リガク・ホールディングス米Onto Innovationとの資本業務提携と、カーライル系ファンド保有株27%の同社への譲渡

ファンドの出口を市場に流すか、事業会社へ託すか——筆頭株主の入れ替えと半導体計測の連合

時期 2026年4月
意思決定者(推定) 川上潤・取締役会 代表取締役社長
論点 筆頭株主の入れ替えと半導体計測での連合
概要
2026年4月21日、リガク・ホールディングスは米Onto Innovation Inc.との資本業務提携を開示した。筆頭株主のAtom Investment, L.P.が保有株のうち61,123,436株、議決権比率にして27.00%を同社へ譲渡することで両者が合意し、あわせてリガクとOnto Innovationが業務提携契約を締結した。譲渡の実行は関係当局の許認可取得後、2026年下半期を予定し、本稿の時点では完了していない。
背景
リガク・ホールディングスの製品はX線技術の上に立ち、半導体の前工程計測では光学との組み合わせが課題として残っていた。川上潤社長は2024年11月の時点で、X線と光学の双方に深い要素技術を持つ企業はないとの認識を示し、今後は他社との協業になると述べていた。資本の側では、2024年10月の上場後もカーライル系のAtom Investment, L.P.が議決権の4割超を保有していた。
内容
議決権所有割合はAtomが42.03%から15.03%へ下がって第2位となり、Onto Innovationが0%から27.00%の第1位に立つ。譲渡価格は開示されていない。業務提携では、X線の高精度と光学の高速・高感度を組み合わせたハイブリッド計測と、先端パッケージ向け検査での連合を掲げ、2030年時点で約3億ドル相当の市場創出の蓋然性が高まったと会社は説明した。
含意
川上社長は提携の意味を三点で説明し、三つ目に資本政策を挙げた。安定した事業パートナーを株主に迎えて資本構成を安定させ、上場会社としての経営の自主性と独立性を維持強化するという説明である。カーライルの出口を市場での売り切りではなく事業会社への譲渡として設計した一方、筆頭株主が同業に近い事業会社になることの含みも残る。
筆者の見解

株主を選びにいった提携

ファンドが議決権の4割を持つ上場会社にとって、その株がいつ誰の手に渡るかは自社では決めにくい。今回動いたのは、カーライル側の出口を市場での売り切りではなく、事業会社への相対譲渡として設計した点である。川上社長が三つ目に挙げた資本政策、すなわち安定した事業パートナーを株主に迎えるという説明は、誰に株を持たせるかを会社の側から選びにいったことの表明でもあった。X線と光学の補完という技術の理屈が、その選択を支えたとみられる。

ただし、筆頭株主が半導体計測の事業会社になることは、少数株主から見れば別の危うさを伴う。一定期間の譲渡・追加取得の制限を置き、経営の自主性と独立性を維持すると会社は説明するが、27.00%を握る事業会社と一般株主の利害が常に一致するとはかぎらない。しかも営業利益は2025年12月期に9.0%減、2026年中間期は54.9%減で、3億ドルの市場創出が数字に届くには距離がある。株主を選んだ判断の当否は、2026年下半期の実行より後の業績が答えることになる。

Yutaka Sugiura, 2026年8月

背景

X線一本で立つ計測会社

リガク・ホールディングスの製品は、すべてX線という一つの原理の上に乗っている。多目的分析機器、半導体プロセス・コントロール機器、部品・サービスという三つの製品カテゴリーを置くものの、事業セグメントは理科学機器の製造・販売の単一である。2025年12月期の連結売上収益は941億円、営業利益は167億円であった。うち半導体プロセス・コントロール機器事業は前期比19%の増収となり、全社の成長を牽引した[1][2]

もっとも、半導体の前工程で使う計測は、X線だけでは完結しない。2024年11月の決算説明会で川上潤社長は、X線と光学の双方に深い要素技術を持つ企業は存在しないとの認識を示し、今後は他社との協業になると述べていた。共通のソフトウェア基盤の上で計測全体を最適化する形を想定するとも説明している。X線に特化した会社が単独では総合的な計測に届かないことを、提携の1年半前に自ら認めていた[3]

上場後も残った4割のファンド持分

2024年10月25日の東証プライム上場は、カーライル系の投資ビークルであるAtom Investment, L.P.と創業家の志村晶氏が持分を市場へ放出する売出しであった。公開価格1,260円に対して初値は1,205円と下回り、Atomの持分は上場直前の75.48%から2024年12月末には42.23%へ下がった。それでも同社は筆頭株主にとどまり、2025年12月末でも95,140,800株・42.08%を保有していた[4][5]

