飯田グループホールディングスロシア極東の林業大手RFPグループ19社の買収と、侵攻直後の暗転

木材を自前で握るために国境を越えた投資は、買収の翌月に始まった戦争のなかで何を残したか

時期 2021年12月
意思決定者(推定) 兼井雅史(社長)・森和彦 名誉会長
論点 木材調達の垂直統合とカントリーリスク
概要
2021年12月8日、飯田グループホールディングスがロシア極東の林業大手Russia Forest Products(RFP)の株式75%を取得して子会社化すると発表し、2022年1月にRFP(BVI)およびDallesprom・ALKなど計19社を連結子会社とした経営判断である。融資を含む投資規模は約600億円(5億2,500万ドル)とされた。
背景
戸建分譲の量産では利幅が原価で決まる。飯田グループHDは2014年のファーストウッド子会社化から建材の内製化を進め、同年にはウラジオストクへ現地法人を置いていた。2021年に木材価格が急騰したウッドショックが重なり、木材の上流そのものを押さえる必要が経営課題として前面に出た。
内容
RFPはハバロフスク地方に約400万ヘクタールの林区を持ち、年間原木伐採量は170万立方メートルで、飯田グループHDが1年間に供給する住宅の木材使用量に相当する規模であった。ロシア側投資ファンドからの打診を受けて2年以上交渉し、2021年12月7日にロシア政府が株式取得を承認した。
含意
買収の1カ月余り後にロシアがウクライナへ侵攻し、日本を含む各国が制裁と輸入規制を強化した。飯田グループHDは事業の当面継続を選び、2026年3月期にはRFPの事業計画見直しに伴うのれんの減損を計上した。原価を握る戦略が、国そのもののリスクに触れた事例である。
筆者の見解

400万ヘクタールは持ち帰れない

この投資の芯にあるのは、木材をどこから買うかではなく、原価の振れを誰の手に預けるかという判断であった。2014年5月のファーストウッド子会社化以来、飯田グループホールディングスは窓サッシ・住宅設備・建材流通へ内製化の対象を広げてきた。ウッドショックに揺さぶられた翌年、ハバロフスクの約400万ヘクタールを自社の帳簿へ載せる判断は、その延長として筋が通る。株式の75%という条件も、伐採から製材までの意思決定を自社で握るために2年以上かけて取ったものであった。市場に預けていた振れを、一つの国の内側へ移した点だけがそれまでと違っていた。

もっとも、経営権を握るということは、事態が変わったときに降りる判断まで自社で背負うことでもある。RFPとの取引額は年20億円程度にとどまり、止めても連結業績への影響は小さい。それでも約600億円を投じた側は保有から離れられず、この投資が数字として動いたのは4年後、2026年3月期の減損であった。上流をさかのぼる調達は、上流と下流が同じ制度の内側にあるあいだしか働かない。飯田グループホールディングスがいま抱えているのは木材の値段の振れではなく、いつどう畳むかを自社では決められない資産だとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

原価を握るための木材自給

飯田グループホールディングスの主力である戸建分譲は、1棟あたりの利幅が薄く、収益は用地と建材の原価でほぼ決まる。2013年11月に6社が経営統合した後、同社は持株会社が用地仕入と建材調達を束ねる体制をとり、2014年5月には木材・建材の調達を担うファーストウッドを子会社化した。以後、窓サッシ・住宅設備・建材流通と内製化の対象を広げ、調達の上流へ順に手を伸ばしていった。木材そのものの供給源を持つという発想は、この延長線上にあった[1]

2021年には、米国の住宅需要と海上輸送の混乱を引き金に、輸入木材の価格が急騰するウッドショックが起きた。年間4万棟規模を供給する同社にとって、木材価格の変動は棟あたりの利益を直接左右する。買収発表の記者会見で森和彦名誉会長は、極東の森林資源に自社の加工技術を移すことで、価格が荒れても安定した生産と供給ができると述べていた。原価の振れを外部市況に委ねない体制を求めた点が、この投資の出発点であった[2]

8年かけて築いたロシア極東の足場

ロシア極東への関与は、買収の突然の思いつきではなかった。同社は2014年9月にウラジオストクへIida Group RUS LLCを設立し、2016年には木材輸出の拠点として現地の港湾企業を買収している。当時は日ロ間の経済協力が政府主導で進められた時期にあたり、同社はタタールスタン共和国の首都カザンにモデルハウスを建て、ウラジオストクではサービスアパートの販売にも乗り出していた。住宅と木材の両面でロシア市場に足場を築く動きが、8年近く続いていた[3][4]

