ライフコーポレーション 岩崎高治氏が社長就任 社長職の世襲を退け、自己株式の処分と引き換えに三菱商事から後継を迎えた承継

更新:

時期 2005年7月
当時の社長 清水信次
論点 経営承継と資本構成
何をなぜ決めたか
概要

創業者の清水信次氏は、後継を血縁に求めなかった。1999年5月に三菱商事から取締役として迎えた岩崎高治氏に、2006年3月の社長を託している。

その前年、2005年7月22日の取締役会で自己株式5,100,000株の処分を決議し、8月8日に三菱商事へ譲渡した。払い込まれた75億210万円で財務が厚くなり、三菱商事は持株比率19.53%の第2位株主となる。人事と資本を同じ束にして承継を固めた判断である。

背景

1988年3月に実弟の清水三夫社長を役員会で解任して本業へ戻して以来、清水信次氏は会長兼社長を18年続けていた。その間に財務は痩せる。自己資本比率は2004年2月期に16.4%まで落ち、2002年2月期には退職給付会計の変更時差異の一括償却と株式評価損で30億88百万円の当期純損失を計上していた。

掲げた課題は、オーバーストアとデフレ下の業種・業態を越えた競争に備えることであり、そのために人材力・資本力・情報力を強化する三菱商事との資本提携の一層の強化だった。後継者の不在と財務の細りが、同じ一手で解ける位置にあった。

内容

受け入れは段階を踏んでいる。1989年4月に三菱商事へ入り1994年2月から英国三菱商事へ出向していた岩崎高治氏は、1999年5月にライフの取締役となり、営業推進本部長・首都圏事業本部長・営業統括本部長を歴任した。

2005年7月22日、取締役会が自己株式5,100,000株の処分を決議する。発行済株式総数53,450,800株の9.54%にあたり、1株1,471円、総額7,502,100,000円で8月8日に三菱商事へ渡った。2006年3月、岩崎氏は代表取締役社長兼COO兼営業統括本部長に就任し、清水氏は代表取締役会長兼CEOへ回る。同月には三菱商事出身の下吉博孝氏が顧問として入社し、5月に常務取締役兼管理統括本部長となった。

含意

創業家は株を手放していない。清水信次氏の個人的持株会社である清信興産の20.14%は2011年2月期まで動かず、筆頭株主の座はライフ側に残った。渡したのは経営であって資本ではない。

一方、自己株式の処分で純資産は295億22百万円から360億95百万円へ増え、自己資本比率は18.2%から22.9%へ上がった。承継のための株式がそのまま財務体質の改善になり、2011年2月期には28.3%へ達している。

いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
筆者の見解

世襲の否定ではなく、承継を資本取引として組んだこと

この承継の核心は、血縁を外したことよりも、後継者の出身母体そのものを大株主に据えた点にある。血を継がせないだけなら社内の昇格で足りる。清水信次氏が選んだのは、迎えた岩崎高治氏の背中に三菱商事の資本と人材を付ける形だった。1999年に取締役として迎えてから7年を置き、社長を渡す前年に5,100,000株を処分している順序に、その設計が見てとれる。翌月に三菱商事出身の下吉博孝氏が管理部門の長として入ったことまで含めれば、渡したのは社長の椅子ではなく、経営を回す体制ごとだったといえる。

もっとも、創業家が退いたわけではない。清信興産の20.14%は動かず筆頭株主のまま、清水信次氏自身も代表取締役会長兼CEOとして残り、2021年に代表権を返すまで会社に居続けた。譲ったのは執行であって支配ではない。外から迎えた後継者に日々の経営を任せながら、創業者が最後の拠り所を握り続ける——この二重構造が15年続いたことをどう読むかで、この承継の評価は分かれるだろう。少なくとも営業収益は承継前の2005年2月期から2011年2月期までに24.3%伸び、自己資本比率は18.2%から28.3%へ厚くなった。渡し方の周到さは、数字の側からは支持されている。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
承継の経緯と対応

