東京海上ホールディングス 米HCCの買収 898,012百万円を現金で投じ、成長の場を国内損保から米国のスペシャルティ保険へ転じた

更新:

時期 2015年6月
当時の社長 永野毅
論点 成長領域の選択と海外展開
何をなぜ決めたか
概要

2015年10月27日、東京海上ホールディングスが子会社の東京海上日動火災保険を通じて、米国のスペシャルティ保険グループHCC Insurance Holdings, Inc.の発行済み株式を100%取得した。取得原価は898,012百万円で対価はすべて現金、発生したのれん339,086百万円を10年間で均等償却する。国内損保から海外へ収益源を移す一連の買収のうち、最も大きい一手にあたる。

背景

国内損保市場の成長が描きにくくなるなか、2008年3月に英Kiln Ltdを94,122百万円、同年12月に米Philadelphia Consolidated Holding Corp.を473,537百万円、2012年5月に米Delphi Financial Group, Inc.を215,054百万円で取得し、海外の保険会社を買い足してきた。HCC社の取得原価はフィラデルフィアの2倍近い。

内容

法的形式は米国の企業再編法制に基づく逆三角合併。買収資金の一部は2015年11月26日にシンジケーション方式で2,400百万米ドルを借り入れ、うち1,440百万米ドルは国際協力銀行の海外展開支援融資ファシリティを使った。企業結合日に受け入れた資産は1,282,938百万円、引き受けた負債は735,567百万円で、差額がのれんとなる。

含意

みなし取得日を2015年12月31日としたため、2016年3月期は貸借対照表だけを連結し、海外保険事業のセグメント資産は前期の5,277,596百万円から7,050,807百万円へ増えた。経常収益にHCC社が通年で乗るのは2017年3月期からで、海外保険事業の外部顧客からの経常収益は1,427,901百万円から1,833,671百万円へ伸びた。

いつ何が起きたか 10件
筆者の見解
筆者の見解

資産とのれんが先に立ち、利益は後から来る買収

取得原価898,012百万円は、それまで最大だったフィラデルフィアの473,537百万円の2倍近い。全額を現金で払い、その一部は2,400百万米ドルの借入で賄った。のれんを10年間の均等償却と決めたことは、買った時点で毎期の費用を確定させ、その分を稼いで返す義務を自らに課したことを意味する。

企業結合が期首に完了していたと仮定した概算では、経常収益は406,929百万円増える一方、親会社株主に帰属する当期純利益は11,445百万円のマイナスだった。買収の直後に立つのは利益ではなく、資産とのれんである。海外保険事業のセグメント資産は7,050,807百万円へ膨らみ、以後この事業がグループの収益源になった。国内で成熟した企業が成長をどこに求めるか——この決断は、その問いに地理で答えた一例として残る。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

業績の推移
買収の条件

買収の条件

科目 概要 備考
被取得企業 HCC Insurance Holdings, Inc. 傘下に保険関連子会社群を有する持株会社。本社は米国デラウェア州ドーバー
買収の合意 2015年6月10日 東京海上日動火災保険を通じて買収の手続きを開始することで合意
企業結合日 2015年10月27日 HCC社の株主総会の承認と関係各国の監督当局の認可を経て手続きを完了
みなし取得日 2015年12月31日 貸借対照表のみを連結し、連結損益計算書に被取得企業の業績は含まれない
企業結合の法的形式 米国の企業再編法制に基づく逆三角合併による買収
取得した議決権比率 100%
取得原価 898,012百万円 対価の種類は現金。現金及び現金同等物を差し引いた支出は814,474百万円
主要な取得関連費用 3,571百万円 アドバイザリー費用等
受け入れた資産 1,282,938百万円 うち有価証券612,993百万円
引き受けた負債 735,567百万円 うち保険契約準備金429,626百万円
のれん 339,086百万円 10年間の均等償却。投資額が受け入れた純資産を上回った差額として認識
買収資金の借入 2,400百万米ドル 2015年11月26日にシンジケーション方式で調達。うち1,440百万米ドルは国際協力銀行の融資
通期換算した経常収益への影響 406,929百万円 期首に企業結合が完了したと仮定した概算額。監査証明を受けていない
通期換算した当期純利益への影響 △11,445百万円 経常利益への影響は△6,385百万円。いずれも監査証明を受けていない

出所:東京海上ホールディングス 有価証券報告書 第14期(2016年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】

