経営資源を集中するか
MIXI:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
SNSの広告から1本のスマホゲームへの収益源の転換と65億円の公募増資

何をなぜ決めたか:SNSの広告から1本のスマホゲームへの収益源の転換と65億円の公募増資

概要

2014年2月28日、ミクシィの取締役会は公募による新株式の発行を決議した。ブックビルディング方式で1,130,000株を募り、発行価格は6,110円、2014年3月17日に払い込まれた払込金総額は6,537百万円となった。決議のとき会社を率いていたのは、2013年6月に代表取締役社長に就任した朝倉祐介氏である。

増資と組で動いたのが、スマートフォン向けゲーム「モンスターストライク」の販促だった。このゲームは2013年10月に提供を開始したばかりである。会社は利用者をさらに増やすため、2014年3月からテレビCMを日本全国で放映し、YouTubeやニコ生などのWebプロモーションも並行して打った。

背景

主力のSNS「mixi」は、端末の移り変わりのなかで広告の売上を失っていた。ソーシャルネット事業の広告売上高は2013年3月期の4,680百万円から、2014年3月期には1,500百万円へ67.9%減った。会社自身も、減少の理由にデバイス環境の変化を挙げている。

その結果、決算は四半期ごとに赤字が続いた。2013年4〜6月期の連結営業損失は84百万円で、前年同期の営業利益889百万円から赤字に転じた。4〜9月の累計では売上高が3,979百万円と前年同期から41.6%減り、営業損失は398百万円に膨らんだ。増資を決める直前の10〜12月期も、営業損失は111百万円だった。

内容

増資と並行して、ミクシィは広告宣伝費を大きく増やした。2014年1〜3月期の広告宣伝費は941百万円で、前の10〜12月期の149百万円の6倍を超えた。通期の連結広告宣伝費も、2013年3月期の197百万円から2014年3月期には1,123百万円となった。テレビCMを始めたあと、モンスターストライクの利用者は3月17日に400万人、4月27日に600万人を超えた。

資本の面では、増資で現金及び預金が増え、2014年3月末の流動資産は21,917百万円、純資産は22,427百万円となった。自己資本比率は84.5%と、前年度末から3.7ポイント上がった。同じ届出では株式の売出しも行われ、筆頭株主の笠原健治会長の持株比率は2013年3月末の53.81%から2014年3月末には47.51%へ下がって、過半を割った。

含意

モンスターストライクの売上は、翌期に会社の規模を変えた。2014年7月末には、App StoreとGoogle Playの国内売上ランキングで1位を記録している。2015年3月期の連結売上高は112,918百万円、営業利益は52,686百万円に達した。2016年3月期には売上高208,799百万円、営業利益95,033百万円となった。

一方で、1本のゲームに寄せた収益はその後に縮んだ。売上高は2017年3月期の207,161百万円から2020年3月期には112,171百万円へ減り、営業利益は17,147百万円まで下がった。この間も広告宣伝費は2019年3月期に24,419百万円と、増資を決めた期の20倍を超えていた。2025年3月期の売上高は154,847百万円、営業利益は26,600百万円である。

いつ何が起きたか 12件
考察:本業の縮小期に選んだ販促への集中
考察

考察:本業の縮小期に選んだ販促への集中

2014年2月のミクシィには2つの選択肢があった。1つは費用を削減して広告売上の減少を補い、手元の資金を守ること。もう1つは、伸び始めたゲームに販促費を集中することである。会社は後者を選んだ。2014年3月期の営業利益は480百万円にとどまり、本業の稼ぎだけでテレビCMを全国で打つ余力は乏しかった。そこで6,537百万円の公募増資で資本を厚くし、同じ期に広告宣伝費を前期の5倍超へ増やした。縮む広告事業に投資を続けるより、利用者の伸びが見えたゲームに資金を寄せるほうが回収の見込みが立つと判断したのだろう。

もっとも、この選択は収益の源を1本のゲームに寄せることでもあった。増資を決めた時点で、モンスターストライクは提供開始から4カ月余りしかたっていない。ゲームの売上は利用者の嗜好に左右され、広告宣伝費をかけても回収できる保証はない。しかも増資と同時に株式の売出しも行われ、笠原健治会長の持株比率は53.81%から47.51%へ下がった。創業者が単独で過半を持つ体制も、この時に終わっている。外れれば資本と支配の両方を失う振れ幅を、経営陣は承知のうえで選んだと思われる。

結果は数字が示している。2015年3月期の営業利益は52,686百万円となり、増資を決めた期の480百万円を大きく上回った。もっとも、売上高はその後に頭打ちとなり、2020年3月期には112,171百万円まで減って、1本のゲームに依存する構造の弱さも顕在化した。それでも2025年3月期の売上高154,847百万円は、2014年3月期の12倍を超える。SNSの広告収入を失いつつあった会社は、この集中でゲームを主力とする会社に変わった。モンスターストライクへの資源集中は、成功した判断だった。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

