東京金型とGFIの連続買収(2018年・富士紡ホールディングスの決断)

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論点 事業ポートフォリオの多角化
売上高(億円)営業利益率(%)
化成品事業を第4の柱に育てるための金型・射出成形の取り込み

化成品事業を第4の柱に育てるための金型・射出成形の取り込み

概要

富士紡ホールディングスが2018年から2022年にかけて、金型の設計・製造・販売を営む東京金型、藤岡モールド、GFIホールディングスとその子会社IPMを相次いで完全子会社化し、報告セグメントの外側にある化成品事業へ金型・射出成形を組み込んだ経営判断。投じた取得原価は3件で2,170百万円、計上したのれんは1,407百万円であった。

背景

中期経営計画『加速17-20』は、研磨材事業・化学工業品事業・繊維事業の重点3事業の成長加速に加え、新たに第4の柱事業を育成すべく化成品事業の拡大に向けた事業基盤整備を掲げていた。当時の化成品事業はデジタルカメラ・医療機器・自動車用部品の射出成形を手がける小さな部門で、報告セグメントに立つ規模ではなく「その他」に含まれていた。

内容

2018年10月1日に東京金型の発行済株式100%を710百万円で取得し、のれん489百万円を10年均等償却で計上した。2020年1月6日には東京金型が藤岡モールドの全株式を取得し、同年4月1日に吸収合併して統合している。2022年11月1日には純粋持株会社のGFIホールディングスを1,460百万円で取得して子会社IPMを傘下に収め、のれん911百万円を計上、2023年2月1日にIPMがGFIホールディングスを吸収合併した。

含意

同じ論理を3件で反復したものの、化成品事業を含む「その他」の外部売上高は買収前の3,155百万円から2026年3月期の2,930百万円へ減り、セグメント損益は160百万円の利益から98百万円の損失に転じた。2026年3月期にはIPMの収益性の低下を理由にのれん600百万円を減損し、未償却残高は122百万円まで縮んでいる。

いつ何が起きたか 9件
筆者の見解 第4の柱は立たなかった
筆者の見解

第4の柱は立たなかった

この一連のM&Aの核心は、稼ぎ頭である研磨材事業を縮小することではなく、その隣に第4の収益源を意図的に積み増した点にある。半導体市況という単一の外部要因に連結業績が左右される構造を、富士紡ホールディングスは中期経営計画『加速17-20』の時点ですでに課題として掲げ、金型と射出成形品の組み合わせという同じ論理を東京金型・藤岡モールド・GFIホールディングスの3件で反復した。社長が中野光雄氏から井上雅偉氏へ替わっても方針が途切れなかった点は、この判断が個人の思いつきではなく、組織として共有された経営課題への対応であったことをうかがわせる。

ところが有報の数字は、その事業が育たなかったことを示している。化成品事業を含む「その他」の外部売上高は、東京金型を買う前の3,155百万円から2026年3月期の2,930百万円へ減り、セグメント損益は160百万円の利益から98百万円の損失へ転じた。買収のたびに積み上げた1,407百万円ののれんは、2026年3月期にIPMの収益性の低下を理由として600百万円が減損され、未償却残高は122百万円になっている。減損にあたって使用価値を割り引いた率は17.3%で、将来キャッシュ・フローの見積りが相当に慎重であったこともうかがえる。同じ期に研磨材事業のセグメント利益は6,385百万円へ伸びており、依存の構造はむしろ深まっただろう。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

