タダノ米テレックスからのデマーグクレーン事業の取得と、ドイツ生産拠点の集約
持っていない製品は買って埋めるか、自ら作るか——236億円で得た超大型クレーンと、七期続いた欧州の営業損失
- 概要
- 2019年2月23日、タダノが米テレックス・コーポレーションの持つデマーグブランドのクレーン事業を約2億1,500万ドル(約236億円)で取得すると発表し、同年7月31日に完了した経営判断。8社の株式取得と11社の事業譲受を含む取引で、超大型のオールテレーンクレーンとクローラクレーンを一度に商品系列へ加えた。
- 背景
- 主力は日本の狭い現場で育ったラフテレーンクレーンと車両搭載型クレーンで、1,000トンを超える超大型機を持たなかった。2008年に事業領域をLEと定めた同社には、多角化で不況を凌ぐ道が残されていない。持っていない製品を持つことが、専業のまま伸びる数少ない手段であった。
- 内容
- 取得により吊り上げ能力1,200トンまでのオールテレーンクレーンと400〜3,200トンのクローラクレーンが加わり、移動式クレーンの世界シェアは推定で25%になるとされた。連結従業員数は3,405人から5,084人へ増え、欧州セグメントの資産は366億円から906億円へ膨らんだ。
- 含意
- 買収の翌年にドイツ子会社2社が現地法の事業再生手続きへ入り、欧州セグメントは2019年度から7期続けて営業損失を計上した。2025年6月にはバラシャイド工場を閉じて生産を2拠点へ集約し、小型機の生産を日本へ戻している。品揃えを買う判断が、雇用と年金債務を買う判断でもあった。
買えたのは製品で、買えなかったのは会社の形
1,000トン級のオールテレーンクレーンを一から設計し、欧州で顧客と保守網を自力で開くには、何年かかるか見通せない。2008年にLEと定めた会社には、隣の分野へ逃げる道も残されていない。持っていない製品を持つ手段として買収を選んだこと自体は、2017年に多田野宏一社長が公言していた方針の延長にあった。誤算があったとすれば、236億円で手に入れたのが製品系列だけではなく、過剰な人員と年金債務を抱えた二つの組織であった点にあるとみられる。
実際に起きたことは、買収の翌年に買った会社を法的整理へ入れ、ブランドを消し、工場を閉じ、小型機の生産を日本へ戻すという後退の連続であった。欧州の営業損失は7期続き、2023年度には138億円まで膨らんだ。1990年に買ったファウンと2019年に買ったデマーグがかつてドイツ国内で競合していた事実は、二つを一つにする難しさを先に告げていたともいえる。品揃えの穴は数年で埋まっても、買った会社を一つの会社にする作業には、それよりはるかに長い時間がかかった。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
超大型を持たないまま三十年が過ぎた
タダノの主力は、日本の狭い現場が育てたラフテレーンクレーンと、トラックの荷台に載せる車両搭載型クレーンであった。欧州の道路規格から生まれたオールテレーンクレーンは、1990年5月にドイツでファウンGmbHを設立し、ファウンAGのクレーンおよび車両部門を買って手に入れている。クローラクレーンの足がかりも2008年12月に米国のスパンデックInc.を買収して得た。それでも、風力発電所や大型プラントの建設で使う1,000トン級の領域には届かないままであった[1][2]。
埋め方は買収に限らなかったはずだが、選べる手はそもそも多くない。2008年に事業領域をLEと定めて以来、この会社は吊る・持ち上げる・高い所で作業する機械の外へ出ないと決めていた。しかも需要は一方向に振れる。原油価格の下落で北米と中東のプラント向けが細った2016年度は、売上高が1,796億円、営業利益が184億円まで落ちている。専業のまま伸びる道は、同じ領域のなかで持っていない製品を持つことに絞られていた[3][4]。
「M&Aを2〜3件はやりたい」と公言していた
買う意思は事前に語られていた。2017年2月、多田野宏一社長は週刊東洋経済の取材に、2022年度に売上高3,000億円・うち海外2,000億円という目標を挙げ、高松の新工場に加えて海外の営業エリア拡大と製品拡充に向けたM&Aを2018年度までに2〜3件はやりたいと述べている。世界シェアは2007年の14%から2016年の26%へ上がっていたが、価格を下げてシェアを取る発想はないとも語った。伸ばす手段として値引きを外せば、残るのは製品と地域を増やす道であった[5][6]。
売りに出ていたデマーグは、ドイツを本拠に100年以上の歴史を持ち、大型のオールテレーンクレーンとクローラクレーンで世界有数とされるブランドであった。売り手の米テレックス・コーポレーションにとっては、不振事業の切り離しにあたる。買い手にとっては欲しい製品系列と欧州の生産設備がまとめて手に入る取引であり、しかも1990年に買ったファウンとデマーグは、ドイツ国内でかつて競合していた相手同士でもあった[7][8]。
決断
236億円で8社と11社をまとめて引き受ける