海外保険事業の推移

東京海上ホールディングス:海外保険事業の推移

(百万円) 経常収益セグメント利益セグメント資産 備考
2011年3月期 539,73214,4531,950,366
2012年3月期 530,060△54,6532,055,259
2013年3月期 806,81837,9103,411,569
2014年3月期 1,162,714123,2744,170,614
2015年3月期 1,423,249128,7705,277,596 HCC社の買収に合意する直前の期
2016年3月期 1,427,901112,2127,050,807 10月27日にHCC社を子会社化。みなし取得日は12月31日で資産のみ連結
2017年3月期 1,833,671114,0227,203,028 HCC社の経常収益が通年で加わった最初の期
2018年3月期 1,881,01371,3607,655,369
2019年3月期 1,970,210141,6047,280,533
2020年3月期 1,889,254125,4538,856,731 2月にPrivilege Underwriters, Inc.を取得
2021年3月期 1,875,66044,6388,817,744
海外保険事業の経常収益とセグメント利益率
経常収益(百万円)セグメント利益率(%)

出所:東京海上ホールディングス 有価証券報告書 第9期〜第19期(2011年3月期〜2021年3月期)【セグメント情報等】。経常収益は外部顧客からの経常収益

のれんと無形固定資産の推移

東京海上ホールディングス:のれんと無形固定資産の推移

(百万円) のれん無形固定資産 備考
2011年3月期 258,022344,479
2012年3月期 243,091320,145
2013年3月期 270,291428,196
2014年3月期 250,196427,987
2015年3月期 225,894408,915
2016年3月期 534,5931,022,112 HCC社ののれん339,086百万円を計上。10年間の均等償却
2017年3月期 466,793880,080
2018年3月期 423,538798,003
2019年3月期 411,681767,598
2020年3月期 533,4321,101,306 Privilege Underwriters, Inc.の取得でのれんが増加
2021年3月期 485,6821,054,990
のれんと無形固定資産
のれん(百万円)のれん以外の無形固定資産(百万円)

出所:東京海上ホールディングス 有価証券報告書 第9期〜第19期(2011年3月期〜2021年3月期)【連結貸借対照表】

同じ問いに直面した会社

同じ問いに直面した会社

買収によるグローバル経営2015年太平洋セメント西海岸でのレディング工場の取得と、生コン・骨材までの追加買収国内需要減退下での海外事業の位置づけ
2015年リクルートHD相次ぐ取得による、北米・欧州に続くアジア太平洋の人材派遣基盤の確保アジア太平洋の人材派遣基盤の獲得
2015年栗田工業欧州の水処理薬品事業の丸ごとの譲り受けと、続く北米買収による海外事業の拡大海外事業の拡大と水処理薬品の世界展開
2013年LIXIL米アメリカンスタンダード北米事業の取得に続く欧州大手の取り込み海外事業の獲得と買収の財務スキーム
2020年ナカニシ成長戦略を自力開発から海外M&Aへ切り替える方針の転換成長戦略と事業領域の拡張
海外での連続買収2016年リクルートHD北米・豪州に続く人材派遣基盤を全株取得で一括して得た地域補完欧州における人材派遣基盤の獲得
2010年カナデビア欧州・豪州の環境プラント企業の連続取得と、日立造船からカナデビアへの商号変更環境事業の海外展開と社名
2005年NTTデータグループ自前の海外拠点づくりを採らず、買収の連続だけで欧米へ出た十年余りの海外戦略海外進出の手段選択とM&Aの積み上げ
2003年三和ホールディングス北米オーバーヘッドドアに続く買収による日米欧三極体制の確立成熟した国内市場の外に成長の場をどう作るか
1986年DICグラフィックアーツ部門の取得による印刷インキ世界首位への到達1兆円計画の達成手段と海外買収
参考文献
出典・参考
  • 東京海上ホールディングス「米国スペシャルティ保険グループ HCCインシュアランス・ホールディングス社 買収について」(2015年6月10日, IR説明資料)
  • 東京海上ホールディングス「米国保険グループPrivilege Underwriters, Inc.の買収について」(2019年10月3日)
  • 東京海上ホールディングス 有価証券報告書「第14期(2016年3月期)【企業結合等関係】【経営上の重要な契約等】【連結キャッシュ・フロー計算書関係】」
  • 東京海上ホールディングス 有価証券報告書「第13期(2015年3月期)【重要な後発事象】」
  • 東京海上ホールディングス 有価証券報告書「第9期〜第19期(2011年3月期〜2021年3月期)【セグメント情報等】【連結貸借対照表】」
  • 東京海上ホールディングス 有価証券報告書「第7期(2009年3月期)・第11期(2013年3月期)・第18期(2020年3月期)・第23期(2025年3月期)【企業結合等関係】【セグメント情報等】」

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