蘭エネコの共同買収(2019年・三菱商事の決断)

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論点 発電から小売りまでの欧州企業を買収するか
三菱商事:業績の推移
売上高(億円)税引前利益率(%)
中部電力と8対2で組み、欧州の発電から小売りまでの全事業を抱える選択

何をなぜ決めたか:中部電力と8対2で組み、欧州の発電から小売りまでの全事業を抱える選択

概要

2020年3月24日、中部電力と共同で設立したDiamond Chubu Europe B.V.を通じ、入札により欧州で総合エネルギー事業を展開する在蘭Eneco Groep N.V.の全株式を取得し、同日付で連結子会社とした。投じた額は約5,000億円、取得日時点の対価の公正価値は488,568百万円である。Diamond Chubu Europe B.V.に対する三菱商事の議決権所有割合は80%で、残る20%は中部電力が持つ。連結財務諸表には、この20%にあたる98,609百万円が非支配持分として計上されている。

背景

エネコは、再生可能エネルギーの開発・供給、トレーディング、小売・新サービスのそれぞれの分野で高い競争力と適応力を持つ総合エネルギー事業会社である。三菱商事は買収以前から欧州の電力事業子会社Diamond Generating Europe Limitedを通じてエネコと複数の共同投資を行っており、今回の企業結合でその一部が共同支配企業から子会社へ移った。狙いは、エネコの再エネに関する技術力とノウハウを活用して欧州および欧州外での再エネ開発を加速させ、経済価値・社会価値・環境価値の三価値同時実現に資する取り組みを強化することにある。

内容

取得日が期末日の直前にあたり、2020年3月期の時点では取得資産・引受負債の測定が完了していなかった。そのため投資の意思決定を行った際の評価モデルを用いた暫定的な金額で計上され、のれんは資金生成単位への配分も行われないままとなった。

翌2021年3月期に測定が完了する。有形固定資産は15,219百万円、無形資産は49,626百万円減額され、持分法で会計処理される投資は13,335百万円増えた。識別可能純資産は425,749百万円から387,382百万円へ38,367百万円減り、その差はそのままのれんへ移って、のれんは63,461百万円から101,828百万円へ確定した。修正は前年度の数値に遡及して反映されている。

含意

エネコの連結は電力ソリューションセグメントの姿を変えた。同セグメントの資産合計は2019年3月期の723,339百万円から2020年3月期に1,622,558百万円へ倍増し、収益は通年で寄与した2021年3月期に626,197百万円と前期比665%増となった。

エネコに配分されたのれんは減損されておらず、帳簿価額(持分比率勘案前)は2025年3月期末で144,877百万円と確定時を上回る。ただし利益の出方には偏りがあり、エネコは 『もともと第4四半期でほぼ年間の利益を稼ぎ、そこまでは赤字というのが過去からのパターン』 という構造を持つ。

いつ何が起きたか 4件
当時の取締役 13名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

考察:潮流に乗るという投資
考察

考察:潮流に乗るという投資

この買収で払った488,568百万円のうち、識別可能な純資産として測れたのは387,382百万円だけであった。差の101,828百万円はのれん、すなわち帳簿に載らない将来の超過収益への支払いである。上流の権益を積み上げて売る商社の型ではなく、発電から小売りまでを持ち需要家と直接つながる事業会社をまるごと保有する型へ、この一手で足を踏み入れたとみられる。取得の主体を中部電力との共同出資会社に置き、自らはその議決権の一部を譲渡する設計を選んだところにも、単独で背負うには重い規模だったことがうかがえる。

もっとも、この賭けが今のところ外れていないことは、のれんが一度も減損されていない事実が示している。エネコに配分されたのれんの帳簿価額は2025年3月期末で144,877百万円と、確定時の水準を上回る。ただし電力ソリューションセグメントの当期純利益は同じ期に15,607百万円の赤字へ転じており、欧州のエネルギー市況と季節性に業績が揺れる構図は変わっていない。発電から小売りまでを抱えるということは、需要家を持つ代わりに市況の振れを全面的に引き受けることでもある。潮流に乗る投資の成否は、乗り続けた先でしか見えてこないのだろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

三菱商事:電力ソリューションセグメントの推移

資産合計(百万円)当期純利益(百万円)
三菱商事:電力ソリューションセグメントの推移
(百万円) 収益当期純利益資産合計 備考
2019年3月期 75,79133,136723,339
2020年3月期 81,87051,4821,622,558 3月24日にエネコを子会社化。資産合計は暫定的な金額の確定に伴う遡及修正後
2021年3月期 626,19742,2571,814,988 エネコの通年寄与で収益は前期比665%増、売上総利益は同175%増
2022年3月期 −50,5042,650,077 セグメント別の収益はこの期から開示されていない
2023年3月期 −61,8852,716,166
2024年3月期 −92,0252,754,544
2025年3月期 −△15,6072,512,091 持分法による投資損益が△31,526百万円となり当期純損失
出所:三菱商事 有価証券報告書(2019年3月期〜2025年3月期・セグメント情報)
出所:三菱商事 有価証券報告書(2019年3月期〜2025年3月期・セグメント情報)

