ATG・TWS・グッドイヤーOTRの連続取得(2016年・横浜ゴムの決断)

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論点 OHT(オフハイウェイタイヤ)事業への連続M&Aによる事業構成の転換
売上高(億円)親会社株主に帰属する当期純利益率(%)
オフハイウェイタイヤ事業への連続M&Aによる事業構成の転換

オフハイウェイタイヤ事業への連続M&Aによる事業構成の転換

概要

2016年3月25日にKKRほかと株式譲渡契約を締結したATG(Alliance Tire Group B.V.、オランダ)の取得を皮切りに、横浜ゴムは2022年契約・2023年取得のトレルボルグ・ホイールシステムズ(TWS)、2024年契約・2025年譲受のグッドイヤー社OTR事業と、オフハイウェイタイヤ(OHT)領域で買収を重ねた。中期経営計画「YX2026」はこの手法を「Programmatic M&A」と呼び、OHT事業の成長戦略の一つとして掲げている。

背景

乗用車用タイヤ(タイヤ消費財)は景気変動や新興国メーカーとの価格競争を受けやすく、2015年12月期の営業利益は前期比7.7%減の545億円にとどまった。第148期有価証券報告書は、タイヤ市場で生産財が半分を占めるのに対し自社の消費財と生産財の構成比は2対1であり、収益力の高いOHT事業の成長が重要な課題だったと記している。

内容

ATGの取得原価は1,339億93百万円、TWSの取得対価は3,479億39百万円、グッドイヤーOTR事業の譲受対価は1,417億7百万円で、3件の合計は6,236億39百万円にのぼる。TWSの取得資金は10年の借入3,147億円で賄った。のれんはATGで802億45百万円、TWSで1,549億49百万円、OTR事業で159億33百万円が立ち、2025年12月期末ののれん残高は3,328億99百万円となった。

含意

3件を経てタイヤセグメントの売上収益は2025年12月期に1兆1,212億84百万円、連結売上収益の90.8%となり、連結では5期連続の増収増益となった。のれんの減損は生じていない一方、2024年12月期にはOHTの生産再編としてハデラ工場とプラハ工場の閉鎖を決め、減損損失114億36百万円を計上している。

いつ何が起きたか 11件
筆者の見解 連続M&Aという経営手法をどう見るか
筆者の見解

連続M&Aという経営手法をどう見るか

この判断の中心にあるのは、景気変動を受けやすい乗用車用タイヤに偏った収益構造を、10年という時間をかけて組み替えたことである。2016年のATG取得は、投資ファンドの手にあった農機用タイヤ会社を1,339億円で買うという、当時の総資産7,025億円の横浜ゴムにとって規模の大きな賭けであった。それでも結果からみれば、農機・建機向けタイヤの収益性は利益率を押し上げ、TWS・グッドイヤーOTRという二段構えの取得へつながる橋渡しになっただろう。

一方で、3件を通算した取得対価は6,236億円に達し、のれんの残高は2015年12月期末の皆無から3,328億円へ積み上がった。総資産に占める比率は17%近い。景気耐性の高いOHT事業を積み増す発想そのものは筋が通っているとしても、買収を重ね続ける経営をどこまで維持できるか、また買った拠点を閉鎖する再編とどう折り合いをつけるかは、なお開かれた問いのままである。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 3表
3件の買収の条件