2019年2月23日、タダノはテレックス・コーポレーションが所有するデマーグブランドのクレーン事業を取得すると発表した。取得価額は約2億1,500万米ドル、日本円で約236億円である。取引の建て付けは単純な株式譲渡ではなく、ドイツ子会社と欧州域内の関連会社8社の株式取得に、11社分の事業譲受を重ねる形をとった。買収は2019年7月31日に完了し、これにより移動式クレーンの世界シェアは推定で25%になるとされた[9][10][11]。
手に入ったのは、吊り上げ能力1,200トンまでのオールテレーンクレーンと、400〜3,200トンのクローラクレーンである。中期経営計画では2020年3月期の海外売上高比率を6割に置き、2018年3月期の44%から引き上げる計画を掲げていた。長期の目標は8割である。2019年8月1日にはドイツのツヴァイブリュッケンで各国から約1,200名が集まる発足行事を開き、買った事業と買った会社が同じ日から一つの看板の下に並んだ[12][13]。
買ったのは製品系列と、五千人規模の従業員
取引が数字に現れたのは早かった。連結従業員数は2018年度末の3,405人から2019年度末の5,084人へ増え、欧州セグメントの資産は366億円から906億円へ膨らんでいる。品揃えの穴を埋めるという説明の内側には、ドイツの工場と、そこで働く人と、その人たちに対する年金債務が含まれていた。買収の成否は、増えた固定費を欧州の売上が支えられるかどうかに移った[14]。
同じ2019年には、高松市香西北町の香西工場が8月に本格稼働し、前年末にはインドで合弁会社を設けている。多田野宏一社長は、インドの拠点・国内の新工場・ドイツの大型機事業という三つが揃ったことで売上高3,000億円へ突破できるだけの「材料」は集まったとし、それをどう「料理」するかが目の前の大きな課題だと書いた。創業100周年と重なった一年に、三つの投資が同時に走り出した[15][16]。
結果
買収の翌年に、買った会社が法的整理へ入る
2020年10月8日、タダノはドイツ子会社のファウンとデマーグの2社について、現地裁判所に事業再生手続きを申請した。生産と販売の通常業務を続けながら再建計画を作る手続きで、負債総額は2020年6月末時点で約453億円であった。ファウンは品質問題などで3期連続の赤字、デマーグも前期が赤字で、2022年度の黒字化計画は新型コロナウイルスの影響により大幅に遅れる見通しとなっていた。手続きは2021年3月に完了している[17][18]。
統合の作業はブランドの整理まで及んだ。2021年10月、ファウン・デマーグ・タダノの三つの名前をタダノへ揃え、製品カテゴリの呼称や型式の命名法、カラーリングまで一本化している。それでも赤字は続いた。氏家俊明社長は2023年、デマーグというブランドを手に入れて大型クレーンのラインナップを広げることが狙いだったが、いまだに赤字が続いていると語り、要因として過剰な人員と年金債務、ドイツの労働組合の強さ、コロナとウクライナ戦争によるサプライチェーンの寸断を挙げた[19][20]。
買った工場を畳み、小型機の生産を日本へ戻す
2024年12月6日、タダノは南西部のバラシャイド工場を2025年6月をめどに閉鎖し、土地と建物の一部を2025年7月にクボタの関連会社へ引き渡すと発表した。ドイツの3拠点は2カ所へ集約し、小型のオールテレーンクレーンは日本国内へ生産を移す。譲渡により2025年12月期に約65億円の特別利益を計上する見込みであった。欧州市場向けの製品販売が伸び悩み、2023年度に過去最大の赤字を出したことが再編の直接の理由であった[21]。
欧州セグメントの営業損益は、買収初年度の2019年度に63億円の損失を出してから7期にわたり損失が続いた。損失が最も大きかったのは2023年度の138億円で、工場再編を経た2025年12月期は32億円まで縮んでいる。2025年10月には取締役4名のうち2名をドイツへ送った。買った資産を一つの会社にまとめる作業は、買収から6年を過ぎてなお終わっていない[22][23]。
- タダノ 有価証券報告書【沿革】
- タダノ 有価証券報告書(2017年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2020年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2025年12月期・連結)
- タダノ 統合報告書2019
- タダノ 統合報告書2021
- タダノ 統合報告書2023
- タダノ 統合報告書2026
- 週刊東洋経済 2017年2月25日号「この人に聞く タダノ社長 多田野 宏一 「トランプ特需」に即対応 海外でM&Aも仕掛ける」
- 週刊東洋経済 2023年10月7日号「トップに直撃 タダノ 社長CEO 氏家俊明 「北米の油ガス需要が牽引 中国の安値攻勢には警戒」」
- M&A Online(2019年2月23日)「タダノ<6395>、米テレックス傘下の「Demag」クレーン事業を買収」
- 日本経済新聞(2019年2月25日)「タダノ、超大型加え海外展開加速 米社のクレーン事業買収」
- 日本経済新聞(2019年8月1日)「タダノ、米Terex社が所有するDemagクレーン事業の買収を完了」
- 日本経済新聞(2020年10月8日)「タダノの独子会社2社、事業再生手続き」
- 日本経済新聞(2024年12月6日)「タダノ、独1工場閉鎖しクボタに譲渡 欧州事業立て直し」