三菱商事:のれんと無形資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形資産(百万円)
三菱商事:のれんと無形資産の推移
(百万円) のれん無形資産総資産 備考
2015年3月期 −329,08116,774,366 連結財政状態計算書は「無形資産及びのれん」の合算表示で、のれん単独の額は出ない
2016年3月期 −291,11614,916,256
2017年3月期 −1,010,31015,753,557
2018年3月期 388,685614,65016,036,989 のれん単独の開示はこの期から
2019年3月期 404,313631,58516,532,800
2020年3月期 562,805832,24818,033,424 エネコと千代田化工建設の子会社化。暫定的な金額の確定に伴う遡及修正後
2021年3月期 432,393816,06918,634,971 エネコに配分されたのれんは約1,100億円(持分比率勘案前)
2022年3月期 453,706767,86221,912,012
2023年3月期 459,775747,62722,147,501
2024年3月期 296,473446,42023,459,572 エネコののれんは145,864百万円。減損テストで回収可能価額の下回りは低いと判断
2025年3月期 297,753461,15221,496,104 エネコののれんは144,877百万円で減損なし
出所:三菱商事 有価証券報告書(2016年3月期〜2025年3月期・連結財政状態計算書、連結財務諸表注記「のれん及び無形資産」)
出所:三菱商事 有価証券報告書(2016年3月期〜2025年3月期・連結財政状態計算書、連結財務諸表注記「のれん及び無形資産」)

買収の条件

買収の条件
科目 概要 備考
被取得企業 Eneco Groep N.V.(在蘭) 欧州で総合エネルギー事業を展開。再エネの開発・供給、トレーディング、小売・新サービスの3分野を持つ
取得の主体 Diamond Chubu Europe B.V. 中部電力株式会社と共同で設立した会社
取得の法的形式 入札による株式取得 同社株主との間で株式売買契約を締結
取得した議決権比率 100% Diamond Chubu Europe B.V.がエネコの全株式を取得
三菱商事の議決権所有割合 80% Diamond Chubu Europe B.V.に対する割合。残る20%は中部電力株式会社が保有
企業結合日 2020年3月24日 同日付でエネコを連結子会社とした
対価の公正価値 488,568百万円 事業等のリスクでは約5,000億円。100%相当が連結CFの「事業の取得による支出」に含まれる
識別可能純資産 387,382百万円 取得時は暫定425,749百万円。翌期の測定完了で38,367百万円減
のれん 101,828百万円 取得時は暫定63,461百万円。翌期の確定で38,367百万円増。税務上損金算入不能
無形資産 163,968百万円 取得時は暫定213,594百万円。再エネ関連補助金の受領見込額の暫定評価を含む
非支配持分(三菱商事の連結財務諸表) 98,609百万円 中部電力が持つDiamond Chubu Europe B.V.の20%に相当する
既保有持分の再測定益 12,924百万円 共同支配企業が子会社となり、電力ソリューションの「有価証券損益」に計上
買いコミットメント 1,306,820百万円 エネコが長期エネルギー買付契約に基づき保有。2025年3月期末は1,417,037百万円
出所:三菱商事 有価証券報告書(2020年3月期・2021年3月期)連結財務諸表注記「企業結合及び共同支配事業の取得」/三菱商事 有価証券報告書(2020年3月期)「経営上の重要な契約等」
出所:三菱商事 有価証券報告書(2020年3月期・2021年3月期)連結財務諸表注記「企業結合及び共同支配事業の取得」/三菱商事 有価証券報告書(2020年3月期)「経営上の重要な契約等」
当時の取締役 13名

当時の取締役(2019年6月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 三菱商事 有価証券報告書「2020年3月期「経営上の重要な契約等」」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2020年3月期 連結財務諸表注記「企業結合及び共同支配事業の取得」」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2021年3月期 連結財務諸表注記「企業結合及び共同支配事業の取得」」
  • 三菱商事 決算説明会資料「2021年3月期 決算説明会」
  • 三菱商事 決算説明会 質疑応答「2025年3月期第2四半期決算説明会 質疑応答」
  • 三菱商事 有価証券報告書「2025年3月期 連結財務諸表注記「のれん及び無形資産」」

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