不二製油北米最大の業務用チョコレート会社ブラマーの買収
業務用チョコレートで世界の上位に入るために、北米の設備をいくらで買うか
- 概要
- 2018年11月19日、不二製油グループ本社は米Blommer Chocolate Companyの全株式取得を決議し、2019年1月に子会社化を完了した。企業価値は約848億円、有利子負債を加減算した買収金額は600億円を超え、同社としては過去最大の買収となった。
- 背景
- 油脂・大豆たん白に続く柱として業務用チョコレートを育てるため、2015年にブラジルのハラルド社、2016年にマレーシアのチョコレート会社を取得していた。残っていたのが最大市場である北米の生産基盤であった。
- 内容
- 買収目的で設立したAztec Sub Inc.をBlommerと合併させる逆三角合併で全株式を取得した。Blommerは1939年設立のシカゴの会社で、売上高1,015億円、業務用チョコレートで世界3位、ココア豆加工で世界5位であった。
- 含意
- 買収により不二製油グループの業務用チョコレートは合計約40万トンとなり、世界3位に並んだ。一方、カカオ豆価格の高騰と設備の老朽化からブラマー社の収益は悪化し、2024年3月にシカゴ工場の閉鎖を発表している。
順位を買うことと、事業を持つこと
この買収で不二製油グループが手に入れたのは、北米の顧客基盤と、業務用チョコレートの世界3位という位置であった。地域ごとに会社を買い足してきた進め方の最後に、最大市場の大型設備を過去最大の投資で押さえた判断であり、素材メーカーが規模で仕入れ条件を有利にするという理屈にはかなっていたとみることができる。売上高が5年で2倍を超えたことも、取り込んだ事業の大きさを示している。
ただ、買った設備は1939年設立の会社が積み上げてきたもので、老朽化も一緒に引き受けた。カカオ豆価格の高騰が重なると、規模はそのまま損益の振れ幅に変わる。買収から5年でシカゴ工場を閉じ、カナダへ設備を移し替えている経過は、順位を得ることと、その事業を稼げる形で持ち続けることが別の課題であることを示している。北米の収益改善は歴代3人の社長に引き継がれており、この買収の評価はまだ定まっていないとみられる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
業務用チョコレートを三つめの柱にする構想
不二製油の業務用チョコレートは、1955年のハードバター、1963年の洋生菓子用チョコレート販売にさかのぼる。国内では2001年8月に関東工場内へチョコレート工場を建設し、東日本向けの供給拠点を確保した。海外では2015年6月にブラジルで業務用チョコレート最大手のハラルド社を、2016年8月にマレーシアのFUJI GLOBAL CHOCOLATE (M) SDN. BHD.をそれぞれ取得している。油脂と大豆たん白に続く三つめの事業を、買収によって地域ごとに積み上げる進め方であった[1][2]。
世界の業務用チョコレート市場は、上位数社の生産量が抜けている構造であった。首位はスイスのバリー・カレボーで約150万トン、2位は米カーギルの約65万トンと報じられている。買収前の不二製油グループはこの上位2社に生産量で遠く及ばず、最大市場である北米に自前の大型設備を持っていなかった。清水洋史氏(社長)は2017年、変革の工程として2020年に「あるべき姿」へ至ると説明しており、そのために掲げた基本方針の第一がコアコンピタンスの強化であった[3][4]。
決断
逆三角合併による全株式の取得
2018年11月19日、不二製油グループ本社の取締役会は、米Blommer Chocolate Companyの全株式を取得することを決議した。買収のために設立した子会社Aztec Sub Inc.をBlommerと合併させ、Blommerを存続会社として全株式を取得する逆三角合併の形を採っている。企業価値は約848億円で、有利子負債を加減算した実際の買収金額は600億円を超えた。株式の取得は2019年1月に完了している[5][6][7]。
買われた会社は、規模でも歴史でも小さくなかった。Blommerは1939年に設立されたシカゴの業務用チョコレートメーカーで、売上高1,015億円、純資産187億円を持ち、業務用チョコレートで世界3位、ココア豆加工では世界5位であった。北米を中心に、大手から中小までの菓子会社へチョコレートとココア豆を販売している。買収時点の不二製油グループの連結売上高は3,008億円であり、その3分の1に相当する売上規模の会社を一度に取り込む取引であった[8][9]。
生産量で上位に並ぶという読み
買収の効果として最初に示されたのは、生産量の順位であった。Blommerを傘下に収めることで不二製油グループの業務用チョコレートは合計約40万トンとなり、バリー・カレボー、カーギルに続く世界3位に並ぶ。素材メーカーにとって、原料であるカカオ豆の調達量と加工設備の規模は仕入れ条件と直結する。地域ごとに買い足してきた業務用チョコレート事業を、北米の大型設備で一気に上位へ押し上げる読みであった[10]。
買収の代償は、その期の利益に表れた。2019年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は116億円で、前期の137億円から減った。決算では、Blommer社とIndustrial Food Services社の買収に伴う費用の計上が減益の要因として説明されている。目先の利益を削っても北米の基盤を取りにいく判断であり、業務用チョコレートを油脂・大豆たん白と並ぶ事業へ育てるための投資という説明が付された[11]。
結果
売上の拡大と、北米事業の減損
連結の売上高は買収を境に段を上げた。2019年3月期の3,008億円が翌2020年3月期には4,147億円となり、2023年3月期に5,574億円、2025年3月期には6,712億円に達している。もっとも、増えたのは売上だけであった。2025年3月期の営業利益は99億円、親会社株主に帰属する当期純利益は22億円で、前期の65億円から減っている。北米の業務用チョコレートは、カカオ豆価格の高騰と需要構造の変化のなかで収益が悪化した[12][13]。
2024年3月22日、不二製油グループ本社はブラマー社のシカゴ工場を閉鎖すると発表した。設備の老朽化などで収益性が低下していたためで、3月末に生産を止め、5月に閉鎖する計画であった。生産を他工場へ移す効果として営業利益が3,000万ドル(約45億円)改善すると見込み、同時にカナダのキャンベルフォード工場へ約90億円を投じて生産能力を1.5倍へ広げている。2023年4〜12月期にはブラマー社の減損損失などで特別損失107億円を計上し、酒井幹夫氏(社長)は2024年4月から9月まで月額基本報酬の30%を自主返納した。2025年5月、大森達司氏(社長)は米国ブラマー社の収益改善を急ぐと述べている[14][15]。
- 不二製油 有価証券報告書【沿革】
- 不二製油グループ本社 有価証券報告書(連結)
- 日本経済新聞(2018年11月19日)「不二製油、米チョコレート会社を600億円以上で買収、業務用世界3位に」
- M&A Online(2018年11月19日)「不二製油グループ本社<2607>、業務用チョコレート世界3位の米Blommerを子会社化」
- 日本経済新聞(2024年3月22日)「不二製油グループ本社、米国のチョコレート工場を閉鎖」
- 週刊東洋経済 2017年3月18日号「【第1特集 絶好調企業】INTERVIEW 不二製油グループ本社 社長 清水洋史 素材の製品化に注力 黒子役からの脱却も」
- 食品新聞 2025年5月28日(不二製油 大森達司社長 発言)