グンゼ主力アパレルの構造改革と、コア事業の機能ソリューション・メディカルへの移行
長年の主力である肌着を縮めるか、稼ぎ手の二事業へ資本を寄せるか——期限を切った2年間の構造改革
- 概要
- 2025年5月14日、グンゼが中期経営計画「VISION 2030 stage2」を公表し、機能ソリューションとメディカルを強化・拡大するコア事業に、アパレルとライフクリエイトを「聖域なき構造改革」の対象に振り分けた経営判断。2025年度からの2年間を改革の期間と定め、生産・物流拠点の集約と希望退職を実施した。
- 背景
- 2023年3月期のアパレル事業は売上608億円に対し2億2200万円の営業損失を計上し、メディカル・機能ソリューションの利益と対照をなした。前中期経営計画「VISION 2030 stage1」は営業利益・ROE・全社GVAの目標を落とし、アパレル事業のROICは1.3%にとどまっていた。
- 内容
- インナーウエアの国内生産を3工場から宮津工場1か所へ、物流センターを9か所から7か所へ再編し、レッグはすでに国内1工場へ集約した。40歳以上の間接・営業部門を対象とする希望退職には82名が応募した。商品は創益カテゴリーへ絞り、株主還元の基準はDOE4.0%以上へ改めた。
- 含意
- アパレル事業の目的を生産量や売上の拡大から利益の追求へ書き換え、2027年度にROICを5.1%へ引き上げる計画。2026年3月期は事業構造改善費用を特別損失に織り込み、営業利益で5億8000万円の増益を見込みながら、純利益では34億5000万円の減益を予想した。
主力を縮めるという判断
608億円を売って2億2200万円の営業損失を出した2023年3月期のアパレル事業は、それでも約2300名が働くグループ最大の人員を抱える事業であった。その事業の目的を売上と生産量の拡大から利益の追求へ書き換え、インナーの工場を3か所から1か所へ、物流センターを9か所から7か所へ減らし、40歳以上の間接・営業部門に希望退職を募る。グンゼが2025年に選んだのは、肌着をやめることではなく、肌着で稼げる規模まで縮める道であったとみることができる。
ただ、縮めた先にアパレルが主力へ戻る絵は描かれていない。2027年度の目標はROIC5.1%で、同じ年にメディカルが見込む25%には遠く、営業利益23億円も機能ソリューション事業が2025年3月期に稼いだ72億円の3分の1にとどまる。しかも資本を寄せた側では、中国の医療費抑制政策と安価な化学品という別の逆風がすでに吹き、2026年3月期は下方修正を経て社長交代に至った。稼ぎ手の入れ替えが終わったかどうかは、次の計画の3年を見なければ分からない。
Yutaka Sugiura, 2026年8月
背景
稼ぎ手が入れ替わったセグメント構成
肌着がグンゼの主力になったのは、製糸から編立へ主力を移した戦後であった。その主力が数字の上で崩れたのは2023年3月期である。アパレル事業は売上608億円に対して2億2200万円の営業損失を計上し、同じ期にメディカル事業は売上110億円で営業利益20億8200万円、機能ソリューション事業は売上490億円で68億3500万円を稼いだ。2025年3月期もアパレル606億円・7億5300万円に対し、機能ソリューション516億円・72億円、メディカル129億円・24億3000万円で、開きは戻らなかった[1][2]。
開きは投下資本の効率でさらに大きい。2024年度のセグメント別ROICは、機能ソリューション事業が10%台、メディカル事業が14%台であったのに対し、アパレル事業は1.3%にとどまった。グループ計は4.3%で、グンゼ自身が見積もった株主資本コスト7.2〜7.8%にもWACC6.0〜6.5%にも届かない。税引後営業利益と受取配当金から投下資本コストを差し引いたGVAは9億円の赤字となり、赤字の部門はアパレルとライフクリエイトの二つであった[3][4]。
「stage1」で届かなかった目標
前中期経営計画「VISION 2030 stage1」(2022〜2024年度)の財務目標は、四つのいずれにも届かなかった。売上高は1,400億円に対し1,371億円、営業利益は100億円に対し79億円、ROEは6.3%以上に対し5.3%、全社GVAは黒字化に対し9億円の赤字で、後の三つはグンゼ自身が×と評価している。アパレル事業は2023年度に2億2200万円の営業損失から14億6500万円の営業利益へ戻したものの、2024年度は円安と労務費・エネルギーコストの上昇、減産の影響で7億5300万円・前期比48.6%減へ落ち込んだ[5][6]。
取締役会も同じ見立てを持っていた。社外取締役の中井洋恵氏は、国内市場の縮小や大手流通のPB化による売場縮小は以前から予測できたとしたうえで、それでも持続可能な事業を作るための改革に踏み込めなかった点を最大の課題に挙げた。株価はstage1の3年間で約4割上がったが、PBRは1倍を下回ったまま推移し、自己資本比率は74.6%へ積み上がっていた。佐口敏康社長は、この水準を資本としてやや厚すぎるとみていた[7][8]。
決断
二軸に分けた「VISION 2030 stage2」
2025年5月14日、グンゼは2025年度から2027年度までの中期経営計画「VISION 2030 stage2」を公表した。計画は二軸で組まれ、機能ソリューションとメディカルを強化・拡大するコア事業に、アパレルとライフクリエイトを「聖域なき構造改革」の対象に振り分けた。佐口敏康社長は同日の決算説明会で、この二つに取り組むことで2030年のありたい姿の実現を目指すと説明した。財務目標は営業利益125億円・ROE8%以上・ROIC6.6%以上に置かれた[9][10]。
