旭化成の創業過程が示す構造的な特徴は、アンモニア合成という単一の化学技術が肥料・繊維・火薬という異なる事業領域への展開を可能にした点にある。延岡の水力発電で得た安価な電力と、そこから生まれるアンモニアを共通の原料基盤とすることで、一見無関係に見える事業群が有機的に接続された。この…
宮崎輝氏の多角化経営で注目すべきは、参入初期の赤字を「健全」と位置づけた点にある。全社の財務が悪化しない範囲に投資額を限定し、既存事業の黒字を原資として新規事業の赤字を許容する仕組みは、多角化のリスクを定量的に管理する手法であった。加えて異分野からの人材登用を組み合わせ、既存事業…
石油化学参入で注目すべきは、エチレンセンター建設の10年以上前から旭ダウを通じて樹脂の顧客基盤を先行構築していた点にある。先に川下の販路を確保し、後から川上の原料供給体制を整える「逆算型」の参入戦略であった。宮崎輝氏が社内の反対論を押し切れたのも、旭ダウの高収益が投資回収の蓋然性…
住宅事業で興味深いのは、建材の技術選定で失敗した後に「撤退」ではなく「技術の入れ替え」を選択し、さらに販売方式まで抜本的に見直した点にある。シリカリチートからALC、代理店から直販と、事業の構成要素を一つずつ入れ替えながら最適解に到達している。加えてALCの「高価だが高性能」とい…
人工腎臓への参入は、ベンベルグ繊維から派生した中空糸技術を医療分野に転用した事例である。技術の発見自体は偶然の要素が大きいが、それを事業化する組織の判断は計画的であった。繊維研究者を医療機器開発に配置転換し、販売では外部提携で販路を確保するなど、自社技術と外部リソースを組み合わせ…
東洋醸造の事例で注目すべきは、親会社から派遣された小川三男氏が、派遣元の旭化成本体を上回る医薬品事業を独自に構築した点にある。旭化成が直接参入した医薬品は収益化に至らなかったのに対し、東洋醸造では発酵技術を活かして売上の過半を医薬品に転換するまでに至った。事業を生む力が本社ではな…
旭化成の選択と集中で注目すべきは、多角化の推進者である宮崎輝氏の急逝を契機に経営陣が即座に路線転換に着手した点にある。拡大路線の限界は社内で認識されていたが、宮崎氏の存在が方針転換を阻んでいた構図が浮かぶ。山本一元社長が導入した部門別バランスシートとROE経営はデュポン・ダウの影…