リガク・ホールディングスイスラエルのXwinSys Technology Development買収と、半導体量産ラインのX線計測への参入

研究室に置く分析機器か、量産ラインに据える計測機器か——リガクはX線技術の顧客をどう替えたか

時期 2019年7月
意思決定者(推定) 志村晶 リガク 社長
論点 事業領域の拡大と顧客層の転換
概要
2019年7月、株式会社リガクがイスラエル・ミグダルハエメクのXwinSys Technology Developmentを買収し、X線技術に自動光学の3D・2D検査を組み合わせたハイブリッド計測を取り込んで、半導体の量産ラインで使うプロセス・コントロール機器へ参入した経営判断。
背景
リガクの歴史的な事業領域は、大学・研究機関や企業の研究開発部門に向けたX線の分析機器であった。半導体の微細化と積層化が進み、ナノスケールの構造を非破壊で測れるX線の用途が、研究室から生産工程へ広がっていた。
内容
DYG Holdings LTDからXwinSysの株式を取得し、2019年7月1日付で子会社とした。リガクのマイクロフォーカスミラー光学によるインラインX線計測とXwinSysの自動光学検査を合わせ、初の共同製品となるマイクロ蛍光X線システムを2019年12月末までに投入する計画を掲げた。
含意
装置に載る技術はX線のまま、買い手が研究室から量産ラインへ替わる判断であり、会社はこれを「Lab to Fab」と呼んだ。半導体プロセス・コントロール機器事業の売上収益は2023年12月期の186億円から2025年12月期の278億円へ伸び、半導体X線計測機器では2024年に38%のシェアを得た。
筆者の見解

替えたのは製品ではなく顧客であった

リガクが2015年に買ったのは単結晶X線分析の事業で、その顧客は研究室にいた。2019年に買ったのは半導体の量産ラインへ据える計測装置で、その顧客はウェーハを流す工場にいる。装置に載る技術はどちらもX線でありながら、買い手の性質は4年で入れ替わっている。志村晶社長が半導体部門を広げる一歩と述べたとき、広がる先は製品の種類ではなく顧客の種類であったとみられる。同じX線でも、売る相手が替われば装置に求められる合格条件は替わる。

もっとも、この買収だけで38%のシェアが得られたわけではない。初の共同製品はマイクロ蛍光X線システム1機種にとどまり、確認できる数字の伸びは買収から4年後の2023年12月期以降にあらわれた。X線と光学の双方に深い要素技術を持つ企業はないとリガク自身が述べており、2026年のOnto Innovationとの提携は、2019年に取り込んだ光学だけでは足りなかったことも示している。顧客を替える作業は、装置を1台加えて済むものではなかった。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

研究室に置かれる機器の会社

リガクの歴史的な事業領域は、多目的分析機器と呼ばれるX線の分析・計測機器であった。X線回折で結晶構造を調べ、蛍光X線で含有元素を定量し、X線イメージングで内部構造を非破壊で画像化する。買い手は大学・研究機関などのアカデミアと、産業分野の研究開発部門が中心を占めた。1台で多様な材料を測れることが強みであり、測る対象も測り方も装置ごとに変わる。量産ラインに据え置いて同じ測定を繰り返す機械ではなかった[1][2]

2010年代の買収も、この顧客層に沿っていた。2015年3月31日、リガクはアジレント・テクノロジーズのX線回折事業を取得すると発表した。単結晶X線分析機器の事業を海外へ広げることを目的に掲げ、開発と製造はポーランドと日本で続けるとした。買収の完了は同年5月1日を予定し、翌4月にはポーランド・ヴロツワフへRigaku Polskaを置いた。単結晶構造解析は、タンパク質や新材料を扱う研究室の領域である[3][4]