構造改革には期限が切られた。グンゼは2025年度と2026年度の2年間を改革の期間と定め、アパレル事業の目的を生産量や売上の拡大から利益の追求へ書き換えた。2027年に創益事業へ再生するため、佐口社長は事業構造改善にかかる費用を特別損失として一定程度織り込んだと述べている。その結果、2026年3月期の予想は営業利益で5億8000万円の増益、純利益では34億5000万円の減益という組み合わせになった[11][12]。
工場・物流・人員に及んだ実施内容
実施の中身は2025年8月6日に開示された。インナーウエアは国内の生産拠点を3工場から宮津工場(京都府宮津市)1か所へ再編し、物流センターは9か所から7か所へ集約する。ストッキングなどのレッグはすでに国内1工場への集約を終えており、残る物流拠点の集約で効率を上げる。2026年3月期には東北グンゼ、矢島通商、福知山物流センターの終息を発表し、岡高広専務はこれによるコスト削減を挙げた[13][14][15]。
人員にも手が入った。アパレル事業の間接部門と営業部門に所属する40歳以上の従業員を対象に、「ネクストチャレンジプログラム」の名で希望退職を募り、応募は82名であった。同事業の従事者は約2300名で、機能ソリューション事業の1140名を上回るグループ最大の人員を抱える。募集人数は設定せず、追加募集の予定もないと説明された。商品側では創益カテゴリーへの絞り込みと販売価格の適正化を進め、「値上げをしても売れる商品でなければ生き残れない」(グンゼ 2026年3月期第1四半期決算説明会 質疑応答 2025/8/20)という考えを示した[16][17][18]。
同時に変えた資本政策
同じ日に株主還元も変わった。配当の基準はDOE2.2%以上から4.0%以上へ引き上げられ、ROEが8%以上になるまでは総還元性向100%超となる特別配当や自己株式取得を機動的に実施するとした。2025年3月期の配当は、直前の予想157円から390円へ引き上げられた。佐口敏康社長は、資本収益性の最大化と財務健全性の維持を両立させ、資本の最適化を図るための変更だと説明している[19][20]。
狙いはPBR1倍以上の回復に置かれた。グンゼは強化・拡大と構造改革の二軸に事業を分けて個々のROICを改善し、還元の強化と最適資本構成の構築でROE8%を目指すという順序を示した。株式の売買が細っていた点にも手が打たれ、2025年4月1日付で株式分割を実施し、株主優待も見直した。1日あたりの平均出来高は、ピークの2005〜2007年度に対して近年は5割程度まで減っていた[21][22]。
結果
「計画通り」と説明される進捗と、成長側の逆風
改革の進み方について、経営陣は一貫して計画通りだと説明している。2026年2月19日の説明会では、創益性の高いカテゴリーへの資源集中、商品ラインナップの見直しと価格改定、生産体制の最適化と物流拠点の再編を挙げた。同年5月の説明会でも、生産拠点の集約と間接部門の合理化が計画どおりだとし、強みを出せる戦略ブランドへ絞る方針を重ねて示した。2027年度の目標はアパレルが売上541億円・営業利益23億円・ROIC5.1%で、同じ年にメディカルは25%を見込む[23][24][25]。
一方、資本を寄せた側は想定どおりには伸びなかった。2026年3月期上期は減収減益となり、メディカル事業の営業利益率は前年同期の19.8%から14.6%へ下がった。中国の医療費抑制政策で高額消耗材の使用制限と価格引き下げ圧力が強まり、人民元安も重なった。プラスチックは中国製の安価な化学品との価格競争に巻き込まれ、メディカルとエンプラの新工場は先行投資の段階で経費が先に出た。経営陣は上期の結果を真摯に受け止めると述べ、通期予想は据え置いた[26][27]。
改革の完遂を託した社長交代
2026年5月14日、佐口敏康社長は前期の下方修正を含む業績面の責任に触れたうえで、岡高広専務への社長交代を発表した。2027年3月期以降を「構造改革から成長への移行フェーズ」(グンゼ 2026年3月期決算説明会 質疑応答 2026/5/14)と呼び、新しい段階へ移る前に引き継ぐと説明した。岡氏は経営戦略部門の責任者としてアパレル事業の構造改革を担ってきた人物で、佐口社長はその「想定以上のスピード」と、米国で約10年間経営に携わった経験を評価している[28][29]。
岡氏は、変化をリスクではなくチャンスと捉え、迅速に利益を生み出せる企業体質へ転換すると述べた。2029年3月期から始まる次期中期経営計画「VISION 2030 stage3」では、機能ソリューションで資源循環分野を広げ、アパレルは海外展開に向けて販売・物流体制を整え、メディカルは欧米に加えて東欧・南米へ販路を伸ばす方針を示している。構造改革の帳尻は、この次の計画の期間に持ち越された[30][31]。
- グンゼ 2025年3月期決算説明会 質疑応答(2025年5月14日)
- グンゼ 2026年3月期第1四半期決算説明会 質疑応答(2025年8月20日)
- グンゼ 2026年3月期第2四半期決算説明会 質疑応答(2025年11月5日)
- グンゼ 2026年3月期第3四半期決算説明会 質疑応答(2026年2月19日)
- グンゼ 2026年3月期決算説明会 質疑応答(2026年5月14日)
- グンゼ 統合レポート2025
- グンゼ 有価証券報告書 セグメント情報(2023年3月期・2025年3月期・連結)
- グンゼ 有価証券報告書(2025年3月期・連結)