事業計画の側では、2027年12月期に売上収益1,150〜1,200億円、調整後EBITDAで315〜325億円を置く中期経営計画が動いていた。牽引役に据えたのは半導体プロセス・コントロール機器事業で、2023年12月期からの年平均成長率を18%と見込む。一方、議決権の4割をファンドが持ち続ける資本構成は、売却の時期と方法が決まるまで解けない課題として残った。事業の成長と資本構成の整理は、別々には片づかなかった[6]

決断

相対で27%を事業会社へ渡す

2026年4月20日、リガク・ホールディングスの取締役会はOnto Innovation Inc.との資本業務提携を決議し、翌21日に開示した。Atom Investment, L.P.が保有株のうち61,123,436株を同社へ譲渡することで、両者が合意した。自己株式を除く発行済株式総数の27.00%にあたる。議決権比率はAtomが42.03%から15.03%へ下がって第2位に退き、Onto Innovationが27.00%で第1位に立つ[7]

譲渡価格は開示されていない。実行は関係当局の許認可を取得したのちで、2026年下半期の早い段階を予定する。株式の取得と並行して、リガクとOnto Innovationは業務提携契約を締結した。両社の株式については譲渡と追加取得に一定期間の制限が設けられ、リガク・ホールディングスは上場会社としての経営の自主性と独立性を維持すると説明している。売り手はファンド、買い手は事業会社で、会社自身は新株を発行していない[8][9]

川上社長が挙げた三つの意味

提携の意味を、川上社長は三点に分けて説明している。第一が、半導体プロセス・コントロール機器事業を軸とする成長戦略へ直接効いてくることである。X線の高精度と光学の高速・高感度を組み合わせたハイブリッド計測を前工程で実現し、微細化と3次元化が進むロジックとメモリの構造に対応する。加えて、Onto Innovationが検査で強い位置を占める先端パッケージ領域へ、X線を用いた検査を載せていく[10]

第二は業界の中での位置取りである。半導体プロセス・コントロールの分野は魅力的であるがゆえに競合も激しく、Onto Innovationと連合を組むことで市場環境の変化に対応できると川上社長は述べた。第三が資本政策で、安定した事業パートナーを株主に迎えて資本構成を安定させ、上場会社としての経営の自主性と独立性を維持強化するという。事業の話と資本の話を、同じ一つの契約でまとめて処理した[11]

結果

二つの経路で細るファンドの持分

株式譲渡の合意から1カ月後、カーライル側はもう一つの出口も開いた。2026年5月22日の取締役会決議で、Atom Investment, L.P.を売出人とする29,580,300株の売出しが決まる。会社が挙げた目的は、流動性の向上、投資家層の多様化、資本市場での存在感の向上であった。6月1日に売出価格は1株2,738円と決まり、売出価格の総額は809億9,086万1,400円に達した[12][13]

二つの経路が同時に動き、ファンドの持分は両側から削られる。相対でOnto Innovationへ渡る27.00%と、市場で捌かれた29,580,300株である。売出価格の算定基準日にあたる6月1日の終値は2,853円で、2024年10月の公開価格1,260円の2倍を超えた。オーバーアロットメント分121億4,850万6,000円を加えると売出しの総額は約931億円となり、上場から1年8カ月でカーライルの持分は大きく後退した[14]

業績はまだ追いついていない

提携を開示した時点で、足元の数字は伸びていなかった。2025年12月期は売上収益941億円と増収ながら、営業利益は167億円で前期比9.0%の減益となった。2026年12月期の第1四半期は売上収益179億円・営業利益6億円にとどまり、続く中間期も売上収益395億円で前年同期比2.9%減、営業利益は25億円で同54.9%減であった。会社は通期予想の売上収益1,010億円・営業利益194億円を据え置いている[15][16]

提携の事業効果も、まだ売上には表れていない。共同開発の第1段階として、深穴形状を計測するT-SAXS装置にOnto Innovationのモデルベース解析ソフトを載せた機種はすでに顧客に採用されたが、今年どの程度の売上になるかはまだ分からないと川上社長は述べている。一方で、発表以降ハイブリッド計測への引き合いは強くなったともいう。ロジック向けのGI-SAXSや先端パッケージ向けの検査装置は、いずれも開発の段階にある[17][18]

出典・参考

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