タダノ創業家以外からの初の社長登用と、丸紅出身者への経営の移譲
同族で継ぐか、外から来た人に託すか——欧州が赤字を出し続けた年に決めた社長交代
- 概要
- 2021年2月19日、タダノが氏家俊明副社長の社長CEO昇格を発表し、4月1日に就任した経営判断。1948年の設立以来、社長は創業家の多田野家が務めてきたが、丸紅出身で2019年に入社したばかりの人物へ経営が渡った。多田野宏一社長は代表権のある会長へ退いた。
- 背景
- 2019年のデマーグクレーン事業の取得で連結従業員は3,405人から5,084人へ増え、ファウン・デマーグ・タダノという三つのブランドが並んだまま欧州は赤字を出していた。2020年10月にはドイツ子会社2社が現地法の事業再生手続きへ入り、2020年度は当期純損失130億円を計上している。
- 内容
- 多田野宏一社長は氏家俊明氏について「構想力と実行力を備えており、後継者たり得る人材」と述べ、自身は65歳を節目と語って会長へ移った。氏家氏は統合報告書で「Innovationを起こすのは若者・馬鹿者・よそ者である」という前社長の言葉を引き、自らの「よそ者」としての有効期限は長くないと書いている。
- 含意
- 就任後はブランドの統一、決算期の12月への変更、インドでの開発・製造の中止、中国合弁の清算、バラシャイド工場の閉鎖と、畳む判断が続いた。北米が伸びて2025年12月期の売上高は過去最高となったが、欧州セグメントの営業損失は7期にわたり残っている。
よそ者を呼んだ側と、呼ばれた側
経営を渡した年の決算は、当期純損失130億円であった。リーマンショック後に出した67億円を上回る。その年に多田野宏一会長が後継に選んだのは、丸紅から迎えて2年しか経っていない氏家俊明氏で、後年の取材では「求めていたのは若者、よそ者、ばか者だったのです」と説明している。創業家の6代目が自ら同族の継承を打ち切った背景には、買った会社を一つにまとめる仕事が創業家の言葉では進まないという見立てがあったとみられる。
ただ、託された仕事の中身は、伸ばすより畳むことであった。インドの開発を止め、中国の合弁を清算し、ドイツではバラシャイド工場を閉じ、小型機の生産を日本へ戻している。北米が伸びて2025年12月期の売上高は3,494億円と過去最高になった一方、欧州の営業損失は7期続いた。氏家俊明社長は就任時に自らの「よそ者」としての有効期限は長くないと書いたが、その期限を過ぎてなお欧州の黒字化は残っている。外から来た人に何を期待していたのかは、その一点で測られることになる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
七十年余り、社長は創業家が務めてきた
1948年に株式会社多田野鉄工所として発足してから、この会社の社長は創業家が務め続けた。2003年に就いた多田野宏一氏は創業者の孫にあたる6代目である。もっとも、経歴は生え抜きではない。1954年生まれの同氏は1977年に丸紅へ入り、11年を経た1988年にタダノへ移って常務・専務を務めたうえで社長になった。外の会社で働いた人物が家業を継ぐ形は、この会社ではすでに一度起きていた[1][2]。
その体制で迎えた2019年が、会社の形を変えた。7月末にデマーグクレーン事業の買収が完了し、連結従業員数は3,405人から5,084人へ増えている。ファウン、デマーグ、タダノという三つのブランドと、それぞれの企業文化が同じグループに並んだ。欧州セグメントは2019年度に売上高321億円に対し64億円の営業損失を出し、日本が稼いだ170億円の利益を削っている[3][4]。
買った会社を法的整理へ入れた年
2020年10月8日、タダノはドイツ子会社のファウンとデマーグ2社について、現地裁判所へ事業再生手続きを申請した。負債総額は2020年6月末時点で約453億円である。ファウンは品質問題などで3期連続の赤字、デマーグも前期が赤字で、2022年度の黒字化計画は新型コロナウイルスの影響で大幅に遅れる見通しとなっていた。手続きは2021年3月に完了している[5]。
数字の落ち込みも同じ年に出た。2020年度の連結売上高は1,860億円で前期から419億円減り、営業損失42億円、親会社株主に帰属する当期純損失130億円を計上している。リーマンショック後の2010年度に出した67億円の当期純損失を、額で上回った。社長交代の判断は、この決算の内容が固まりつつある時期に下されている[6]。
決断
入社から二年の人物を後継に指名する
2021年2月19日、タダノは氏家俊明副社長(59)が4月1日付で社長CEOに就任すると発表した。多田野宏一社長(66)は代表権のある会長へ移る。多田野氏は後継指名の理由を、構想力と実行力を備えており後継者たり得る人材と判断したためだと語り、自身については65歳を「120%の力で仕事をするには一つの節目」と述べている。創業家以外から社長が出るのは、会社の設立から数えて初めてであった[7][8]。
