S FoodsAURORA PACKING COMPANY買収による米国食肉処理の2拠点化

取得原価2億6,300万円で、米国イリノイ州の牛肉処理場を手に入れる

時期 2015年12月
意思決定者(推定) 村上真之助 社長
論点 米国での自社処理能力
概要
2015年12月11日、エスフーズが同年11月に設立した連結子会社SFA INC.を通じ、米イリノイ州ノースオーロラの牛肉処理業者AURORA PACKING COMPANYの全株式を取得した経営判断。取得原価は現金263百万円、のれんは66百万円であった。
背景
2010年の北海道中央牧場取得以降、エスフーズは生産から小売・外食までを自社グループで抱える体制を組んできた。原材料の高騰で利益確保が難しくなる一方、米国側の処理拠点は1989年設立のFREMONT BEEF COMPANY1カ所にとどまっていた。
内容
米国中堅パッカーの全株式を現金263百万円で取得し、議決権100%を握った。受け入れた資産には現金及び現金同等物329百万円が含まれ、差引では取得による収入が65百万円となった。ネブラスカ州とイリノイ州の2拠点体制となった。
含意
買収した処理場は「オーロラビーフ」ブランドの供給元となり、2026年4月改訂の中期計画では2026年のオーロラ新工場竣工による2.5倍規模の能力増強が主要施策に置かれている。
筆者の見解

2億6,300万円の値札が指していたもの

この買収で支払った263百万円は、同じ期の連結売上高の1%にも満たない。受け入れた現金のほうが取得価額を上回り、差引では65百万円が入ってきている。金額の面では小さな取引だが、手に入れたのは利益でも顧客名簿でもなく、米国の産地で牛を処理し続けている設備と、そこで働く技術と、輸出に必要な認定を備えた場所であった。1989年にネブラスカ州へ合弁で入ったときの動機が原料の入口を押さえることだったとすれば、2015年の選択はその入口を2つに増やし、等級の高い米国産牛を自社の名前で売る側へ回る手立てだったとみられる。

買収から10年が経ち、イリノイ州ノースオーロラの工場は建て替えの段階に入っている。中期計画は2026年の新工場竣工で処理能力を2.5倍にすると記し、2029年2月期に売上高6,000億円・営業利益170億円を掲げた。取得原価263百万円、のれん66百万円を重要性が乏しいとして一括償却した会社が、その計画の中心に据えられている。値札の小さかった買い物が、10年後にグループで最も重い設備投資を呼び込んだ。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

生産から外食までを自社で抱える体制づくり

2010年代のエスフーズは、食肉の川上と川下を買い集めてきた。2010年4月に北海道中央牧場、2011年9月に日高食肉センター、2014年1月には江崎グリコの食肉加工子会社であったグリコハム(現フードリエ)の全株式を取得している。2015年5月には日高食肉センターで豚のと畜と加工が始まり、千歳の新農場と合わせて豚肉の一貫経営が整った。連結売上高は2014年2月期の1,693億円から2016年2月期の2,426億円へ2年で7割強伸び、有価証券報告書は自社の方針を、食肉の生産から小売・外食までの食肉に関わる事業を一貫して取り組む垂直統合、と説明している[1][2][3]

一貫体制の穴は米国側にあった。米国の拠点は1989年4月に丸紅らとの合弁で設けたネブラスカ州フリモント市のFREMONT BEEF COMPANY1カ所で、2005年3月に完全子会社としてからも増えていない。同社からの仕入は関連当事者である丸紅を通じた間接仕入のまま続き、米国産牛肉の取扱量が増えても、処理する能力そのものは26年間ひとつのままであった。国内では牧場からと畜場、加工場、小売、外食まで並べながら、米国では買い付けと1工場に頼る構図が残っていた[4]

原材料の高騰と、外へ出ていく和牛

2015年前後の食肉業界は原料価格の上昇に押されていた。第50期の有価証券報告書は、食肉業界においては原材料の高騰により利益確保が困難な環境に陥っている、と当時の環境を記す。国内消費に伸びが見られないなかで原料だけが上がれば、仕入れて売る事業の利幅は薄くなる。仕入価格を交渉で下げる余地が限られる以上、原料をどこで、誰の設備で処理するかという問題が利益に直結した[5]

売る側では海外が動き始めていた。エスフーズは2012年1月に神戸ビーフの輸出を開始し、2015年度には海外事業部を発足させて和牛を中心とする国産牛の輸出先を新たに開拓している。国産牛を外へ出す経路が育つ一方で、米国産牛を国内へ入れる経路は1拠点のままという不釣り合いが、この時期のグループには残っていた。輸出入の双方を自社の設備で扱えるかどうかが、次の投資の論点になった[6]

