NKTフォトニクス子会社化(2022年・浜松ホトニクスの決断)

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論点主力依存を越えて光学領域を買収するか
浜松ホトニクス:業績の推移
売上高(億円)営業利益率(%)
デンマーク企業の取り込みによるレーザ・ファイバ光学領域への事業拡張

何をなぜ決めたか:デンマーク企業の取り込みによるレーザ・ファイバ光学領域への事業拡張

概要

2022年6月9日、浜松ホトニクスは取締役会で連結子会社ホトニクス・マネージメント・ヨーロッパ・エス・アール・エルによるNKT Photonics A/Sの全株式取得を決議し、6月24日に株式譲渡契約を締結した。当初は2023年3月31日を株式譲渡実行日と予定していたが、デンマークの産業・ビジネス・金融大臣がThe Danish Investment Screening Actに基づき申請を却下し、2023年5月2日に同国商務庁からその通知を受領した。2023年7月20日の再申請を経て、株式取得日は2024年5月31日となった。

背景

同社は光電子増倍管(PMT)で世界シェア9割を占めるニッチトップで、半導体検査向け光センサや医療画像装置へ多角化を進めてきた。有価証券報告書は、化合物半導体製造技術をベースとしたレーザダイオード事業を得意とする浜松ホトニクスと、ファイバーレーザを得意とするNKT Photonics A/Sとが相補的な関係になると述べている。量子・半導体・医用の各分野で高出力・狭線幅のレーザ需要が増すなか、自前開発を待たずに欧州の技術基盤を取り込む選択であった。

内容

NKT Photonics A/Sは超短パルスレーザ増幅用・ファイバー転送用の独自のフォトニック結晶ファイバー製造技術を持つファイバーレーザメーカーで、スーパーコンティニューム光源(SuperK)、単一周波数ファイバーレーザ(Koheras)、超短パルスレーザなどの製品群を擁する。取得原価は約254百万ユーロ(439億29百万円)で、契約時に見込んだ約226百万ユーロ(321億92百万円)を上回った。買収資金は自己資金と銀行からの借入金を充て、のれん333億46百万円を10年間の均等償却としている。

含意

株式取得はコロナ特需の剥落で業績が減速する時期と重なった。2024年9月期は売上2,040億円・営業利益321億円で営業利益は前期比43%減、2025年9月期は営業利益161億円まで減少した。新設したレーザ事業セグメントは2025年9月期に売上222億円・セグメント損失43億円で、のれん償却額31億円を負う。監査法人は同社に係るのれんの評価を監査上の主要な検討事項に挙げ、会社は当期末に減損の兆候はないと判断している。

いつ何が起きたか5件
当時の取締役10名

当時の取締役(2021年12月株主総会決議)

考察:取得した技術を収益源にできるか
考察

考察:取得した技術を収益源にできるか

この買収を単なる多角化の一手とみるのは、事の性格を捉えそこねる。浜松ホトニクスはPMTで世界シェア9割という強みを持つ一方、その強さが光を検出する技術に偏ることでもあった。有価証券報告書が、化合物半導体製造技術をベースとしたレーザダイオード事業を得意とする同社とファイバーレーザを得意とするNKT Photonics A/Sは相補的な関係になると記したのは、光を発する側の技術基盤を欧州ごと獲得し、検出と発光を一社で揃える体制を取るという意味であった。439億29百万円という取得原価は、その空白を自前で埋める時間を金で買った代償なのだろう。

もっとも、買った技術が収益源に育つかどうかは、この時点ではまだ答えが出ていない。デンマークの産業・ビジネス・金融大臣に一度却下され、株式取得までに1年2カ月を要した経過は、光技術が対内投資審査の対象となる時代のクロスボーダー買収の重さを示していた。取得が通年で効く2025年9月期のレーザ事業は売上222億円に対しセグメント損失43億円で、うち31億円はのれんの償却である。監査法人がこののれんの評価を監査上の主要な検討事項に挙げた事実は、買収の巧拙が買った時点ではなく、異なる技術と組織をどう統合していくかで測られることを端的に示しているといえる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月
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図と表

浜松ホトニクス:のれんと無形固定資産の推移

のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)
浜松ホトニクス:のれんと無形固定資産の推移
(百万円)のれん無形固定資産総資産備考
2017年9月期−1,697239,331のれんは金額的重要性が乏しいとして第71期有報で記載を省略している
2018年9月期1,4226,278244,914
2019年9月期1,1975,324259,694
2020年9月期1,3595,035271,615
2021年9月期1,2194,853301,676
2022年9月期1,2485,359366,1776月9日に取得を決議。のれんの金額は現時点では確定していないとした
2023年9月期1,0295,136402,921デンマーク当局の却下で取得は実行されず、のれんは償却で減少するだけだった
2024年9月期30,82735,731434,6345月31日の株式取得でのれん33,346を暫定計上。期末残高は償却と為替換算による
2025年9月期30,06434,589455,008暫定的な会計処理が確定し金額の変動なし。減損の兆候はないと判断している
出所:浜松ホトニクス 有価証券報告書 第71〜78期(連結貸借対照表、報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)
出所:浜松ホトニクス 有価証券報告書 第71〜78期(連結貸借対照表、報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)

