食品スーパー連続M&Aによる「フード&ドラッグ」への業態転換

2021年実施

生鮮を自前で築くのは難しい——ドラッグストアの空白地を、青木宏憲はなぜ地場スーパーの連続買収で埋めたのか

時期 2021年6月
意思決定者 青木宏憲(社長)
論点 業態転換とM&A(生鮮の内部化)
概要
2021年6月のスーパーマルモの事業承継を皮切りに、クスリのアオキは地場の食品スーパーを会社分割・株式取得・吸収合併で連続して取り込み、ドラッグストアに生鮮と調剤を組み合わせた「フード&ドラッグ」へ業態を組み替えた経営判断。3代目・青木宏憲社長が主導した。
背景
ドラッグストア市場の拡大は続いたが、青果・精肉・惣菜の生鮮は自前で築きにくい。青木宏憲は、ドラッグストアの出店空白地で地元スーパーが生活基盤を担ってきた構造に着目し、その役割ごと取り込む道を探った。
内容
2016年に整えた持株会社体制を受け皿に、スーパーマルモ以降、一二三屋・ホーマス・キリンヤの同時吸収や愛媛・ママイの株式取得など十数社を連続して取り込み、生鮮フルラインと調剤併設を組み合わせた店を基本形に据えた。
含意
2025年3月に1,000店舗、2025年5月期に連結売上高5,014億円で、第三次中期経営計画の目標をいずれも1年前倒しで達成した。純利益は前の期比45%増の177億円。一方で調剤併設率70%は薬剤師の配置などの制約から届いていない。
筆者の見解

生鮮を、自前で作らず買って束ねる

この判断の核心は、生鮮という自前では築きにくい能力を、地場のスーパーごと買って束ねた点にある。ドラッグストアの多店舗化で全国へ広げてきたクスリのアオキは、青果や惣菜の売場を一から立ち上げる代わりに、その土地で生活の基盤を担ってきた食品スーパーを次々と取り込み、EDLPと生鮮フルライン、調剤併設を1つの店に集めるフード&ドラッグへ業態を組み替えた。2016年に持株会社という受け皿を先に整えておいたことが、この連続買収を支えた。

もっとも、十数社を短期間に取り込む買収は、屋号やシステム、生鮮の運営を自社の型へそろえ直す後工程を抱える。三つの柱の一つ、調剤併設率70%が届かないように、束ねたものを1つの業態として磨き切れるかは、買った規模とは別の問題として残る。M&Aで規模を買って広げる巧拙は、買った後にどれだけ自社の型へ落とし込めるかで決まる——四国まで広げたこの判断は、その問いを地方の生活密着型小売のうえで問い直した事例といえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

全国チェーンへの拡大と、自前化しにくい生鮮

クスリのアオキは、北陸を地盤とする薬局チェーンから2010年代に全国へ店舗網を広げ、2019年5月期には連結売上高2,508億円・営業利益141億円、調剤併設率およそ47%まで伸びた。ドラッグストア市場の拡大は続いたが、青果・精肉・惣菜といった生鮮の調達網と売場運営は、医薬品と日用品を主軸に育ってきた同社が自前で築きにくい領域だった。生鮮を扱える店をどう増やすかが、次の成長に向けた課題として残った[1]

青木宏憲社長は、金沢市の森本エリアのようにドラッグストアの出店がなかった地域では地元のスーパーが生活の基盤を担ってきたとみて、その役割ごと取り込む道を探った。価格政策も、日替わりの特売から、日配品のような日常品を毎日安く出すEDLP(エブリデー・ロー・プライス)へ改め、往復の時間や商品を探す手間を嫌う消費者の「タイムパフォーマンス」に合わせて、日常の買い回りを1つの店で完結させる売場をめざした。生鮮をそろえることは、この日常買いの受け皿づくりと表裏の関係にあった[2][3]

決断

持株会社を受け皿にした地場スーパーの連続買収

2016年に株式交換で整えた持株会社体制は、大型のM&Aを受け止める器として後年に効いた。青木宏憲社長は2022年2月の第三次中期経営計画で、食品強化・調剤併設率70%・ドミナント化を三つの柱に掲げ、数字を直接狙うのではなく顧客の支持の積み上げとして2026年に売上5,000億円へ届く順序を経営の前提に置いた。生鮮を備えた食品スーパーの取り込みは、この計画の食品強化を担う具体策だった[4]

出発点は2021年6月、完全子会社ナルックスを通じた金沢地盤のスーパーマルモのスーパーマーケット事業の承継だった。以後、2022年3月の一二三屋・ホーマス・キリンヤの同時吸収合併を皮切りに、三崎ストアー・サンエー・にしがき・中尾と断続的に十数社規模を取り込み、2024年3月にはウッドペッカーのホームセンター事業まで譲り受けた。買収は店舗数の積み増しにとどまらず、生鮮の品ぞろえを強める売場づくりと好立地の物件確保を同時に進める手段として使われ、生鮮フルラインと調剤併設を組み合わせた店を基本形に据えた[5]

四国・愛媛への進出——過去最大のM&A

連続する買収のなかで、2024年1月、クスリのアオキは愛媛県四国中央市に本部を置き15店舗を営む食品スーパー・ママイの株式33.4%を取得し、3月1日付で持分法適用会社化することを決めた。ママイの2023年8月期の売上高はおよそ86億円で、当時のクスリのアオキにとって過去最大規模のM&A、かつ初めての四国進出だった。青木宏憲は、寡占の進んだエリアへ自力でイチから出るには体力が要るとみて、100億円規模の売上をもつ地場企業の買収を足がかりに、愛媛にとどまらず四国全域への出店を描いた[6][7]

結果

1,000店舗・5,000億円の前倒し達成

店舗数は2022年2月の800店舗、2023年5月の900店舗を経て、2025年3月の千葉県市原市馬立店で1,000店舗に達した。2025年5月期の連結売上高は5,014億円、営業利益266億円、純利益は前の期比45%増の177億円で、ドラッグストアの新規出店と、M&Aで取り込んだ食品スーパーが業績を押し上げた。第三次中期経営計画が掲げた1,000店舗と売上5,000億円は、いずれも1年前倒しで実現した[8][9]

業態の中身も変わった。フード(食品)の売上構成比は2010年代の数%から2020年代に二桁台へ伸び、ドラッグストアでありながら食品スーパーに近い客層を集める店へ組み替わった。価格はEDLP、売場は生鮮フルラインと調剤併設という型が、買収した店にも広げられた。一方で、三つの柱の一つに掲げた調剤併設率70%は、2024年5月期でおよそ58%にとどまり、薬剤師の配置や保険薬局の指定といった制約から、本稿の時点でも届いていない[10][11]

出典・参考