決断

現金263百万円で処理場を買う

2015年11月7日、エスフーズは米国にSFA INC.を設立した。この新会社が同年12月11日、イリノイ州ノースオーロラに本社を置くAURORA PACKING COMPANYの全株式を取得している。取得の対価は現金263百万円で、議決権比率は100%、発生したのれん66百万円は重要性が乏しいとして一括償却された。買収の理由について有価証券報告書は、海外事業の強化と食肉取扱量の増大を図りグループ経営の安定化と株主価値の向上を実現するため、米国に新たな拠点を持つことによりグループの畜産技術を高めるため、と記している[7][8][9]

支払った金額に比して、動いた資産は大きい。企業結合日に受け入れた資産は流動資産1,443百万円・固定資産1,234百万円、引き受けた負債は流動負債588百万円・固定負債1,892百万円であった。受け入れた資産のうち現金及び現金同等物が329百万円あり、取得のための支出と差し引きすると65百万円の収入となっている。2016年2月期の連結売上高2,425億6千6百万円と並べれば、支払額はその1%にも満たない。値札の安さは、負債を引き受けたうえで買う取引であったことの裏返しでもある[10][11]

買ったのは会社ではなく処理能力

1989年の合弁が調達の入口を確保する一手だったとすれば、2015年の買収は処理する能力そのものを手に入れる一手にあたる。第50期の有価証券報告書は、昨年12月には米国中堅パッカーAURORA PACKING COMPANYをグループに加え高品位の米国産牛の調達網を強化した、と説明している。ネブラスカ州フリモント市とイリノイ州ノースオーロラという米国食肉産業の中核地に2カ所の処理拠点を構え、取り扱う米国産牛の量と等級を自社の設備の側で決められる幅が広がった[12][13]

処理場を持てば、そこで挽いた牛肉に自分の名前を付けられる。エスフーズは買収直後から「オーロラビーフ」をオリジナルブランドとして掲げ、対処すべき課題の欄に、AURORA PACKINGの経営基盤の強化とオーロラビーフブランドの日本及びアジアでの普及に努める、と書き込んだ。輸入した牛肉を他社の等級表示のまま卸すのではなく、自社の処理場から出た肉として売る道を選んだことになる。神戸ビーフの輸出で開いたアジアの販路が、米国産牛の売り先としても想定された[14][15]

結果

10年で売上は倍近く、利益は一度沈んだ

買収後の連結売上高は、2016年2月期の2,425億円から2021年2月期3,275億円、2024年2月期4,250億円へと伸びた。一方で2025年2月期は売上高4,445億円に対して営業利益51億円・当期純利益27億円と、前期の営業利益127億円・純利益91億円から大きく落ち込んでいる。海外事業の立て直しに費用がかかった期であった。2026年2月期は売上高4,723億円・営業利益105億円・当期純利益92億円まで戻している[16][17]

買った処理場には、10年後に増設が計画された。2026年4月改訂の中期計画は海外事業の項に、2026年 米国 オーロラ新工場竣工 能力増強(2.5倍規模)と記し、企業価値向上の取り組みの筆頭に、国内拠点開発と海外事業への積極投資による垂直統合事業の推進を置いている。同じ計画が示す数値目標は2027年2月期の売上高5,000億円・営業利益100億円、2029年2月期の売上高6,000億円・営業利益170億円で、2026年2月期実績からの上積みの多くが海外に託されている[18][19]

増やした海外と、畳んだ海外

米国の2拠点が据わる一方で、それ以外の海外事業は入れ替えが続いた。2019年3月にはモンビーフを子会社化し、2023年にはニュージーランドで肥育事業を立ち上げたが、この肥育事業は2025年に事業再構築の対象となっている。2026年4月改訂の中期計画は、海外事業の欄にニュージーランドの立ち上げと再構築、米国オーロラ新工場の竣工を並べて記した。設備を持つ場所を増やす投資と、持ってみて畳む投資が、同じ10年のうちに起きている[20][21]

国内側の拠点整備も並行して続いた。中期計画は2020年の船橋工場兼物流センター新設、2023年の大阪営業所新設と日高食肉センター第2カット工場、2025年の東日本と2027年の西日本での拠点整備を挙げている。米国での処理能力の増強は、こうした国内投資と同じ表の中に置かれ、和牛の輸出拡大に向けた生産拠点の構築[23]と並べて示された。買収した処理場は、輸入のための設備であると同時に、輸出を含む食肉の流れ全体を自社で握るための一点として扱われている[22]

出典・参考
  • エスフーズ 有価証券報告書 第50期(2016年2月期)
  • エスフーズ 有価証券報告書【沿革】
  • エスフーズ 中期計画(2026年4月改訂版)
  • エスフーズ 公式サイト「沿革」(https://www.sfoods.co.jp/company04.html)

免責事項およびポリシー