3件の買収の条件

科目 概要 備考
ATG|被取得企業 Alliance Tire Group B.V. オランダ。農業機械用・産業車両用・建設車両用・林業機械用タイヤ子会社の持株会社
ATG|株式譲渡契約 2016年3月25日 KKR AT Dutch B.V.ほか3者と締結。KKRの持株比率は87.48%だった
ATG|企業結合日 2016年7月1日 取得株式数132,923株。取得後の議決権所有割合は100%、異動前は0株
ATG|取得原価 1,339億93百万円 全額現金。契約時の見込みは1,371億円(1USドル115円で換算)だった
ATG|取得関連費用 18億72百万円 アドバイザリー費用等。販売費及び一般管理費に計上した
ATG|のれん 802億45百万円 日本基準では20年の均等償却。IFRS移行後は償却せず減損テストへ移った
ATG|のれん以外の無形資産 412億77百万円 顧客関係258億08百万円・商標権131億02百万円・技術関連23億66百万円
TWS|被取得企業 Trelleborg Wheel Systems Holding AB 農業機械・産業車両用タイヤの製造販売。トレルボルグ社から取得した
TWS|株式譲渡契約 2022年3月25日 2023年4月までに各国・地域の競争法の承認など前提条件が充足された
TWS|取得日 2023年5月2日 取得した議決権付資本持分の比率は100%。現金を対価とする株式取得
TWS|取得対価 3,479億39百万円 企業価値・業績連動のアーンアウトによる追加代金・価格調整分の合計
TWS|取得関連費用 19億33百万円 販売費及び一般管理費に計上した
TWS|のれん 1,549億49百万円 2024年12月期に取得対価の配分が完了し、暫定額からの変更はなかった
TWS|取得資金 借入3,147億円 シンジケートローン2,147億円とJBICローン1,000億円。借入期間10年
TWS|取得日以降の業績 売上収益1,037億40百万円 当期利益63億30百万円。期首取得と仮定すると売上収益1,626億70百万円
OTR|譲受対象 グッドイヤーのOTR事業 鉱山・建設車両用タイヤ。棚卸資産とタイヤ製造設備等を譲り受けた
OTR|株式取得対象会社 2社 豪Goodyear Earthmover Pty Ltdと日本ジャイアントタイヤ
OTR|譲受契約 2024年7月22日 The Goodyear Tire & Rubber Companyと締結した
OTR|事業譲受日 2025年2月4日 譲受者は横浜ゴムと米国・豪州・ルクセンブルク他の海外子会社
OTR|取得対価 1,417億7百万円 910百万USドル。価格調整が未了で2025年12月期末も確定していない
OTR|のれん 159億33百万円 譲受日の暫定額171億13百万円から11億80百万円の修正。なお暫定
OTR|譲受日以降の業績 売上収益780億79百万円 事業利益91億88百万円。期首譲受と仮定すると売上収益851億77百万円
3件の取得対価の合計 6,236億39百万円 ATG1,339億93・TWS3,479億39・OTR1,417億7百万円の単純合計

出所:横浜ゴム 有価証券報告書 第140期【重要な後発事象】・第141期【企業結合等関係】・第148期 注記32【企業結合】・第150期 注記33【企業結合】

のれんと無形資産の推移

横浜ゴム:のれんと無形資産の推移

(百万円) のれん無形資産総資産 備考
2015年12月期 07,104702,528 IFRS移行日(2016年1月1日)の残高。買収前はのれんを持たない
2016年12月期 90,835144,084888,949 ATGの取得でのれんと顧客関係・商標権が立った。無形資産はのれんを含む
2017年12月期 88,114137,797920,776
2018年12月期 86,554133,108855,812
2019年12月期 85,431127,544907,560
2020年12月期 80,706117,186860,372
2021年12月期 90,130126,223984,988
2022年12月期 104,244141,4121,151,076
2023年12月期 275,830348,8431,600,458 TWSの取得でのれんが1,549億49百万円増えた
2024年12月期 296,814369,2691,735,544
2025年12月期 332,899459,3371,998,360 グッドイヤーOTR事業ののれん159億33百万円が加わった
のれん(百万円)のれん以外の無形資産(百万円)

出所:横浜ゴム 有価証券報告書 第142・143・145・147・148・150期(のれん及び無形資産、主要な経営指標等の推移)

買収したOHT事業のセグメント業績

横浜ゴム:買収したOHT事業のセグメント業績

(百万円) 売上収益セグメント利益 備考
2016年12月期 25,473△2,109 連結は7月から。取得関連費用とのれん償却で初年度は損失となった
2017年12月期 63,4337,568
2018年12月期 68,6898,460
2019年12月期 70,78710,404
2020年12月期 65,0968,812
2021年12月期 107,28414,714 報告セグメント「ATG」としての最後の期。従業員は3,615名
売上収益(百万円)

出所:横浜ゴム 有価証券報告書 第141〜147期(セグメント情報)

参考文献
出典・参考
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第140期(2015年12月期)【重要な後発事象】」
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第141期(2016年12月期)【企業結合等関係】」
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第142期(2017年12月期)注記13(のれん及び無形資産)」
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第147期(2022年12月期)注記(セグメント情報)」
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第148期(2023年12月期)注記32(企業結合)」
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第149期(2024年12月期)注記38(重要な後発事象)」
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第150期(2025年12月期)注記33(企業結合)」
  • 横浜ゴム 有価証券報告書「第150期(2025年12月期)注記14(のれん及び無形資産)」
  • 横浜ゴム 決算説明会資料「2024年度決算説明会資料」
  • 横浜ゴム 決算説明会資料「2025年度決算説明会資料」

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