全店に調剤を組み込み、「調剤併設率70%」を掲げる

2013年実施

処方箋の発行率が低い北陸で、クスリのアオキはなぜ調剤を店舗モデルの軸に据えたのか

時期 2013年7月
意思決定者 青木宏憲(社長)
論点 業態設計と収益モデル
概要
クスリのアオキが、ドラッグストアの全店に調剤スペースと薬剤師を置き、調剤を併設した売場を標準形とする収益モデルを築いた経営判断。2013年に調剤併設100薬局へ達し、2022年の第三次中期経営計画では「調剤併設率70%」を数値目標に掲げた。
背景
地盤とする北陸は処方箋の発行率が低かったが、同社はこれを不利ではなく、顧客本位の医薬分業を組める余地が残る市場とみた。創業家と役員に薬剤師が多いことも、調剤を早くから店舗へ組み込む選択を支えた。
内容
2013年に調剤併設100薬局を達成し、2014年に薬剤師の青木宏憲が社長に就くと、調剤併設率を経営の主要指標に据えた。2022年の中期経営計画では、当時およそ5割の併設率を70%へ高める目標を、従来の目標を11年ぶりに引き上げて掲げた。
含意
全店併設と併設率の目標化は、価格と生鮮で競うドラッグストアに調剤という差別化の軸を与えた。併設率は2019年5月期の約47%から2025年5月期の66.1%へ上がり、調剤部門は500億円超の売上を担うに至ったが、70%目標には本稿の時点でなお届いていない。
筆者の見解

調剤を、差別化の軸に据えるという選び方

この判断の要点は、ドラッグストアを物販の器で終わらせず、調剤を売場の一部として組み込んだ点にある。処方箋の発行率が低い北陸を、同社は不利ではなく余地とみた。全店に調剤スペースと薬剤師を置いて発行率の上昇を待ち、医薬分業と薬価改定という政策の流れがドラッグ併設の調剤を押し上げた局面で、先に整えておいた器がそのまま受け皿になった。薬剤師の社長のもとで併設率を看板の指標に据えたことも、調剤を後回しにしない姿勢を社内外へ示す装置として働いた。

もっとも、70%という目標は、掲げるほど容易には届かない。調剤は薬剤師という有資格者を店ごとに確保して初めて成り立ち、出店の速さに人の育成が追いつかなければ併設率は頭打ちになる。同社の併設率は5割から7割の手前まで伸びたが、本稿の時点でなお目標には届いていない。数を追うより、調剤という手のかかる機能をどこまで店舗網へ埋め込めるか。価格と生鮮で競うドラッグストアにあって、この決断は、調剤を差別化の軸に据える経営の可能性と、その難しさの両方を映している。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

「顧客本位の医薬分業の余地」という読み

クスリのアオキの母体は、加賀の旧家・青木家が明治2年(1869年)に開いた薬局にさかのぼる。創業者の青木桂生は薬剤師でもあり、社長や役員にも有資格者が多く、1999年の時点で社内の薬剤師は70人近くを数えた。地盤とする北陸は処方箋の発行率が低い水準にあったが、同社はこれを不利とみなさなかった。発行率が低いのは、裏を返せば顧客本位の医薬分業をこれから組める余地が残っているということだと読み、調剤を後回しにしない構えを早くからとった[1][2]

読みを裏づけるように、同社は採算ラインを超える発行率になっても応じられるよう、すべての店舗に調剤スペースを確保し、薬剤師を配置した。医薬分業の流れは年々進んでおり、あらかじめ調剤を組み込んだ売場を用意しておけば、処方箋が増えた局面ですぐに受けられる。「健康・美・衛生のトータルアドバイザー」を掲げ、物販のドラッグストアに調剤を重ねる業態を、地方の中堅チェーンの段階からつくり込んでいた[3][4]

決断

全店併設から調剤100薬局へ

全店に調剤を備えるという構えは、店舗数の拡大と歩調をそろえて形になっていった。2013年6月に200店舗へ達し、翌7月には岐阜県庁南薬局の開局で調剤併設100薬局に到達した。店舗数と調剤薬局の数を同時に積み増す手法をとり、新たに出す大型店には調剤を併せて置くことを基本形とした。物販の売場に調剤の窓口を並べる形が、この段階で明確な標準として定まった[5]

2014年5月、創業者・青木桂生の長男で薬剤師でもある青木宏憲が社長に就いた。東京理科大学薬学部を出て大塚製薬を経て2003年に入社し、調剤事業や営業の責任者を歴任した人物である。薬剤師が経営の先頭に立ったことで、調剤は数ある品揃えの一つではなく、業態そのものを規定する機能として位置づけ直された。青木宏憲のもとで、店舗のうちどれだけに調剤を併設できているかを示す調剤併設率が、経営を測る主要な指標に据えられていった[6]

「調剤併設率70%」という数値目標

2022年2月、青木宏憲は第三次中期経営計画を示し、フード&ドラッグへの転換とドミナント化に並べて、調剤併設率の70%への引き上げを重点施策の一つに掲げた。当時の併設率はおよそ5割で、これは従来の目標を11年ぶりに引き上げるものだった。数値を力任せに追うのではなく、三つの施策を進めた末に顧客の支持を得た結果として、2026年5月期に売上5,000億円へ届く。併設率の目標化も、この順序のなかに置かれた経営の看板だった[7]

結果

併設率の上昇と、なお残る70%の壁

併設率は年を追って上がった。連結の調剤併設率は2019年5月期の約47%から、2024年5月期には約58%へと伸びた。2025年1月の時点では前期末から3.2ポイント上がって66.7%となり、目標の70%が視野に入ってきた。それでも同社は「調剤併設率70%」を今期の重点施策として掲げ続けた。処方箋を受ける保険薬局には薬剤師の確保という物理的な条件が付いてまわり、店舗網の拡大と同じ速さでは併設を増やしにくかったからである[8][9]

併設を組み込んだ売場は、収益の面でも柱になった。2025年5月期の調剤部門売上は518億円で、連結売上の1割を占めるまでになった。この期のドラッグストア1,004店のうち664店に調剤を併設し、併設率は66.1%。生鮮の全店導入と合わせて、連結売上5,014億円・営業利益266億円の増収増益を支えた。掲げた70%には届かなかったが、調剤は価格や生鮮とは別の集客と粗利をもたらす機能として、業態のなかに根を張った[10]

出典・参考