輸送の条件も、極東を選ぶ理由になっていた。欧州から木材を運べば日数がかさむのに対し、ウラジオストク近郊のスラビャンカ港から日本までは2〜3日で着く。同じ木材でも、在庫として海上に浮かべておく期間が短いほど運転資金の負担は軽くなる。産地としての質と距離の近さが重なった点で、極東ロシアは同社の調達戦略に合っていた[5]

決断

2年越しの交渉と、経営権を握るという条件

話はロシア側から持ち込まれた。投資ファンドからRFP株の一部を持たないかと打診された同社は、経営権を持てるならという条件を示し、2年以上の交渉を重ねた。株式の移転にはロシア政府の承認が要り、2021年12月7日に取得が認められた。翌8日、飯田グループHDはRFPの株式75%を取得して子会社化すると発表した。少数株主として原木の供給を受けるのではなく、伐採から製材までの意思決定そのものを握る形を選んだ点に、この交渉の性格が表れている[6][7]

対象となったのは、RFP(BVI)を頂点にDallesprom、ALKなど計19社の企業群であった。RFPはハバロフスク地方に約400万ヘクタールの林区を持ち、年間原木伐採量は170万立方メートルで、飯田グループHDが1年間に供給する住宅の木材使用量に相当する。樹齢80〜100年のエゾマツやカラマツを伐採し、年間約80万立方メートルの製材や単板を製造していた。取得は2022年1月に実行され、19社が連結子会社となった。融資を含む投資規模は約600億円で、株式そのものの取得対価は約180億円規模とされる[8][9]

見立てられていたカントリーリスク

ロシアへの投資である以上、会見でもカントリーリスクは問われた。同社の富島寛常務は、製材や販売のノウハウを移してRFPの収入を増やす道筋をつけること、そしてロシア国民の雇用を維持することがリスクを避ける要因になると答えていた。現地に利益と雇用を残せば接収や規制の対象になりにくい、という見立てである。政変や規制の変化を織り込んだつもりの回答であったが、想定されていたのは経済の枠内で起きる出来事であった[10]

買収の狙いは木材調達だけにとどまらなかった。同社はRFPを足がかりに、ロシアと中国の住宅市場を開拓する構想も描いていた。RFPの取引先は中国向けが6割、ロシア国内向けが1割で、極東の生産拠点が中国市場に近い立地にあったためである。木材の安定調達と海外の住宅需要という二つの果実を同時に取りにいった判断であったとみられる[11][12]

結果

買収1カ月後の侵攻と、当面継続という選択

取得から1カ月余りの2022年2月、ロシアがウクライナへ侵攻した。欧米と日本は対ロシア制裁を強化し、木材でも3月にロシアが単板と木質チップの輸出禁止を表明、4月には日本が輸入を禁じた。ロシア企業と取引があるだけで批判が寄せられる状況となり、木材の安定調達という買収の効用は、評判の悪化という別の負担に置き換わっていった。同社は2022年5月16日の決算説明で、拙速な判断で株主価値を毀損しないよう多面的に検討し、状況に応じて判断していくとする兼井雅史社長の説明を示し、事業の当面継続を選んだ[13][14][15]

短期の損益への影響は限定的であった。RFPとの取引額は2021年に約20億円程度で、全量が止まっても連結業績への影響は小さく、決済も円建てで支障は生じていなかった。2022年3月期時点ではのれんの減損テストの結果、減損の計上には至っていない。取得直後の同社は、売上収益1兆3,870億円・営業利益1,533億円と過去最高水準の利益を上げており、ロシア資産の重さは数字の表面にはまだ現れていなかった[16][17]

減損に至るまでの4年

業績の風向きは翌期から変わった。2023年3月期の連結営業利益は1,023億円へ減り、2024年3月期には591億円、営業利益率4.1%まで落ちた。建材コストの上昇と用地取得競争の激化が主因で、ロシア資産はそこに不確実性として重なった。海外の住宅市場を開拓するという構想は動かせないまま、RFPは木材製造事業として「その他」セグメントに置かれ続けた[18]

資産としての決着がついたのは2026年3月期であった。同期の決算説明資料は、のれんが米国住宅会社の買収による増加とRFPの事業計画見直しに伴う減損の差引きで92億円の純増になったと説明している。買収から4年をかけて、当初描いた事業計画が引き下げられた事実がのれんの評価に反映された形である。同じ期の連結業績は売上収益1兆5,088億円・営業利益944億円で、本業は増収増益に戻っていた[19][20]

出典・参考

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