飯田グループホールディングスパワービルダー6社の共同株式移転による経営統合と飯田グループホールディングス設立
同じ土地を競り合ってきた同根6社は、なぜ1つの持株会社の下へ戻ったか
- 概要
- 2012年12月25日、低価格の戸建分譲を手がける上場6社(一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホーム)が共同株式移転による経営統合を発表し、2013年11月1日に持株会社の飯田グループホールディングスが発足して東京証券取引所市場第一部に上場した経営判断である。6社はいずれも完全子会社となった。
- 背景
- 6社はもともと一建設(旧・飯田建設工業)から人と手法が分かれて生まれた同根の会社で、1995年までに資本関係を解消し、別々に株式を公開していた。土地の仕入れから引き渡しまでを5カ月で回す量産モデルを共有し、首都圏の同じ用地を入札で競り合っていた。住宅着工の低迷と住宅大手の参入が重なり、価格を下げる余地は細っていた。
- 内容
- 共同株式移転で持株会社を新設し、6社を完全子会社とする方式を採った。2013年6月27日に統合契約を締結して株式移転比率を決め、持株会社の資本金は100億円とした。6社合計の売上高は約9,000億円で、3年後に売上高1兆1,000億円・営業利益1,000億円という目標を掲げた。会長に飯田一男氏、社長に西河洋一氏が就いた。
- 含意
- 用地仕入と資材調達をまとめる一方で、6社は商号もブランドも残したまま並存した。連結売上高は2015年3月期に1兆1,881億円、営業利益は2017年3月期に1,136億円へ伸び、統合時に掲げた3年後の目標を数字の上で超えた。
一つの工務店から出た6社が、一つの持株会社へ戻るまで
1967年に一つの工務店から枝分かれした会社が、それぞれ独立して株式を公開し、同じ土地を入札で競り合った末に、46年後、一つの持株会社の下へ戻った。統合の理屈は明快で、用地と資材を買う側の数を6から1へ減らせば、同じ棟数でも仕入れの条件は良くなる。実際に売上高と営業利益は3年で目標線を越え、供給棟数と市場シェアは統合前の各社が単独では届かない水準へ上がった。ただ、6社が商号もブランドも残したまま並存する構えを崩さなかったところに、この統合の性格がよく表れているとみることができる。
6社を溶かして一社にすれば、重複する営業網と用地情報の窓口は減らせる。それをしなかったのは、短期回転の量産モデルが現場ごとの判断の速さに支えられていたからで、統合の効き目は買う側の交渉力に絞られた。一方、売れ残った物件を期末に値下げして売り切る作法は統合後も変わらず、決算期をそろえた2015年春の郊外には1,000万円台の新築戸建てが並んだ。安く大量に建てる仕組みを6社分まとめた結果、価格の下押しもまた6社分の規模で市場へ効いた。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
背景
のれん分けで枝分かれした6社
飯田グループと呼ばれた各社は、1967年に飯田一男氏が設立した飯田建設工業(現・一建設)から人と手法が分かれて生まれた。東栄住宅、飯田産業、伏見建設(現・アーネストワン)、タクトホームはいずれも同社と資本関係を持った時期があり、1995年までに順次それを解消して独立系となった。2000年の東京都の完工棟数では、飯田建設工業・東栄住宅・飯田産業の3社が合計1,700棟を供給し、貸家を含まない分譲持ち家に限れば都内で首位に立っていた。当時の飯田建設工業の役員は、3社の関係を「全くなく、お互いにライバル」と語っている[1][2]。
6社に共通していたのは、土地の仕入れから引き渡しまでを5カ月で回す短期回転の量産モデルであった。飯田産業の森和彦社長は2000年の取材で、30坪程度の建物の原価は約970万円であり、在来工法で80日かかる工期を通気壁パネルの採用で実働49日に縮めたと説明している。土地情報は街の不動産業者2,700社から集め、仕入れの可否は原則72時間以内に決めた。資金の回転率がそのまま採算を決める設計で、規模の拡大は仕入れ量と資金量の拡大に直結していた[3]。
値下げ競争と用地の奪い合い
2000年代前半、地価の下落と団塊ジュニア世代の需要が重なり、首都圏の分譲一戸建ては拡大した。2003年度の首都圏の分譲一戸建て着工は前年度比16.8%増の6万5,137戸となり、平均3,000万円台の物件を大量に供給する各社は「パワービルダー」と呼ばれた。東栄住宅の佐々野俊彦社長は2004年の取材で、飯田グループが首都圏市場の3割のシェアに達していると述べている。同じ年、積水ハウスが子会社を通じてこの価格帯へ参入した[4][5]。
市場が広がるほど、用地の取り合いは激しくなった。2004年には首都圏の戸建て用地が大手ハウスメーカー・デベロッパー・地場の不動産会社・パワービルダーの入札で競り合う対象となり、高値落札の例も出ていた。2010年代に入ると国内の住宅着工が伸び悩み、販売と用地確保の両面で住宅大手との競争が強まった。6社はそれぞれ上場して資金を得ていたが、同じ商圏で同じ土地を奪い合う関係のまま、原価を削る余地は細っていた[6][7]。
決断
6社を1つの持株会社に束ねる