MIXI:売上高と営業利益の推移

売上高(百万円)営業利益率(%)

2014年3月期に480だった営業利益は、2年後に95,033へ増えた

MIXI:売上高と営業利益の推移
(百万円) 売上高営業利益 備考
2009年3月期 9,1873,771 売上高は販売手数料等を純額表示に改めた遡及適用後の値
2010年3月期 10,2932,752 売上高は遡及適用後の値
2011年3月期 13,2293,373 売上高は遡及適用後の値
2012年3月期 13,3342,194
2013年3月期 12,6322,574
2014年3月期 12,155480 2月に公募増資を決議し、3月にテレビCMを開始。1〜3月期だけで営業利益990
2015年3月期 112,91852,686 売上高は前期の9倍超
2016年3月期 208,79995,033 売上高・営業利益とも窓の中の最高
2017年3月期 207,16189,008
2018年3月期 189,09472,359
2019年3月期 144,03241,033
出所:ミクシィ 有価証券報告書 第14〜20期【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書】
出所:ミクシィ 有価証券報告書 第14〜20期【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書】

MIXI:広告宣伝費の推移

広告宣伝費(百万円)広告宣伝費率(%)

広告宣伝費は2014年3月期の1,123から5年で24,419へ増えた

MIXI:広告宣伝費の推移
(百万円) 広告宣伝費売上高 備考
2009年3月期 −9,187 連結の販管費の主要な費目に広告宣伝費の記載がない
2010年3月期 −10,293 連結の販管費の主要な費目に広告宣伝費の記載がない
2011年3月期 −13,229 連結の販管費の主要な費目に広告宣伝費の記載がない
2012年3月期 −13,334 連結の販管費の主要な費目に広告宣伝費の記載がない
2013年3月期 19712,632
2014年3月期 1,12312,155 1〜3月期の広告宣伝費は941で、通期の8割超が3月のテレビCM開始の期に集中
2015年3月期 9,761112,918
2016年3月期 15,818208,799
2017年3月期 20,864207,161
2018年3月期 23,593189,094
2019年3月期 24,419144,032 売上高が減るなかで広告宣伝費は増え続けた
出所:ミクシィ 有価証券報告書 第15〜20期【連結財務諸表】注記事項(連結損益計算書関係) / ミクシィ 2013年度通期決算説明会資料(2014年5月)
出所:ミクシィ 有価証券報告書 第15〜20期【連結財務諸表】注記事項(連結損益計算書関係) / ミクシィ 2013年度通期決算説明会資料(2014年5月)
参考文献

参考文献

参考
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【新株予約権等の状況】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第14期(2013年3月期)【役員の状況】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【沿革】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【業績等の概要】、ミクシィ 2013年度通期決算説明会資料(2014年5月)
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【業績等の概要】
  • ミクシィ 平成26年3月期 第1四半期決算短信(2013年8月)
  • ミクシィ 平成26年3月期 第2四半期決算短信(2013年11月)
  • ミクシィ 2013年度通期決算説明会資料(2014年5月)
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【連結財務諸表】注記事項(連結損益計算書関係)
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【その他の参考情報】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第14期(2013年3月期)・第15期(2014年3月期)【大株主の状況】【役員の状況】
  • ミクシィ 2014年度第1四半期決算説明会資料(2014年8月)
  • ミクシィ 有価証券報告書 第16期(2015年3月期)【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第17期(2016年3月期)【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第20期(2019年3月期)【連結財務諸表】注記事項(連結損益計算書関係)
  • ミクシィ 有価証券報告書 第26期(2025年3月期)【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15期(2014年3月期)【役員の状況】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第19期(2018年3月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第17期(2016年3月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第17期(2016年3月期)【連結損益計算書】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第14〜20期【主要な経営指標等の推移】【連結損益計算書】
  • ミクシィ 有価証券報告書 第15〜20期【連結財務諸表】注記事項(連結損益計算書関係)
  • ミクシィ ニュースリリース「モンスターストライク、テレビ CM を全国放映」
  • ミクシィ 決算短信「平成26年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
  • ミクシィ 決算短信「平成26年3月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
  • ミクシィ 決算説明会資料「2013年度 通期決算説明会」
  • ミクシィ 決算説明会資料「2014年度 第1四半期決算説明会」
  • ミクシィ 有価証券報告書「第14期(2013年3月期)【主要な経営指標等の推移】【大株主の状況】【役員の状況】」
  • ミクシィ 有価証券報告書「第15期(2014年3月期)【発行済株式総数、資本金等の推移】【業績等の概要】【大株主の状況】」
  • ミクシィ 有価証券報告書「第16期(2015年3月期)【連結損益計算書】」
  • ミクシィ 有価証券報告書「第17期(2016年3月期)【連結損益計算書】【発行済株式総数、資本金等の推移】」
  • ミクシィ 有価証券報告書「第22期(2021年3月期)【主要な経営指標等の推移】」

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