数字で見る 3表
3件の取得の条件

3件の取得の条件

科目 概要 備考
企業結合を行った主な理由 化成品事業を第4の柱に育てるため 中期経営計画『加速17-20』で重点3事業に加え第4の柱事業の育成を掲げた
東京金型|企業結合日 2018年10月1日 事業の内容は金型の設計、製造、販売。現金を対価とする株式の取得
東京金型|取得した議決権比率 100% 当社が現金を対価として発行済株式の100%を取得し子会社化した
東京金型|取得原価 710百万円 対価は現金及び預金。取得関連費用はアドバイザリー費用等98百万円
東京金型|のれん 489百万円 10年間にわたる均等償却。発生原因は将来の超過収益力
東京金型|受け入れた資産・負債 資産846百万円/負債625百万円 流動資産499、固定資産346、流動負債212、固定負債412百万円
東京金型|取得のための支出 413百万円 取得価額710から取得した現金及び現金同等物296を差し引いた純額
藤岡モールド|企業結合日 2020年1月6日 連結子会社の東京金型が現金を対価に発行済株式の100%を取得した
藤岡モールド|取得原価 0百万円 対価は現金及び預金。取得関連費用はアドバイザリー費用等24百万円
藤岡モールド|のれん 7百万円 金額的重要性が乏しいため当該連結会計年度において一括償却した
藤岡モールド|受け入れた資産・負債 資産112百万円/負債119百万円 流動資産59、固定資産52、流動負債36、固定負債83百万円で債務超過
GFIホールディングス|企業結合日 2022年11月1日 純粋持株会社。子会社のIPM(金型及び付属品の製造・販売)も連結子会社に
GFIホールディングス|取得した議決権比率 100% 当社が現金を対価として発行済株式の100%を取得し子会社化した
GFIホールディングス|取得原価 1,460百万円 対価は現金及び預金。取得関連費用はアドバイザリー費用等78百万円
GFIホールディングス|のれん 911百万円 10年間にわたる均等償却。発生原因は将来の超過収益力
GFIホールディングス|受け入れた資産・負債 資産1,341百万円/負債793百万円 流動資産972、固定資産369、流動負債275、固定負債517百万円
GFIホールディングス|取得のための支出 878百万円 取得価額1,460から取得した現金及び現金同等物581を差し引いた純額
業績に与える影響(通期換算) 記載なし 3件とも当該年度における概算額の合理的な算定が困難として記載がない
取得後の再編 2020年4月1日・2023年2月1日 東京金型が藤岡モールドを、IPMがGFIホールディングスを吸収合併した
のれんの減損 600百万円 2026年3月期にIPMの収益性低下で減損。使用価値は割引率17.3%で算定

出所:富士紡ホールディングス 有価証券報告書 第199期(2019年3月期)・第200期(2020年3月期)・第203期(2023年3月期)・第206期(2026年3月期)【企業結合等関係】

化成品事業を含む「その他」の外部売上高とセグメント損益

富士紡ホールディングス:化成品事業を含む「その他」の外部売上高とセグメント損益

(百万円) その他の外部売上高その他のセグメント損益 備考
2018年3月期 3,155160 買収前。「その他」は自動車関連事業及び化成品事業等を含む区分
2019年3月期 3,508143 10月1日から東京金型を連結
2020年3月期 3,952110 1月6日から藤岡モールドを連結
2021年3月期 3,032143
2022年3月期 2,38368
2023年3月期 2,940123 11月1日からGFIホールディングスとIPMを連結
2024年3月期 3,21959
2025年3月期 3,162△57 化成品用設備について利用計画がなく将来キャッシュフローが減少し減損
2026年3月期 2,930△98 買収前の水準を下回る。営業利益ベースのため、のれんの減損は含まない
その他の外部売上高(百万円)

出所:富士紡ホールディングス 有価証券報告書 第198〜206期(セグメント情報等)

「その他」区分に計上したのれん

富士紡ホールディングス:「その他」区分に計上したのれん

(百万円) のれん未償却残高当期償却額減損損失 備考
2018年3月期 000 買収前。この期に償却を終えたのれん25百万円は化学工業品事業のもの
2019年3月期 464240 東京金型ののれん489百万円を計上し、10月からの半年分を償却
2020年3月期 415560 藤岡モールドののれん7百万円は重要性が乏しく一括償却
2021年3月期 366480
2022年3月期 317480
2023年3月期 1,142860 GFIホールディングスののれん911百万円を計上し、11月からの5か月分を償却
2024年3月期 1,0021400
2025年3月期 8621400
2026年3月期 122140600 IPMの収益性の低下で600百万円を減損。金額的重要性が乏しくなり無形固定資産に含めて表示
のれん未償却残高(百万円)

出所:富士紡ホールディングス 有価証券報告書 第198〜206期(報告セグメントごとののれんの償却額及び未償却残高に関する情報)

参考文献
出典・参考
  • 富士紡ホールディングス 統合報告書2024(2024年9月発行)
  • 富士紡ホールディングス 有価証券報告書「第199期(2019年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】」
  • 富士紡ホールディングス 有価証券報告書「第200期(2020年3月期)【企業結合等関係】」
  • 富士紡ホールディングス 有価証券報告書「第203期(2023年3月期)【企業結合等関係】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】」
  • 富士紡ホールディングス 有価証券報告書「第206期(2026年3月期)【連結損益計算書関係】【セグメント情報等】」

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