タダノ事業領域のLE(移動機能付き抗重力・空間作業機械)への限定と、多角化の不採用
- 概要
- 2008年、タダノが事業領域をLE(Lifting Equipment=移動機能付き抗重力・空間作業機械)と定義し、吊る・持ち上げる・高い所で作業する移動できる機械に事業を限ると明文化した経営判断。多角化で需要の振れを吸収する道を採らず、一つの分野で世界一を目指す方針を掲げた。
- 背景
- 1998年度・1999年度・2001年度と三度の当期損失を出し、そのつど人員整理を行っていた。国内建設投資の縮小がそのまま業績に響く構造を経験したうえで、幅を広げて凌ぐか、狭いまま世界へ出るかの選択が残った。
- 内容
- 多田野宏一社長は統合報告書で 『LE以外の事業を営む選択肢もあったのかもしれませんが』 と書き、あえてLEを事業領域と定めたうえで、LE世界No.1・海外売上高比率80%・平時の営業利益率20%以上という長期目標を掲げた。同じ2008年には千葉工場を新設し、米スパンデックInc.を買収してクローラクレーンの足がかりも得ている。
- 含意
- 2010年度・2016年度・2020年度と需要が振れるたびに業績は落ち、専業の代償が同じ数字に出た。他方でデマーグ、マニテックス、IHI運搬機械の運搬システム事業と、欠けた製品を買って埋める行為が続き、外周そのものも押し広げられている。
筆者の見解
線を引いた側が、線に縛られる
『LE以外の事業を営む選択肢もあったのかもしれませんが』という一文には、選ばなかった道を自ら書き残す律儀さがある。三度の当期損失と119人の退職を経た会社が、幅を広げて振れを吸収する常道ではなく、狭いまま世界一を目指す方を採った。この選択の実質は、業績が落ちたときに他の事業へ資金を逃がす操作を、あらかじめ自分に禁じたことにあった。欠けている製品は自力で作るか、持っている会社を買うしかない——2008年の定義は、その後の投資の形まで決めていたとみることができる。
代償は隠されていない。2010年度に売上高898億円・当期純損失67億円、2016年度に営業利益184億円、2020年度に当期純損失130億円と、需要が一方向へ振れるたび数字が沈んだ。しかも線そのものが動いている。2025年に取り込んだ運搬システム事業には、移動しない固定式のクレーンが含まれる。定義に忠実であろうとして品揃えを買い足すうちに、定義の側が書き換えられていく。外周を自社の言葉で引いた会社の強みと危うさは、同じところにあるといえる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
同じ問いに直面した会社
- タダノ 有価証券報告書【沿革】
- タダノ 有価証券報告書(2008年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2011年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2017年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2021年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2025年12月期・連結)
- タダノ 統合報告書2018
- タダノ 統合報告書2021
- タダノ 統合報告書2023
- タダノ 統合報告書2026