不二製油純粋持株会社「不二製油グループ本社」への移行
海外拠点が増えた会社の経営を、本社が握るか、各地域へ委ねるか
- 概要
- 2015年10月1日、不二製油は新設分割で事業会社「不二製油株式会社」を設立し、みずからは商号を「不二製油グループ本社株式会社」へ改めて純粋持株会社となった。同じ年の6月には、ブラジルで業務用チョコレート最大手のハラルド社を買収している。
- 背景
- 1981年のシンガポール進出以降、生産・販売の拠点はアジア・北米・欧州へ広がり、2012年にはシンガポールへアジア地域統括会社を置いた。2013年4月に就任した清水洋史社長は「変革」を掲げ、地域ごとに事業を動かす体制を求めていた。
- 内容
- 事業執行を子会社へ移し、本社にはグループ全体の経営機能を残した。エリア軸のマネジメントを中心に据え、地域統括会社への権限委譲を進める設計であった。買収したハラルド社は業務用チョコレート事業の南米拠点となった。
- 含意
- この体制のもとで海外M&Aと設備投資が加速し、2019年の米ブラマー社買収まで連続した。一方で事業軸の管理は弱く、10年後の2025年4月、不二製油グループ本社は事業会社を吸収合併して事業持株会社へ戻った。
体制を替えることで何が動き、何が動かなかったか
この移行で不二製油が手放したのは、本社が個別の事業判断を握るという前提であったとみることができる。地域統括会社に権限を渡し、各エリアが自分で買い、自分で建てる体制にしたことで、ブラジル・マレーシア・オーストラリア・米国と続く買収の速度は確かに上がった。売上高は10年で2.5倍近くになっている。組織の形を先に替え、そこへ案件を通していく順序で動いた点に、清水社長が掲げた10年の工程表との整合がうかがえる。
ただ、地域に委ねた分だけ、事業そのものを横断して見る目は弱くなった。北米の業務用チョコレートで生じた収益の悪化が全社の利益を押し下げるまで、事業軸の管理の薄さは表面化しにくかったとみられる。2025年に事業持株会社へ戻った判断は、エリアで速く動くことと、事業で深く管理することを同じ組織で両立させる難しさを示している。組織の形は経営の速度を変えるが、事業の中身までは決めない——10年をかけて往復した体制の変更は、その線引きを問い直す材料になる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
三極に広がった拠点網と本社機能の距離
1981年10月のシンガポール進出を最初として、不二製油の生産拠点は国外へ広がった。1986年10月にマレーシアのPALMAJU EDIBLE OIL、1987年6月に米国のFUJI SPECIALTIES、1992年2月にベルギーのVAMO-FUJI SPECIALITIES(現FUJI OIL EUROPE)を設立し、11年でアジア・北米・欧州の三極に拠点を持つ会社となっている。1995年12月には中国に不二製油(張家港)有限公司、2010年2月にはタイに現地法人を置き、2012年3月にはシンガポールへアジア地域統括会社FUJI OIL ASIA PTE. LTD.を設立した[1][2]。
拠点が増えるにつれ、大阪の本社が国内事業の運営と海外グループの統括を同時に抱える構図になっていた。2014年7月には本社を大阪府泉佐野市へ移し、主力の阪南事業所に隣接する立地へ経営機能を集約している。2013年4月に社長へ就いた清水洋史氏は、就任以来つねに「変革」を言い続けてきたと述べ、変革には基盤づくりに3年、成長への基盤づくりにさらに3年、その後の3年で変革を完成させ、残り1年でグローバル経営の会社になるという10年の道筋を示していた。持株会社への移行は、その工程の初期に置かれた組織上の手当てであった[3][4]。
決断
新設分割による純粋持株会社化
2015年10月、不二製油は商号を「不二製油グループ本社株式会社」へ変更し、新設承継会社として「不二製油株式会社」を設立した。上場会社である親会社が事業を新設子会社へ承継させ、みずからは事業を持たない純粋持株会社となる形である。国内の油脂・大豆たん白・業務用チョコレートの事業執行は新しい不二製油株式会社が担い、グループ本社にはグループ全体の経営機能が残った。商号にグループ本社を掲げた点に、国内事業会社と海外子会社を並列に置き直す意図が表れている[5]。
移行後に採られたのは、地域ごとに事業を動かすエリア軸のマネジメントであった。2016年から2018年にかけての取締役会の実効性評価の記録には、グループ本社制への移行とともに地域統括会社への権限委譲が並記されている。不二製油グループ本社はのちに、エリア軸のマネジメントを中心としたことで海外M&Aや資産の入替え、積極的な設備投資が加速し、各エリアが自立的に施策を実行できたと総括した。本社が個々の事業判断を握るのではなく、各地域が自分で決めて動く体制へ寄せたことになる[6][7]。
同じ年に決めたブラジル・ハラルド社の買収
体制の組み替えと並行して、海外の事業買収も動いていた。2015年3月13日、不二製油はブラジルで業務用チョコレート最大手のハラルド社を4月に買収すると発表した。買収額は約240億円で、株式の83.3%を取得する内容であった。ハラルド社の売上高は2013年12月期で約160億円、純利益は9億円であった。有価証券報告書の沿革では、株式の取得を2015年6月として記載している[8][9]。
持株会社化とハラルド社買収は、清水社長のなかでは一続きの動きであった。2017年3月の取材で、社長就任後に持株会社制への移行とブラジルの大手チョコレート会社の買収が続いていると問われた清水社長は、いずれも「変革」の一環であり、2017年2月に発表した新しい中期経営計画も同じ流れにあると答えている。同時に打ち出した3つの基本方針は、コアコンピタンスの強化、大豆事業の成長、機能性高付加価値事業の展開であった。業務用チョコレートを南米で押さえた買収は、このうち第1の方針に対応する動きにあたる[10]。
結果
連続買収の加速と、10年後の再統合
移行後の3年で、海外の買収と拠点設立が続いた。2016年8月にマレーシアのFUJI GLOBAL CHOCOLATE、2018年7月にオーストラリアのINDUSTRIAL FOOD SERVICESの株式を取得し、2018年3月には米国にFuji Oil New Orleansを設立している。2019年1月には北米最大の業務用チョコレートメーカーである米Blommer Chocolate Companyの株式を取得した。連結売上高は2015年3月期の2,719億円から2020年3月期の4,147億円へ増え、2025年3月期には6,712億円に達している。エリアごとに決めて動く体制が、買収の速度に効いたとみられる[11][12]。
一方で、事業軸の管理は弱いまま残った。不二製油グループ本社は、グループ本社制の成果としてサステナビリティ・財務経理・ガバナンスなど機能軸の強化を挙げる一方、人的リソースの適正配置やグローバル人材の育成を課題として整理している。2024年5月、同社は完全子会社の不二製油株式会社を吸収合併し、2025年4月から事業持株会社制へ移ると発表した。事業軸のマネジメントを強化し、権限委譲によって経営環境の変化への対応速度を上げるという説明であった。2025年4月、商号は「不二製油株式会社」に戻り、純粋持株会社制は10年で解かれている[13][14][15]。
- 不二製油 有価証券報告書【沿革】
- 不二製油グループ本社 有価証券報告書(連結)
- 不二製油グループ本社 統合報告書2024
- 週刊東洋経済 2017年3月18日号「【第1特集 絶好調企業】INTERVIEW 不二製油グループ本社 社長 清水洋史 素材の製品化に注力 黒子役からの脱却も」
- 日本経済新聞(2015年3月13日)「不二製油、ブラジルのハラルド社を買収へ 業務用チョコ強化」