量産ラインという別の顧客

半導体の製造現場は、これとは違う測り方を求める。蛍光X線、X線反射率、X線回折といった手法を組み合わせ、ウェーハの汚染検査、薄膜の評価、膜厚と密度の測定、組成と結晶性の評価、三次元形状の測定を行い、工程そのものを制御する。個々のデバイスの欠陥を見つける検査(Inspection)とは目的が異なり、製造工程の品質を計測(Metrology)して歩留まりの改善につなげる。置き場所は、世界大手の半導体メーカーのインライン品質管理である[5]

研究室と量産ラインでは、装置に求められるものが違う。前者は測れること自体に価値があり、後者は同じ精度で速く測り続けられることに価値がある。リガクはこの移り方を「Lab to Fab」と名づけ、研究開発部門との協働から生まれた分析手法を生産工程の標準技術として持ち込む戦略として整理した。後年の決算説明会でも、リサーチからインダストリーへ、アカデミアからインダストリーへという市場の動きをこの戦略で捉えていると説明している[6][7]

決断

2019年7月、イスラエルのXwinSys買収

2019年7月1日、リガクはイスラエル・ミグダルハエメクのXwinSys Technology DevelopmentをDYG Holdings LTDから取得し、子会社とした。XwinSysは2012年に設立され、半導体と関連産業に向けて、X線技術に自動光学の3D・2D検査を組み合わせた計測装置を設計・製造していた。志村晶社長は、この独自のハイブリッド技術を得たことが半導体部門を広げるうえでの重要な一歩にあたると述べた[8][9]

組み合わせの中身も公表された。リガクのマイクロフォーカスミラー光学によるインラインX線計測とXwinSysの技術を合わせ、半導体の前工程と後工程、MEMS、電子部品のパッケージまでを対象に置く。初の共同製品はマイクロ蛍光X線システムで、2019年12月末までの投入を計画した。販売とサービスはリガクの世界網に乗せ、XwinSysはイスラエル国内でリガクの半導体顧客を支える役を担う。副社長の尾形潔氏は、年末までに新しい装置を市場へ出せると述べた[10]

X線に光学を足すという選び方

なぜX線だけで済ませなかったのか。半導体は微細化と積層化が進んで内部構造が複雑になり、非破壊でナノスケールの構造を解析できるX線の使いどころは増えた。会社の整理では、光学技術とX線技術が互いを補い合うことで、高度化・複雑化する計測の要求により良く応えられる。XwinSysが持っていたのは、その両方を一つの装置に載せた仕組みであった。ハイブリッド計測という言い方は、買収を伝える文書の冒頭にすでに置かれていた[11][12]

競合の顔ぶれを見ると、この足し算の意味が見えてくる。X線計測ではドイツのBrukerが並び、半導体のプロセス・コントロール全体では米KLAが製品の幅で先行する。リガクはKLAを光学技術の検査会社と見ており、計測が主ではないと整理している。一方で、X線と光学の双方に深い要素技術を持つ企業はないとも述べ、この領域は今後の協業になるとの見立てを示した。自前の光学を持つことは、その協業に入るための条件にあたる[13][14]

結果

量産ラインに残した数字

買収から5年半後の2024年12月、XwinSysはRigaku Semiconductor Instrumentsへ社名を改めた。半導体プロセス・コントロール機器事業の売上収益は、2023年12月期の186億52百万円から2024年12月期に233億91百万円、2025年12月期には278億34百万円へ伸びた。2年で1.5倍にあたる。2024年実績の営業利益率は30%を超え、多目的分析機器の17%、部品・サービスの24%を上回った[15][16]

市場での位置も動いた。半導体X線計測機器のグローバル市場は2024年に約4億98百万米ドルとされ、そのうち38%をリガクが占めるマーケット・リーダーとなった。半導体設備投資額で世界上位10社のすべてと取引があり、売上はメモリ、ロジック、パワーデバイスへ分散している。X線に光学を足すという2019年の筋は、2026年4月に米Onto Innovationがリガク株式の27.0%を取得する提携へつながった[17][18]

出典・参考

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