2012年12月25日、一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホームの6社は、2013年11月をめどに経営統合すると発表した。共同株式移転で持株会社を新設し、6社がその完全子会社として傘下に入る方式である。6社の2011年度の売上高を単純合計すると7,789億円、年間販売戸数の単純合計は2万6,000戸以上で、当時の業界首位である積水ハウスの約1万7,000戸を上回る規模であった[8][9]。
統合の狙いは、資材の共同調達と用地取得の交渉力に置かれた。発表時点の売上高は一建設2,180億円、アーネストワン1,870億円、飯田産業1,370億円、東栄住宅1,020億円、タクトホーム768億円、アイディホーム554億円で、規模の差はそのまま残したまま1つの傘の下に入る。6社は中核事業である戸建分譲とマンション分譲の競争力強化に加え、中古住宅・リフォーム事業の強化と海外市場への進出も統合の目的に挙げた[10]。
比率と会長・社長の決着
2013年6月27日、6社は経営統合契約を締結し、株式移転比率を決めた。一建設の1株に対して新会社の3.14株、アーネストワンの1株に対して1.16株といった比率で、持株会社の資本金は100億円とされた。社名は飯田グループホールディングスと決まり、会長に一建設の飯田一男氏、社長にアーネストワンの西河洋一氏が就く人事も同時に示された。統合後の6社合計の売上高は約9,000億円で、住友林業を上回る規模となる見込みであった[11]。
同じ発表で、3年後に売上高1兆1,000億円・営業利益1,000億円という目標を掲げた。2013年7月に飯田産業の株主総会が株式移転計画書を承認し、8月には残る5社の株主総会も承認した。11月1日、共同株式移転により飯田グループホールディングスが東京都西東京市に設立され、同日付で東京証券取引所市場第一部へ上場した。6社はそれぞれ上場を廃止し、持株会社の完全子会社となった[12][13]。
結果
3年後の目標に届いた規模
持株会社の連結売上高は、設立初年度の2014年3月期に7,538億円、6社の決算期を3月期にそろえた2015年3月期には1兆1,881億円となった。営業利益は2015年3月期の554億円から2017年3月期に1,136億円へ伸び、統合発表時に掲げた3年後の営業利益1,000億円を上回った。売上高も2016年3月期に1兆1,360億円、2017年3月期に1兆2,324億円と、目標の1兆1,000億円を超える水準に届いた[14]。
決算期の統一は、販売の現場にも表れた。2015年春、首都圏郊外では引き渡しまで3週間を条件に大幅な値引きを提示する物件が増え、千葉県北西部では4LDKで1,280万円という新築戸建ても現れた。首都圏の新築戸建ての平均成約価格は2007年の4,023万円から2014年には3,415万円へ下がっていた。仲介業者は安さの理由に、売値から逆算した土地の仕入れとグループ企業内の建材共通化、そして年2〜3回転の速さを挙げている[15]。
6社を残したままの統合
統合後も、傘下6社は商号とブランドを別々に保った。マンション分譲では一建設が「プレシス」、アーネストワンが「サンクレイドル」、飯田産業が「センチュリー」を掲げ、2019年3月期にグループ各社の合計で全国に1,437戸を供給した。一建設が都市部の好立地を取りにいく一方、アーネストワンは郊外に絞り、大手デベロッパーが4,000万円で供給する地域に3,000万円で出す価格差を武器にした。6社を1つの事業会社へ溶かす選択は採られなかった[16][17]。
量の面では、統合の効果が数字に残った。2024年3月期の分譲戸建住宅の販売棟数は40,493棟、分譲戸建住宅市場のシェアは28.3%で、連結売上収益は1兆4,391億円となった。飯田グループホールディングスは、この供給実績を背景とする対外交渉力と、全国46都道府県に敷いた営業・施工のネットワークを経営資源として挙げている。統合前の6社が単独では届かなかった水準に、供給棟数もシェアも上がった[18][19]。
- 日本経済新聞(2012年12月25日)「戸建て住宅6社が経営統合で合意 来年11月に共同持ち株会社」
- 日本経済新聞(2012年12月25日)「割安戸建て6社が経営統合 一建設・飯田産業など 来年11月メド、販売戸数最多に 資材共同調達、収益力高める」
- 日本経済新聞(2013年6月27日)「戸建て住宅6社、統合比率など決定 一建設など」
- M&A Online(2012年12月25日)「一建設<3268>、飯田産業<8880>など住宅分譲の上場会社6社が経営統合」
- 週刊東洋経済 2000年11月18日号「[企業レポート]飯田産業 分譲持ち家で不況知らず その経営手法の秘密とは」
- 週刊東洋経済 2004年10月23日号「[特集]不動産「底値買い」の成算 第1部 “変質”する住宅市場」
- 週刊東洋経済 2015年5月15日号「戸建て1000万円台が続出! 郊外で進む戸建てデフレ」
- 週刊東洋経済 2020年3月14日号「パワービルダー系が挑む経済性重視のマンション」
- 飯田グループホールディングス 統合報告書2024
- 飯田グループホールディングス 有価証券報告書(連結・IFRS)