氏家氏は1961年生まれ、慶応大学経済学部を出てラグビー部の主将を務めた人物で、丸紅では常務執行役員・輸送機グループCEOなどを歴任した。多田野宏一氏と縁があり、2019年にタダノへ入社している。入社から社長就任までは2年しかない。多田野氏自身も丸紅からタダノへ移った経歴を持ち、二人は同じ商社の出身であった。氏家氏は就任にあたり、異業種の経験を生かせば新しいことができると語っている[9][10]。
「若者、よそ者、ばか者」という選び方
後継者に何を求めたのかを、多田野宏一会長は後に日経ビジネスの取材で「求めていたのは若者、よそ者、ばか者だったのです」と説明している。同族で継ぐことを前提にせず、外から来た人物に会社の形を変えさせる意図がそこにあった。創業家の6代目が自ら同族経営の慣行を終わらせた形になる。会長として代表権を残しつつ、日々の経営は渡すという構えでもあった[11]。
渡された側も同じ言葉を使った。氏家俊明社長は統合報告書で、前社長から何度か言われた「Innovationを起こすのは若者・馬鹿者・よそ者である」を引き、少なくとも若者以外の二つは充分満たしていると書いている。社長交代の目的は変革であり、期待されているのはその速さと大胆さだとしたうえで、自分の「よそ者」としての有効期限もそう長くは続かないとも記した。任期の初めに自らの効き目に期限を置く言い方であった[12]。
結果
畳む判断が続いた四年
就任後に並んだのは、広げるより畳む判断であった。2021年10月にファウン・デマーグ・タダノの3ブランドをタダノへ統一し、型式の命名法やカラーリングまで揃えている。2022年12月期には決算日を3月31日から12月31日へ移し、海外子会社との期ずれを解消した。移行期は9か月の変則決算となっている。看板と暦を先に揃えたうえで、事業の取捨に入った[13][14]。
2022年9月にはインドでのクレーン開発・製造を中止し、エスコーツクボタとの提携を解消して合弁会社を完全子会社化した。販売そのものは続ける形である。翌2023年3月には中国の製造販売合弁会社の清算を終えた。氏家社長はインドについて、市場価格が低すぎるとしたうえで、クレーンは現場で事故を起こせば一般の人を巻き込むため、安全との兼ね合いで利益を出せる価格では造れないと述べている[15][16][17]。
北米が伸び、欧州が残る
就任直後の2021年5月、氏家社長は買収した事業との一体化を「ONE TADANO」と呼び、デマーグ買収で得た超大型クレーンで日本と台湾の洋上風力発電所建設に伴う需要を取り込むと語っていた。実際に業績を押し上げたのは北米であった。テキサス州を中心とする石油・天然ガス開発の需要でラフテレーンクレーンが伸び、再生可能エネルギーや原子力向けの超大型機にも引き合いが続いた[18][19]。
2025年12月期の連結売上高は3,494億円と過去最高になり、親会社株主に帰属する当期純利益も183億円へ回復した。氏家社長は売上高約3,000億円の内訳を、日本が約1,000億円、米国が約1,000億円、それ以外が1,000億円と説明している。他方で欧州セグメントは同期も32億円の営業損失を出し、買収初年度から7期続けて赤字が残った。2025年10月には取締役4名のうち2名をドイツへ送っている[20][21][22]。
- タダノ 有価証券報告書【沿革】
- タダノ 有価証券報告書(2020年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2021年3月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2022年12月期・連結)
- タダノ 有価証券報告書(2025年12月期・連結/報告セグメント情報)
- タダノ 統合報告書2021
- タダノ 統合報告書2026
- 週刊東洋経済 2017年2月25日号「この人に聞く タダノ社長 多田野 宏一 「トランプ特需」に即対応 海外でM&Aも仕掛ける」
- 週刊東洋経済 2023年10月7日号「トップに直撃 タダノ 社長CEO 氏家俊明 「北米の油ガス需要が牽引 中国の安値攻勢には警戒」」
- 日経ビジネス(2023年4月4日)「建設クレーンのタダノ 『よそ者、ばか者』スカウトで同族経営壊す」
- 日本経済新聞(2020年10月8日)「タダノの独子会社2社、事業再生手続き」
- 日本経済新聞(2021年2月19日)「タダノ新社長に氏家氏昇格 創業家外から初登用」
- 日本経済新聞(2021年5月21日)「欧州事業で相乗効果生む タダノ・氏家新社長に聞く」
- 日本経済新聞(2022年9月20日)「タダノ、インドでの開発中止 クボタ子会社との提携解消」
- ダイヤモンド・オンライン(2025年3月26日)「クレーン世界大手、タダノ社長が大胆な『選択と集中』を激白!インドは撤退して米国シフト、欧州製造は日本に一部移管」