ラフテレーンクレーンのリコール(2004年・タダノの決断)

更新:
論点安全装置の不具合をどこまで遡り改修するか
タダノ:業績の推移
売上高(億円)経常利益率(%)
死亡事故を受けた15,278台の届出と、製品安全委員会・CSR体制の新設

何をなぜ決めたか:死亡事故を受けた15,278台の届出と、製品安全委員会・CSR体制の新設

概要

2004年12月、タダノはラフテレーンクレーン8型式16機種15,278台のリコールを届け出た。同年8月、岡山県の国道2号線を走っていたタダノ製ラフテレーンクレーンが対向車線へ飛び出し、対向車と衝突して死亡事故となっていた。原因は、逆ステアリングスイッチを切り忘れたときに働く安全装置の不具合である。同社として最大規模のリコールとなった。

届出の際、タダノは国土交通省から業務改善指示を受けた。2005年1月に業務改善報告を出す一方、過去10年間の不具合・品質案件を見直し、同年3月に車両18案件と作業装置27案件で改修工事が必要と判断した。これを受けて、2005年3月期に製品改修費用引当金973百万円を特別損失に計上した。

背景

対象の機体は、上部旋回体を後ろへ向けて走るときにハンドルの向きを切り替える逆ステアリングスイッチを運転室に、ブームが後方にあることを検出するスイッチを車体の外に備えていた。1998年以降の生産車には、上部旋回体を前に向けたまま逆ステアリングスイッチを入れると表示ランプが点滅し、警報ブザーが鳴る構造を加えていた。

同じ型の不具合は、死亡事故の前から起きていた。補助ステアリングシステムの誤操作による不具合は、1996年4月の群馬県松井田町を最初に2001年5月の岩手県二戸市まで4件あり、いずれも物損事故であった。2004年8月の岡山県の事故が5件目で、同年10月にも山形県大石田町で車両が歩道に乗り上げている。

内容

タダノは、改修費用を2005年3月期の業績の中で吸収できる範囲と判断した。2004年10月15日に発表した通期の連結業績予想、売上高100,000百万円・経常利益5,600百万円は修正しなかった。同時に、製品の安全と品質に対する基本認識を改め、それから1年間は安全と品質の追求に徹底して取り組む方針を打ち出した。

体制も改めた。2005年2月、製品安全基準・製造基準・マニュアルとメンテナンス基準を見直す製品安全委員会を新設した。さらに2005年度を「信頼回復に向け、一から出直し」「安全と品質を徹底的に追求する」年度と位置づけ、初年度にあった中期経営計画を1年延期して数値計画を変更した。

含意

リコールを機に、タダノは社会的責任を担う組織を構築した。2005年4月にCSR推進室を設け、同年10月には社長を委員長とするCSR委員会を頂点に、製品安全など既存の3委員会へリスク・コンプライアンスなど4委員会を加えた。2006年5月にはタダノグループ「CSR憲章」「CSR規範」を施行し、同月から内部通報制度を導入した。

改修も期限内に終えた。本件リコールの国内の改修工事は2006年3月までに、見直しで洗い出した45案件の改修工事は2007年3月までに、ほぼ完了した。製品改修費用引当金は2007年3月期末に残高がなくなった。2018年、多田野宏一社長は2004年のリコール問題を『当社が絶対に忘れてはいけない3つの重要な出来事』の1つに挙げている。

いつ何が起きたか12件
考察:業績予想を据え置いた出直し
考察

考察:業績予想を据え置いた出直し

なぜタダノは、販売済みの機体まで遡る15,278台という規模で届け出たのか。不具合は、運転者が逆ステアリングスイッチを切り忘れたときに働くはずの安全装置にあった。操作の誤りは人が乗る限り起こるので、新しい機体だけを直しても危険は残る。しかも同じ型の事故は1996年から4件あり、5件目で人が亡くなった。対象を絞る理由は見当たらなかったと思われる。タダノは届出に続けて過去10年の不具合を洗い直し、45案件の改修まで広げた。

もっとも、警報の手当ては1998年の生産車から始まっていた。誤操作の危険を、タダノは死亡事故の6年前に設計で認めていたことになる。それでも、それ以前に販売した機体は改修の対象にならなかった。危険を知る手がかりは、設計にすでにあった。事故が物損にとどまるあいだ、販売済みの機体に手を入れる判断には至らなかったのだろう。届出の規模の大きさは、6年分の遅れを取り戻す大きさでもあったとみられる。

届出の後の数字を見ると、この判断は成功だったと言える。費用は小さく収まった。引当金973百万円を計上した2005年3月期も、経常利益は5,727百万円と前期を上回った。45案件の改修は2007年3月までにほぼ終わり、同じ期の売上高は144,693百万円まで伸びた。製品安全委員会とCSR委員会という仕組みも残った。そして2018年になっても、社長はこの件を忘れてはいけない出来事に数えている。費用を抑えたことより、教訓を社内に残したことが大きいと思われる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
数字で見る1表

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図と表

タダノ:売上高と経常利益の推移

売上高(百万円)経常利益率(%)

引当金973百万円を計上した期も、経常利益は5,727百万円と前期を上回った

タダノ:売上高と経常利益の推移
(百万円)売上高経常利益当期純利益備考
2000年3月期94,434△1,244△2,574
2001年3月期93,8901,748447
2002年3月期88,196661△5,903
2003年3月期83,0652,866△637
2004年3月期96,6364,8742,757
2005年3月期101,8465,7273,8772004年12月にリコールを届出。製品改修費用引当金繰入973を特別損失に計上
2006年3月期120,8728,6465,601国内のリコール改修工事は2006年3月までにほぼ完了
2007年3月期144,69313,5507,68945案件の改修工事がほぼ完了し、引当金の残高がなくなった
2008年3月期174,36017,98011,619
2009年3月期162,76710,3315,539
2010年3月期104,251297△895
出所:タダノ 決算短信「平成13年3月期 決算短信(連結)」(2001年5月24日) / タダノ 有価証券報告書 第58期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / タダノ 有価証券報告書 第62期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】
出所:タダノ 決算短信「平成13年3月期 決算短信(連結)」(2001年5月24日) / タダノ 有価証券報告書 第58期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】 / タダノ 有価証券報告書 第62期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】
参考文献

参考文献

参考
  • タダノ リコール届出の公表資料「逆ステアリングスイッチとブーム後方位置検出スイッチ」
  • タダノ 有価証券報告書 第58期(2006年3月期)【対処すべき課題】
  • タダノ 有価証券報告書 第58期(2006年3月期)【コーポレート・ガバナンスの状況】
  • タダノ 有価証券報告書 第59期(2007年3月期)【対処すべき課題】
  • タダノ 有価証券報告書 第59期(2007年3月期)【連結財務諸表】
  • タダノ 有価証券報告書 第58期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】
  • タダノ ニュースリリース「逆ステアリングスイッチとブーム後方位置検出スイッチ」
  • タダノ 決算短信「平成17年3月期 第3四半期財務・業績の概況(連結)」
  • タダノ 決算短信「平成13年3月期 決算短信(連結)」
  • タダノ 統合報告書「統合報告書2018「Top Message」」
  • タダノ 統合報告書「統合報告書2024「CSR(企業の社会的責任)への取り組み」」
  • タダノ 有価証券報告書「第58期(2006年3月期)【主要な経営指標等の推移】【対処すべき課題】【コーポレート・ガバナンスの状況】」
  • タダノ 有価証券報告書「第59期(2007年3月期)【対処すべき課題】【連結財務諸表】」
  • タダノ 有価証券報告書「第62期(2010年3月期)【主要な経営指標等の推移】」

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