筆者の見解
一本足経営の限界が問うたもの
鐘紡の産業再生機構入りは、繊維事業の慢性赤字を化粧品の利益で穴埋めし続けた多角化の帰結であり、資金繰りの限界というよりも、長年の会計処理の限界が露呈した経営判断だっただろう。帆足隆氏が1998年に"大企業病の払拭"を掲げながら、帆足体制でもなお繰延税金資産によるかさ上げが続いた事実は、一人の経営者の交代だけでは会社に染みついた会計慣習を断ち切れなかったことを物語る。花王への売却という民間による解決策が、労組の反発と経営陣の内部対立という内側の力学によって土壇場で崩れたことも、この会社が抱えていた統治の脆さを映し出している。
産業再生機構による支援決定は、鐘紡という企業体の存続よりも、事業単位での再生可能性を優先する選択の始まりでもあった。世論の77%が支援に反対したという当時の調査結果は、公的資金による救済への懐疑がすでに社会に広く根づいていたことを示している。この決断を境に、粉飾の全貌解明と監査法人の刑事責任、旧経営陣と新体制の対立という、長い清算の物語が動き出すことになる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月