承継の経緯と対応

科目 概要 備考
自己株式処分の決議日 2005年7月22日(取締役会) 人材力・資本力・情報力の強化を目的に、三菱商事との資本提携を一層強化する
処分した自己株式 5,100,000株 新株発行に関する手続を準用する処分。発行済株式総数53,450,800株の9.54%
処分価額の総額 7,502,100,000円 1株あたり1,471円
譲渡日 2005年8月8日 同日付で三菱商事が主要株主となる
三菱商事の持株比率 19.53%(10,437千株) 2006年2月28日現在。議決権の被所有割合は20.7%、うち間接保有分は0.8%
筆頭株主 清信興産株式会社 20.14% 清水信次氏の個人的持株会社。三菱商事は第2位で、両者の比率は2011年2月期まで不変
新社長 岩崎高治氏(1966年3月生) 1989年4月三菱商事入社、1994年2月英国三菱商事出向、1999年5月ライフ取締役
社長交代 2006年3月 代表取締役社長兼COO兼営業統括本部長に就任。ライフの取締役となってから7年目
前社長の処遇 代表取締役会長兼CEO 清水信次氏は1988年3月から会長兼社長。2021年に代表取締役を退く
三菱商事からの追加受入 下吉博孝氏 2006年3月に顧問として入社し、5月に常務取締役兼管理統括本部長に就任

出所:ライフコーポレーション 有価証券報告書 第51期(2006年2月期)【自己株式の取得等の状況】【大株主の状況】【関係会社の状況】【役員の状況】【対処すべき課題】

純資産額と自己資本比率の推移

ライフコーポレーション:純資産額と自己資本比率の推移

(百万円) 純資産額総資産額 備考
2002年2月期 29,768158,693 退職給付会計基準変更時差異の一括償却と株式評価損で当期純損失
2003年2月期 27,887156,107
2004年2月期 28,729175,408 自己資本比率16.4%。前後10期で最も低い
2005年2月期 29,522161,942
2006年2月期 36,095157,819 自己株式5,100,000株の処分で75億210万円が入り、自己資本比率は22.9%へ
2007年2月期 35,220153,450 固定資産の減損に係る会計基準の適用に伴う減損損失を計上
2008年2月期 37,593157,983
2009年2月期 41,110165,584
2010年2月期 44,345167,326
2011年2月期 46,710164,889 自己資本比率28.3%
純資産額と自己資本比率
純資産額(百万円)純資産額率(%)

出所:ライフコーポレーション 有価証券報告書 第51期(2006年2月期)・第56期(2011年2月期)【主要な経営指標等の推移】

営業収益と利益の推移

ライフコーポレーション:営業収益と利益の推移

(百万円) 営業収益経常利益当期純利益 備考
2002年2月期 382,0502,765△3,088
2003年2月期 376,3414,0502,023 厚生年金基金の代行部分返上益を特別利益に計上
2004年2月期 376,1383,1661,645
2005年2月期 386,7324,5362,260
2006年2月期 398,3196,0492,854 設立50周年。期末配当に記念配当3円を加え年間17円
2007年2月期 418,6158,2621,640 減損損失の計上で当期純利益のみ減少
2008年2月期 439,6069,7434,278
2009年2月期 462,96811,0615,450
2010年2月期 468,8588,4384,062
2011年2月期 480,8229,8503,389 営業収益は承継前の2005年2月期から24.3%増
経常利益と経常利益率
経常利益(百万円)経常利益率(%)

出所:ライフコーポレーション 有価証券報告書 第51期(2006年2月期)・第56期(2011年2月期)【主要な経営指標等の推移】

同じ問いに直面した会社
参考文献
出典・参考
  • 三菱商事 適時開示「(株)ライフコーポレーションの株式取得に関するお知らせ(2005年)」
  • ライフコーポレーション 有価証券報告書「第51期(2006年2月期)【自己株式の取得等の状況】ニ 取得自己株式の処理状況」
  • ライフコーポレーション 有価証券報告書「第51期(2006年2月期)【大株主の状況】【関係会社の状況】」
  • ライフコーポレーション 有価証券報告書「第51期(2006年2月期)【役員の状況】」
  • ライフコーポレーション 有価証券報告書「第51期(2006年2月期)【対処すべき課題】」
  • ライフコーポレーション 有価証券報告書「第51期(2006年2月期)・第56期(2011年2月期)【主要な経営指標等の推移】」

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