浜松ホトニクス:買収したレーザ事業の推移

売上高(百万円)セグメント利益率(%)
浜松ホトニクス:買収したレーザ事業の推移
(百万円)売上高セグメント利益備考
2023年9月期5,056759第76期からレーザ事業を報告セグメントとして区分した。NKT分は含まない
2024年9月期10,716△2047月からの3か月分のNKT分が加わる。セグメント資産は8,551から49,153へ
2025年9月期22,255△4,365NKT分が通年で入る初年度。のれん償却額3,190を含めて赤字が拡大した
出所:浜松ホトニクス 有価証券報告書 第76〜78期(セグメント情報等)
出所:浜松ホトニクス 有価証券報告書 第76〜78期(セグメント情報等)

買収の条件

買収の条件
科目概要備考
被取得企業の名称エヌケイティ・ホトニクス・エイ・エスデンマーク。レーザ装置、レーザ装置部品の開発、製造、販売
企業結合の法的形式現金を対価とする株式取得連結子会社ホトニクス・マネージメント・ヨーロッパ・エス・アール・エルが取得
取締役会決議日2022年6月9日株式譲渡契約の締結は2022年6月24日
当初の株式譲渡実行日2023年3月31日(予定)ドイツ・イギリス・アメリカの各当局からは承認を得ていた
デンマーク当局の却下2023年5月2日に通知を受領産業・ビジネス・金融大臣がThe Danish Investment Screening Actに基づき決定
再申請2023年7月20日同国商務庁へ株式取得に係る申請書を再提出した
企業結合日2024年5月31日(株式取得日)みなし取得日は2024年6月30日。連結損益への取り込みは7月からの3か月
取得した議決権比率100%
取得原価約254百万ユーロ(43,929百万円)対価は全額現金。契約時の予定額は約226百万ユーロ(32,192百万円)
適用した為替レート1ユーロ=172.33円三菱UFJ銀行が公表する2024年6月28日の対顧客電信為替相場の仲値
買収資金自己資金および銀行からの借入金有利子負債は2023年9月期の113億円から2024年9月期の338億円へ増加した
主要な取得関連費用1,104百万円アドバイザリー費用等の概算額。契約時の見込みは710百万円
受け入れた資産の額14,660百万円流動資産7,654百万円、固定資産7,005百万円
引き受けた負債の額4,077百万円流動負債2,624百万円、固定負債1,452百万円
発生したのれん33,346百万円10年間の均等償却。第78期に暫定的な会計処理が確定し金額の変動はない
通期換算の影響(売上高)10,109百万円期首に企業結合が完了したと仮定した場合の連結売上高への影響概算額
通期換算の影響(営業損益)△4,781百万円同じ仮定での営業損失。のれん償却額を含む。監査証明は受けていない
出所:浜松ホトニクス 有価証券報告書 第75期(2022年9月期)【経営上の重要な契約等】【追加情報】、第76期(2023年9月期)【経営上の重要な契約等】、第77期(2024年9月期)【企業結合等関係】、第78期(2025年9月期)【企業結合等関係】
出所:浜松ホトニクス 有価証券報告書 第75期(2022年9月期)【経営上の重要な契約等】【追加情報】、第76期(2023年9月期)【経営上の重要な契約等】、第77期(2024年9月期)【企業結合等関係】、第78期(2025年9月期)【企業結合等関係】
当時の取締役10名

当時の取締役(2021年12月株主総会決議)

参考文献

参考文献

参考
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書 第75期(2022年9月期)【経営上の重要な契約等】【追加情報】
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書 第76期(2023年9月期)【経営上の重要な契約等】
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書 第77期(2024年9月期)【企業結合等関係】
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書 第78期(2025年9月期)【企業結合等関係】【監査上の主要な検討事項】
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書 第71〜78期(連結貸借対照表、連結損益計算書、セグメント情報等)
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書「第75期(2022年9月期)【経営上の重要な契約等】【追加情報】」
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書「第76期(2023年9月期)【経営上の重要な契約等】」
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書「第77期(2024年9月期)【企業結合等関係】」
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書「第78期(2025年9月期)【企業結合等関係】【監査上の主要な検討事項】」
  • 浜松ホトニクス 有価証券報告書「第71〜78期(連結貸借対照表、セグメント情報等)」
  • 浜松ホトニクス ニュースリリース「NKT Photonics社の買収完了、レーザ技術強化にて半導体・量子・医用分野での成長を加速(2024年5月31日)」

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